小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

男子病棟

2008-12-27 20:07:52 | 医学・病気
男子病棟

半年の女子急性期病棟がおわったら、次は男子病棟になった。もう精神科は、大体わかったので、不安は無かった。私は空手が出来るので、どんなヤツが挑戦してくるのか、楽しみだった。映画「ブラックボード・ジャングル」(邦題=「暴力教室」)に乗り込む教師のような感覚である。だが、男子は急性期ではなく、慢性期だったので、暴れる患者は少なく、むしろ、静かだった。女子急性期では、一日中、個室の患者がギャーギャー言ってたので、男子病棟はむしろ静かだった。しかし中にはやっかいな患者もいた。腕相撲と将棋を患者とよくやった。もちろん腕相撲は、私の全線全勝である。将棋はルールを知ってる程度なので、はじめ患者に見事に詰まされた。これでは医者の威厳に関わると思い、詰め将棋の本を買ってきて、読んでみた。詰め将棋の本は面白い。詰め将棋は、「肉を切らせて骨をたつ」である。つまり飛車を捨てて、王手をかけて詰めさせる、というパターンが多いのである。みるみる将棋の実力がついた。相手には、わざと負けて相手に花を持たせるという事はしなかった。そうしている看護士もいたが、私はそういう主義ではない。片八百長で患者を喜ばすのは、子供だましである。いわば、ガン患者に、「治りますよ」などといって慰めるようなものだと思う。患者は医療者が本気で戦っていると思っているから嬉しいのである。ばれずに隠しおおせたら、問題は無いが、たとえばれなくても、本質的な面で、八百長は好きではない。逆の立場になって、相手が自分に手加減されたら私は嬉しくない。タイマンでの決闘も申し込まれたが、これは辞退した。まさか病院で医者と患者がタイマンで決闘するわけにもいくまい。第一、相手は、若く体も大きいとはいえバイク事故で片麻痺になっている患者である。しかも精神薬を飲んでいる。患者同士のケンカもたまにあったが、精神科医はレフリーのようなこともしなくてはならない。
女子と違って、男子の中には哲学を話し合える患者もいた。4月28日に書いた患者がそうである。ある時、患者の親が死んだ。それで、葬式に行く事になった。私と婦長つきそいである。タクシーで行ったが、外出したら逃亡の可能性もある。男は力が強い、し走るのも速い。何より、火事場の莫迦力は強い。逃げても、逃げ切れるものでもあるまい。結局、無事に葬式を終えて、病院にもどった。だが、あとで患者が二万円持っていたことがわかった。
中には病院を脱走して、飯場で半年くらい生活していた患者もいた。私は人の自由は拘束したくないので、こういう患者には拍手したい気持ちである。よくぞやった、と誉めてやりたいくらいである。しかし離院を喜ぶ医者というのも変なものである。しかし結局、彼は幻聴に耐えられず病院にもどってきた。結局、物理的には患者は一時的には病院を脱出できても、病気があるから、いつかは戻ってくる事になるのである。戻って来ずに、ずっと一人で問題なく生活できるなら、その患者は退院の適応になる患者である。
しかし、離院で怖いのは患者が自殺する可能性もあるという事である。
男子慢性期は実に楽だった。
女はともかく、やりにくい。
その点、男はやりやすい。
私は、胸部、腹部の聴診、打診、健反射、など色々と積極的にやった。
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