祝?予氏医案 肝腎陰虚 肝陽上亢案
差し迫った人工透析を避けるには?
(祝?予臨床験案精選より)
祝?予氏(1914.11.30-1999.8.12)男性,元北京中医学院名誉教授
患者:薫某 40歳 男性 工場労働者
初診年月日:1992年11月2日
主訴:
浮腫 物がはっきり見えなく(見物模糊)、頭痛があること2ヶ月間
病歴:
今年の9月に最初は顔面浮腫を自覚し、突発性の頭痛と眩暈を伴った。頭痛時には物がはっきり見えない。現地の病院の検査で、血圧26.62~34.3/18~13.3kPa(199~257/135~100mmHg、尿蛋白(2+)~(3+)、尿中赤血球無数、クレアチニン、BUNの上昇があった。
腎シンチグラムでは両側腎機能の高度な傷害を示した。
眼底検査で動脈硬化と出血有り。急性糸球体腎炎として入院となった。
ペニシリン、心痛定(nifedipine: Ca拮抗剤)、?搏通(captopril:ACEI ACE阻害剤)などの治療1ヶ月で、水腫は好転、血圧は下降、但し、腎機能が回復せず、北京に来て祝氏を受診した。
コメント:Ca拮抗剤のnifedipineはかなり強力な降圧剤であり、効きすぎることもあるので、今では徐放剤になりました。最初は効果に飛びつくものです、ついで、脳血流量の急激な減少によるハイリスクな脳梗塞準備状態の患者を急激に降圧してはならないという認識が一般化されました。
コメント:ACEIは略語で血管を収縮させるホルモンのアンギオテンシンの体内合成を阻害する、アンギオテンシン コンヴァーティング エンザイム インヒビッター類の初期のころの薬剤です。現代日本ではより進化したARB製剤を使用することが一般化されつつあります。
初診時所見:
血圧20/13.3kPa(150/100mmHg) 尿蛋白15mg/dl、赤血球(-)、クレアチニン7.0mg/dl、BUN 85mg/dl。
コメント:通常はこのまま手をこまねいているうちに早晩、
血液透析に導入されます。それが日本の大方の現状です。
現症:両眼瞼軽度浮腫、頭痛眩暈、見物模糊、腰膝酸軟、二便は異常なし。舌淡胖、舌辺に歯痕有り、苔薄白、脈弦滑数。
弁証立法:肝腎陰虚 肝陽上亢
治則:滋補腎陰 平肝潜陽
方用:杞菊地黄湯加味
処方:枸杞子10g 杭菊花10g 生熟地各10g 山薬10g 山茱萸10g 牡丹皮10g 茯苓15g 澤瀉10g(ここまでが古典的杞菊地黄湯です)白茅根30g 益母草30g 川断15g 桑寄生20g 菟絲子10g 懐牛膝10g 夏枯草15g 鈎藤10g 毎日1剤 水煎服用
経過:上方7剤服用後に、祝氏の腎内科病室に入院となった。
診断:
慢性腎不全 慢性糸球体腎炎 腎性高血圧
入院時検査所見:
クレアチニン5.1mg/dl、BUN37mg/dl、舌淡辺紅、脈弦数。
上方に丹参30gを加え、再度14剤を服用し退院となった。特別な自覚症状はなかった。
コメント:クレアチニン(Cre)、BUNを下げるには、結局は腎血流量を増加させ、糸球体の微小循環を改善させなければなりません。そこで、一旦は下降したものの、やや上昇したに転じたCre,BUNを下げる目的で涼血活血化瘀薬の丹参が配伍されたのでしょう。
血圧17.3/12kPa(130/90mmHg、クレアチニン4.5mg/dl、BUN 33mg/dl。
コメント:丹参の加味と安静により、Cre、BUNがやや下がりましたね。