陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

ギリシャ経済危機が欧州金融界へ与える影響

2010-05-09 08:13:39 | 欧州関係
 ギリシャ経済危機は、端的に言うと

(1)30年間に及ぶ社会主義政権の「ばらまき政治」
   労働者の1/3は公務員で、しかも給与が高い
   年金制度もルーズである
(2)慢性赤字の財政なのにEUに加盟し、経済データを捏造していた
(3)国民の税務認識のいい加減さ
   付加価値税20%を国家に収めず、商品の10%割引などが日常化
(4)海運業と観光業が中心で、リーマン・ショックの影響が大
(5)温暖な地中海地域が醸(かも)す楽天的な国民性

が生み出したと言える。ギリシャがEUに加盟しても、自国通貨ドラクマを残せば、英国のように為替管理である程度は財政危機を緩和出来たかも知れぬ。

 ギリシャ政府と議会は、(1)~(3)の抜本的改革を行う国家予算を組んで、EUとIMFの融資パッケージを取り付けたが、甘えた体制に慣れ切ったギリシャ国民はこの改革を全く納得しない。今月初めのゼネストでは、デモ隊に襲われて銀行員3人が犠牲になる悲劇も起きた。公務員が先頭に立って、政府の方針に反対するのだから何とも凄まじい。

 国家が経済危機に陥った時は、国民が気持を揃えて臥薪嘗胆(がしんしょうたん)しなければ国際的信用が得られない。1998年のアジア経済危機では、韓国もIMFの支援を受ける状態になったが、韓国民はウォン切り下げを伴う数年間の辛抱を続けた。その陰には、日本による巨額債務保証があったのが大きいのだが・・・。

 ギリシャの赤字国債を大量に購入し続けたのは、ドイツ金融筋である。だから、今回のギリシャ救援でもメルケル首相は同意を渋った。安易にギリシャ支援を表明すれば、5月9日の州選挙で、同国有権者に強烈に批判されるのを恐れたからだ。ドイツ国民は、自分達が蟻で、ギリシャがキリギリスであると明確に認識している。それでも、PIIGS問題の重要性を考慮して、ドイツ政府はギリシャ支援に踏み切った。

 だが、国際金融界はEU+IMFの1100億ユーロ緊急融資と言う支援パッケージ(3年間)では、ギリシャ問題を収束出来ないと予想、更に格付け機関のギリシャ国債(=ソブリン債)の評価落ちから、ギリシャ政府が3年間で1100億ユーロもの巨額を返済するのは不可能と判断して、ユーロ売りに出た。

 多分、4月中旬のG20会議における為替判断が甘かったのだろう。国際金融資本にその隙を突かれ、ギリシャ問題は国際的に拡大してしまった。急遽G7電話会議を行ったが、為替に火が着けば簡単には消えるものでは無い。こうした中で、日経新聞の優等生的発言は、次のようである。

国際協調待ったなしの欧州発金融危機
2010/5/8付

 もはやギリシャ一国という段階を越え、欧州発のグローバルな危機と呼ぶべき事態が到来しかねない。

 菅直人副総理・財務相をはじめ日米欧7カ国(G7)の財務相は7日、電話協議でこの問題を話し合った。市場の動揺が景気や業績に悪影響を及ぼさないよう、政策当局は協調行動に踏み出すときだ。

 まず大きな検討課題は、ギリシャ支援の枠組みの見直しだ。

 ユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)による金融支援に際して、ギリシャは大幅な財政赤字削減を約束した。2009年に国内総生産(GDP)比で13.6%に達した財政赤字を、14年に3%以内に抑える内容だ。ギリシャは3年間で300億ユーロの財政赤字削減法案を可決した。

 もちろん緩み切った財政の立て直しは必要。だが、財政引き締めが景気と雇用を悪化させ、社会不安を増幅させる悪循環も懸念される。

 とりわけユーロ圏に属するギリシャの場合、過去に経済危機に陥った国々と違い、自国通貨切り下げによる外需主導の景気立て直しという道が残されていない。

 財政規律などの条件は、衰弱したギリシャ経済の実力に見合った現実的なものにすべきだ。問題の震源地であるユーロ圏の諸国が責任を持って再建の後押しをすることで、信認を担保する必要がある。

 金融市場の安定も差し迫った課題だ。ギリシャ国債は米格付け会社によって「投機的」水準まで格下げされた。欧州中央銀行(ECB)は、引き続き資金供給の担保として受け入れると発表したが、ギリシャの民間銀行は欧州の銀行間市場で資金調達が非常に困難になっている。

 不信の連鎖はギリシャ向けの与信額の多いフランスやドイツの銀行にも及びつつある。ECBは潤沢な資金供給を続けるだけでなく、危機対応をもっとしっかりすべきだ。欧州勢がドル資金の調達に支障を来すような事態に備え、米連邦準備理事会(FRB)との間で、ドルとユーロとの通貨スワップ(交換)を復活させることも、そのひとつだろう。

 外国為替市場での備えも必要だ。ユーロ安が加速し、信用不安との連鎖が起きかねないときには、ユーロ防衛の協調介入に乗り出すことを確認しておく必要がある。ユーロ安の裏側で円高が進めば、輸出企業への打撃が大きい日本もこの点では協力の余地が大きい。
米国や日本の株式市場も動揺しているが、問題の根元にある欧州の危機を収拾しなければ、事態は沈静しない。G7は真価を問われる。

http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE2E4EBEAE7E5E7E2E2EAE2E7E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D


 私は、ギリシャが30年間の放漫な国家経営の責任を取って、国家破綻するのが一つの選択だと思う。その時、ギリシャのソブリン債は悉(ことごと)く紙くずになり、暫くは国家の信用を失うだろう。そして、冷静になったギリシャ国民の判断で、EU離脱があっても止むを得ないと考える。国家破綻しても、ギリシャにはオリーブなどの農業、それに繊維業があるから、国民は飢えること無く最低の生活を維持出来るはずだ。

 これ以上、ギリシャ救済パッケージで融資金額を上積みしても、ギリシャ国民の意識が変わらない以上、根本問題の解決にならない。その資金を欧州全体の金融流動性確保に準備することがより肝要と思うのである。

 EU内の信用不安を除去するには、ガンの切除手術が必要だ。

 フィナンシャル・タイムズは、かなり具体的に欧州危機の姿を記述している。長いけれども、全文引用しよう。


欧州全域に垂れ込める暗雲、銀行危機再び?
2010年05月08日(Sat) Financial Times

 ユーロ圏と国際通貨基金(IMF)によるギリシャ支援策には不確定要素が多々あるが、1つ確かなのは、ギリシャ向け融資が望んだような効果をもたらさなかったということだ。その結果、欧州の銀行に再び暗雲が垂れ込めることになった。

 ギリシャに対する1100億ユーロの緊急融資パッケージの目的は、ギリシャが財政危機を解決するまでの時間を稼ぎ、ギリシャはデフォルト(債務不履行)しないと請け合ってソブリン債市場を安心させることだった。これは失敗に終わった。

ギリシャ危機の余波で欧州の銀行に重大な懸念

 5月2日に救済パッケージが発表されて以降、ギリシャの3年物国債の利回りは11%から17%に跳ね上がった。

 さらに厄介なことに、投資家がリスク回避の動きを強めたため、ほかのユーロ圏周縁国でも国債利回りが高騰した。スペインとポルトガルの3年物国債の利回りは5月第2週の1週間で、1ポイント以上も上昇した。

 ギリシャの問題が他国の国家財政に与える直接的な影響は小さいかもしれないが、投資家がソブリンリスクから手を引く動きは、欧州の銀行に重大な問題をもたらす恐れがある。

 銀行は、保有しているユーロ圏周縁国のソブリン債の評価損や、ギリシャ経済に絡む融資の貸し倒れ損失によって直接打撃を受ける恐れがある。また、銀行の資金手当が突如枯渇し、事業を展開する資金を得られない事態になっても大きな打撃を受ける。

 最初の2つはソルベンシー(支払い能力)の懸念であり、3つ目は流動性不足の問題だ。この3つはすべて、銀行に致命傷をもたらしかねない。

 欧州の銀行は今、2007~08年にもそうしたように、ギリシャに対する直接的なエクスポージャー(投融資の残高)を公表してギリシャ国債市場の問題に耐えられることを示し、投資家を安心させようとしている。

市場を安心させようと躍起になる銀行

 5月5日にソシエテ・ジェネラルがギリシャ国債に対するエクスポージャーが30億ユーロあると発表すると、翌6日にはBNPパリバが50億ユーロのエクスポージャーがあると発表した。

 両行が明らかにした額は、利益の規模からするとまだ小さい。BNPパリバとソシエテ・ジェネラルの場合、先に発表した2010年1~3月期決算で、それぞれ23億ドル、11億ユーロの純利益を計上している。

 野村の銀行アナリスト、ジョン・ピース氏は6日、「ギリシャがデフォルトした場合でも、フランスの銀行が保有しているソブリン債の量は対処可能なレベルだ。4半期決算で多額の損失を出すことになるが、年間では利益を出せるはずだ」と語った。

 スペインでも、サンタンデールがギリシャ向けのエクスポージャーが2億ユーロあると述べる一方、バンコ・ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア(BBVA)のCEO(最高経営責任者)、アンヘル・カノ氏は、同行が保有するギリシャとポルトガルのソブリン債は「取るに足らない」と述べた。

 ドイツでは、ソブリン債のエクスポージャーが最も多いのは、公的部門の金融事業をビジネスモデルとしている銀行、つまり、ヒポ・レアル・エステートと、コメルツ銀行傘下のユーロヒポだ。

 6日に発表されたコメルツ銀行の1~3月期決算では、同行の公的金融事業は31億ユーロのギリシャ向けエクスポージャーを抱えていた。国営化されたヒポ・レアル・エステートは2009年末時点で、スペイン向けに230億ユーロ、イタリア向けに390億ユーロ、ギリシャ向けに99億ユーロのエクスポージャーがあった。

問題はソルベンシーリスクより流動性リスク

 問題は、投資家を安心させるような情報が本当であっても、当局者が懸念しているのは、ソルベンシーリスクよりも、むしろ流動性リスクだという点だ。

 欧州各国の中央銀行では5日、関係者らがオフレコの発言で、本当に懸念されるのは、投資家がリスクが高すぎる、あるいは、リスクを測るのが難しすぎると判断し、銀行の資金調達市場が干上がる事態だと話していた。

 そして当局者らには、この過程がひとたび始まると、あっという間に、すべての投資家にとって出口に向かうことが合理的な判断になることが分かっている。銀行の資金市場には緊迫は見えるものの、今のところ市場は閉ざされておらず、ちゃんと機能している。

 「これまでのところ、銀行は理性的に行動し、互いに資金を融通し合っている」。JPモルガンのキアン・アボホセイン氏はこう言いつつ、もしスペインやポルトガル、あるいはアイルランドで国債入札が不調に終わるようなことがあれば、「さらなる信頼喪失の引き金を引くカーブボール」がいつ放たれてもおかしくない、とつけ加えた。

 2008年初頭に見られた銀行の資金市場の緩やかな悪化は、こうしたリスクがどれほど現実的かを思い出させてくれる。銀行の資金市場が再び閉ざされれば、銀行と欧州各国政府にとっては大惨事となる。

市場が凍結すれば、銀行と欧州各国政府にとって大惨事

 欧州の銀行はそもそも資本金のバッファーを十分持たない状態にあり、資金市場の閉鎖を乗り切るだけの強いバランスシートも持ってない。さらに悪いことに、各国政府の財政はもはや、再び銀行救済を行う財源を簡単に確保できる状態にはないし、一般国民がそのような救済を望んでいないことは言うまでもない。

 また、欧州中央銀行(ECB)は、各国政府にかかる財政再建圧力を和らげるために流通市場で国債を買い取る前例を作るのを嫌がっている。簡単な解決策はほとんど存在しないのだ。

 すべての人が今、ソブリン債市場が5月を何とか切り抜け、景気回復がユーロ圏の国家財政に朗報をもたらすにつれて、市場が落ち着きを取り戻すことを期待している。しかし、そうした展開が保証されていない以上、今必要なのは、銀行の資金市場が突如干上がった場合に備えた次善策だろう。

By By Chris Giles and Brooke Masters in London, Scheherazade Daneshkhu in Paris,Victor Mallet in Madrid and James Wilson in Frankfurt

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3426


(参考)

 ギリシャ経済危機は何故起きたのか
http://blog.goo.ne.jp/charotm/e/8ad5f8afda78e7e7044c41290f6aad81
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