ザ・モンキーズ1980

2012-03-03 17:05:28 | Music Life
モンキーズといえばコダックのCMを思い出すという私は昭和42年生まれなんだが、私くらいの世代の人間でリアルタイムで聴けたわけでもないのに、モンキーズが洋楽初体験だったりするケースが多いのはそういうことなわけ。

コダックが昔のヒット曲を使ってCMを製作したのは1980年頃。ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」から始まって、ザ・モンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」やジャン&ディーンの「サーフ・シティ」、そしてザ・ダイアモンズの「リトル・ダーリン」まで、4作からなるシリーズがあったのだ。

これらのCMが私に与えた影響は意外に大きい。それまで最新のヒット曲こそが最高と思い、誰よりも早く新曲の情報を手に入れ、誰よりも早く聴き、知っていることがステイタスだった私に、自分が生まれた頃につくられた昔の音楽の素晴らしさを教えてくれたのだから。

これらのCMと前後してモンキーズのTVショーも再放送されて、もちろん私は毎回楽しくその番組を見ていたわけだが、基本コミカルなものでありながらも、時代を反映してなのか、時折シュールでサイケでナンセンスな展開を見せることもあったこのモンキーズ・ショーを見ることで、知らないうちに60年代後半のサイケデリックな音楽や映像を受け入れる準備ができていたのではないかと思う。

そして1980年の終わり、私はジョン・レノンの死をきっかけにビートルズを知ることになるのだが、ビートルズにのめりこんでいくうちに、ビートルズ以前のロックンロール、チャック・ベリーやエルヴィス、バディ・ホリーなどの存在を知ったり、ストーンズやフー、ビーチ・ボーイズといった同時代のライバル的なグループの存在を知ったり、そして60年代後半のサイケデリック・ロック、さらにはツェッペリン、ピンク・フロイド、キング・クリムゾンなど、ビートルズ以降のハード・ロックやプログレッシヴ・ロックの存在を知ったり、というように、いつのまにかロックの歴史を追体験していくようになっていた。

コダックのCMを見たことによる、昔の音楽は素晴らしいという発見は、やがて同時代の音楽なんてゴミだという価値観の形成へとつながっていった。「ロッキング・オン」の渋谷陽一からの影響もあって、レッド・ツェッペリンとキング・クリムゾンこそが究極で、これらを聴けばロックは卒業してもいいと思うようになった。こうした偏見にとらわれたまま、私はしばらくロックを一切聴かなくなり、そのかわりにクラシックばかり聴くようになった。

いわゆるクラヲタの大学生だった私は、ある日フリッパーズ・ギターを知ったのだった。のちに私は彼らを通じてポップ・ミュージックの奥深さを改めて思い知らされることになるわけだが、そんな彼らのラストアルバムには「ヘッド博士の世界塔」というタイトルがつけられていた。彼らは私と同世代だから同じようにモンキーズ体験をしたのだろう。そこから何も生み出せなかった私と日本のロック史上に残るアルバムを作り上げた彼らという、この差は一体どうしてなんだと嫉妬に狂った時期もあったかもしれないが、それも今となっては遠い昔のこと。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする