丁櫻氏医案 陰虚内熱兼血瘀案
(河南省中医学院学報2003年第1期より)
患者:呉某 11歳 女児
病歴
過敏性紫斑病性腎炎4ヶ月、臨床症状は血尿と軽度の蛋白尿を伴う。
腎生検で軽度の増殖性腎炎像であり、蛍光抗体法ではIgA(3+) IgG(+) C3(-)C1q(-)。
初診年月日:2003年2月10日
(初診時までの概略)
患児は4ヶ月前発病、両下肢に対称性に紫斑が出現、1週後尿検査異常、小児科医院にて、抗感染薬(抗菌剤あるいは抗生物質か)、ビタミンC、芦丁(ルチン:おそらく血管強化の目的で使用されたと推定)、中薬などの治療効果がほとんど無かった。
初診時所見:
両下肢に少量の皮膚紫斑、色暗紅、手足心熱、比較的多く汗をかき、大便偏干、舌質暗紅、苔薄黄、脈数。肝腎機能、血中脂質均しく正常
診断:
弁証は陰虚内熱兼血瘀証に属する
治則:
養陰清熱 活血化瘀
方薬は知柏地黄湯加減
処方:
知母10g 黄柏10g 生地10g 牡丹皮10g 当帰20g 丹参20g 旱蓮草15g 生蒲黄10g 虎杖10g(苦寒 清熱利湿 化痰清熱 清熱解毒) 三七3g 五味子6g 生甘草6g 併用薬として、雷公藤多?片(雷公藤抽出製剤の錠剤)10mg、毎日3回服用(1日量30mg)。
経過:
上方を継続服用10剤で、皮膚紫斑は消失、尿蛋白は陰転、尿赤血球(+)、さらに継続服用15剤で、尿検査正常化し、血尿停顆粒を作成し、1ヶ月治療効果を固め、中止して2ヶ月になるが、尿検査は持続的に正常である。
評析:
血尿の一証のその病機(メカニズム)は総じて血が経脈を循環しないことにより、離経の血となることであり、経絡を瘀血が内阻すると出血が加重される。故に、収渋止血だけでは瘀血を加重することになり、血尿はさらに甚だしくなる。
これに因り、丁氏は治療する際に、活血止血を強調し、止血留瘀を是非とも避けなければならず、茜草 蒲黄 三七などの活血止血薬を特別に好むのである。
長年の臨床経験を基づいて、丁氏は、紫斑病性腎炎の血尿に対して、止血薬を単用するのはよろしくなく、以下のような指摘をしている。
急性期には、顕著な吐血あるいは大便出血がある場合には、短期に止血を以って治療も可であるが、多数の状況下では活血を主として対応し、止血は補佐となり、当帰 丹参 藕節 大薊 小薊 白茅根などを常用し;病の後期には止血を主として対応し、活血も忘れず、収斂止血一辺倒ではよろしくなく、白及、茜草、三七、琥珀粉を好んで使用する。
臨床症状が比較的重い場合、蛋白尿が多く、血尿が反復して消えない場合には、中成薬の雷公藤多?治療を配合して、血尿 蛋白尿が早期に消失する明らかな病状改善もある。過敏性紫斑の反復発作に対して、早期に雷公藤多?を応用すれば腎損の発生を減少させることもある。
ドクター康仁の印象
2000年代初期には「雷公藤多?片」は一時期、全中国的に流行したことが有り、多用されましたが、その後、副作用の報告が相次ぎ、現在では慎重に使用されるようになりました。副作用は肝障害>腎傷害です。
2003年4月6日 記