リラからロングホーンへ

2009-06-18 01:14:06 | Dano Column
古代ギリシャのリラは7弦の弦楽器なんだけど、これには面白いエピソードがある。あるときヘルメスが複数の音が同時に鳴ったらどうなるのか知りたくなって、アポローンから牛と亀を盗んで、牛の腸を弦に、亀の甲羅を共鳴銅にして楽器をつくってみたというのが、リラの誕生にまつわる神話なんだけど、神の気まぐれな思いつきで腸を引きずり出された牛や甲羅を剥がされた亀はとってもかわいそう。

ヘルメスはこうしてつくったリラをアポローンに返し、それ以来、リラはアポローンの楽器となった。アポローンのものになったということは、リラは協和音への関心から生まれた世界の調和を探求する楽器であり、その調和した響きによって人の心を沈静化するものであり、また数学上の比例(協和)を示すロゴスの楽器であると考えられていたということなわけ。

ちなみに、ニーチェの「アポローン的/ディオニュソス的」という対立概念で言えば、ディオニュソス的なパトスの楽器として考えられていたのは管楽器のアウロスだね。これにもリラと同様、その誕生にまつわるエピソードがあって、ペルセウスに首を切り落とされたメドゥーサの残された姉妹たちが嘆き悲しむ様を見て心を動かされたアテーナーがアウロスをつくって与えたなんていうのがある。

それはそれとして、時代もくだって18世紀、フランス革命が起こる前にヨーロッパでは古代ギリシャブームになった。ドイツの美術史家にヴィンケルマンというのがいて、古代ギリシャを模範とせよと言ったわけ。これが発端になってシュレーゲルのロマン主義やらヴァーグナーの総合芸術としての楽劇やらニーチェの「悲劇の誕生」やら文学・芸術・思想の大きな流れになっていくんだけど、その影響はいろいろなところに現われて、古代ギリシャのリラを元にした楽器なんていうのがつくられちゃったりもしたわけ。それがリラ・ギター。この楽器は18世紀後半から19世紀の初め頃まで、上流階級の女性がたしなむものとして流行したそうだけどね。

で、このリラ・ギターを見ると、ダンエレクトロのロングホーンというのは、リラ・ギターを参照してつくられたんだなと思う。曲線が強調された装飾性の高いデザインをモダンにシンプルにリメイクしたのがロングホーンといった感じ。ダンエレクトロのロングホーンは弦楽器の原型である古代ギリシャのリラにつながっているという話でした。

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