?增祺氏医案 濁毒内蓄案
中薬灌腸(大黄30g 煅牡蠣30g 蒲公英30g)の紹介
(中医雑誌1981年第9期より)
患者:某 38歳 女性
病歴:
反復性の血尿と水腫10余年、悪心、嘔吐、鼻衄、皮膚掻痒1ヶ月余になり、
1980年3月18日入院
入院時所見:
体温正常、血圧21.3/13.3kPa(160/100mHg),表情は淡で無表情であり、貧血様顔貌、呼気に尿臭あり。心拍88/分。不整脈無し、但し心尖部に軽度の心膜摩擦音有り、肝は季肋下2.5cm蝕知、両側下肢に軽度の陥没性水腫あり。
ヘモグロビン6.8g/dl、WBC6300、血小板10万9000、尿比重1.008(比重低下があります)尿蛋白定性100mg/dl、
BUN 66.4mmol/L(398.4mg/dl) Cre 1326μmol/L(15mg/dl)、
血?(血清Ca)2.7mmol/L(正常値2.25---2.75mmol/L)
血燐2.6mmol/L(血清燐P 基準値2.5~4.5mg/dL)
血?3.9mmol/L(血清K基準値3.5-5.5mmol/L)
血?144mmol/L(血清Na 基準値 135~145 mmol?L)
血?115mmol/L(血清Cl基準値96~108 mmol?L)
クレアチニンクリアランス3.8ml/min
(コメント:完全に腎不全であり、日本では既に血液透析に導入されるレベルを越えています)
腎シンチグラム:両側腎無機能
胸部レントゲン検査:
心拡大 両側肺門部浸潤影、肺水腫(尿毒症性肺炎の疑いあり)
診断:尿毒症 慢性(腎盂)腎炎
入院後経過:
入院2日目から中薬灌腸(大黄30g 煅牡蠣30g 蒲公英30g)毎日1~2回、同時に
降圧静(Ca拮抗剤 nicarpidine,或いはdiltiazemのいずれかを指すと思われるが、どちらかは医案解析のみでは不明)一回1錠一日3回服用、速尿(furosemide)、1回20mg、一日3回注射。入院時は悪心、嘔吐、食べる量は極めて少なかったが、1週間後に悪心嘔吐消失し、食欲が増進した;胸部レントゲン検査にて心拡大は消失、“肺水腫”消失;皮膚掻痒、手足の麻木感(痺れ感)もまた消失。BUNは160mg/dlに下降、Creは(増減なく)水平に変化した。
評析
慢性腎不全時には、腎の尿毒症性物質の排泄が大幅に減弱する。胃腸道は尿毒素の排泄の重要なものの一つである。
本案の尿毒症は中医の関格に属し、濁毒が内蓄し上格下関をなし、迫血妄行するもので、治療選択肢の一つに、「大黄煎剤灌腸」、「結腸透析方」がある。
薬理研究では、大黄には瀉下作用、抗菌消炎作用、涼血、止血、健胃利胆、降圧などの作用があり、尿毒症期の病人の出血を防止し、食欲を増進させ、高血圧を緩やかに改善するのに有益である。蒲公英は清熱解毒、抗菌消炎に作用し、腸の蠕動運動を促進させ、大黄と合わせて止血作用を増強し、大黄の副作用を減少させる。近年、「大黄煎剤灌腸」、「結腸透析方」の研究が多い。大部分は慢性腎不全の非終末期の病状改善に用いられる。方法が簡便な上に、費用対効果という意味で評価される。一定の臨床的な特色を持つが、さらに一段の観察と論考が必要である。
ドクター康仁のコメント
医案中の「心尖部に軽度の心膜摩擦音有り」について、評析では言及していませんが、もし尿毒症性の「心外膜炎」が進行すれば現代日本でも救命は難しいのです。
日本の10倍以上の人口を抱える中国で、日本と同じ人工透析を行う医療システムであれば、およそ300万人の患者が発生することになります。経済大国中国ですら、その医療費を国が負担することは不可能でしょう。そうなると、対費用効果で、非終末期までは漢方治療で腎不全の進行を抑え、腎臓移植へとならざるを得ないと思います。
治本の原則からすれば、慢性腎炎の進行を抑えられれば医療費の増大に歯止めがかかるのですから、日本政府文科省、厚労省も協力して大学の「漢方講座」の充実を図るべきでしょう。
以前の読者のコメントで
はじめまして。
先生のブログいつも参考にさせていただいてます。
ところで、中国、台湾の中医師による処方の方が、日本人薬剤師、医師による処方よりも優れているのでしょうか?
量も日本のは少ないですよね。
ヤーシーさんにお答えします。
何処の国でも、人によりけりです。優秀な人材もいれば赤子程度な方々もいます。ただし、知識と経験の積み重ねという意味では、日本漢方は1000年ほど遅れていますので、ある生薬の特定の物質を研究する基礎医学的な分野では、日本が優位な部分もあるでしょうが、こと患者に対する実践的治療技術となると、1000年のギャップは言うまでも無く埋め尽くすのが困難であり、使い物にならない医師、薬剤師が非常に多いのが日本の現状です。
コメント有難うございました。
2013/04/20(土) 記