CORRESPONDANCES

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石井好子 (11) 石井好子音楽事務所と赤軍合唱団

2010年09月29日 11時39分13秒 | 追悼:石井好子

隆盛を極めシャンソン人気を独占したかにみえた石井好子音楽事務所が倒産した。石井好子著「さようなら私の20世紀」でその原因を初めて知った。何が起きるかわからないとは言え、この事件が後々まで災いしたとはそれまで全く知らなかった。それは
チェコ事件と呼ばれる :8月20日夜、ソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5か国軍20万は一気にチェコスロバキアに侵入、ドプチェクら改革派指導者をソ連に連行した。
私は地理が苦手で政治経済と世界史で受験したのだが、高校時代政治経済の授業は一回も出席せず、当然単位を落としている。政治に関心はあるが現実社会(政治経済)に疎いそんな私にもこの事件は耳に入ってきた。報道もされ、日本国内でもソ連に対する怒りの声が沸き起こった。メキシコオリンピックの時の異様なまでの
チャスラフスカ人気も、この事件に起因している。

思い出せば当時うたごえ喫茶が盛んで、歌われる歌はほとんどがロシア民謡だった。この時代に生きた人ならロシア民謡の4,5曲は誰でも歌える筈だ。この事件が勃発するまで親ソ派親中派の学生は、この時代おそらく9割を超えていたのではないだろうか。赤軍合唱団招聘は音楽事務所としては、充分に勝算ありの切り札的大仕事だったにちがいない。1967年から交渉が始まり1968年5月からチケット販売、公演日程は9月から。ところが8月20日突然ソ連軍がチェコに侵入した。

何年か前に上京して靖国神社付近を歩いていると「赤尾敏生誕100周年」のチラシが歩道橋に敷き詰めるように張り巡らされていた。
ー大日本愛国党の赤尾敏総裁が、杖を突きながら7階の事務所まで上がってきて「チェコを侵略した赤の奴らを呼ぶとは何事だ!」と宣伝部のI さんを突き飛ばし首を締めんばかりにしたー
ー「赤軍軍隊日本上陸を阻止せよ」という垂れ幕を張った大型トラックが並び、右翼団体の人たちが「国賊石井音楽事務所!」「赤軍合唱団来日反対」と一日中叫び始めた。-
出典:「さようなら私の21世紀」
この本のそんな文章を思い出した。
当時の視点はわからないが、現代の視点で見れば「石井先生やっぱりそれは、そのタイミングでまずいですよ」の話になる。
’68、音楽・映画・文学・美術、およそ文化と呼ばれるものは、徹底的に左を向いていて、ちょうどこの年’68に世界の若者が様々な意識革命を起こしていく。日本に於いてはその勢いのままに70年安保闘争と高揚していく。
最初「困ったことになった」くらいの印象しかなかったのは、こういった時代の強風が背中を押していたこと、向かいから吹く風は、赤尾敏の勢力だけだったからだろう。世論的には微風である。しかしチェコ事件そのものは、弁解の余地のない露骨なソ連の武力侵略である。「軍服を着ているだけで芸術家なのです」といっても、次第に高まる逆風によって、その声は誰の耳にも届かなくなる。
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ネット上に詳しい経緯が記されているペイジを発見した。
赤軍合唱団
「赤軍合唱団」招聘計画とその顛末
この規模とスケジュールそしてその後始末を考える
だけで私なら卒倒する。しかも原因は他国の事件だ。
赤軍合唱団のペイジ
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赤軍合唱団をYou Tubeで
赤軍合唱団の「アムールのさざなみ」:
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石井先生は赤軍合唱団招聘も、債務処理も、
そして事務所解散残務処理も全部お一人で
誰に寄りかかることもなく、逃げ出すこともなく
現在の流行語を用いれば、粛々とされた。
まさに耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ
絶体絶命の日々だったに違いない。久原房之助
の血が流れていればこそ、乗り越えられた苦難
だったのではないだろうか。人間のスケールを感じる。
戦後Parisのミュージックホールで主役をはっている
孫を見て「女の子は母方の祖父に似るのだ」と
久原氏はいつも喜んでおられたそうだ。
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追記:プラハの春
岸恵子著「30年の物語」にもリアルタイムのチェコ事件が語られる。彼女の自宅にチェコの若者達が逃げ込んでくるのだ。昔に読んだ本なので記憶が朧なのだが、その青年の一人と、岸恵子と思しき女性が淡い恋をする。それと、チェコの若者達のその仲間の中に「存在の耐えられない軽さ」のクンデラがいたと書いてあった記憶がある。
また「プラハの春」に関しては、春江一也氏のリアルタイム体験に基づく小説もある。これも購入して一気に読んだのだが、政治小説というより恋愛小説として、記憶に残っている。
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参照:Barbaraを羽田空港に出迎える
音楽事務所社長としての石井好子氏
ーDu Solei Levant過去記事よりー



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