陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

米映画:「頭上の敵機(1949)」を見る

2007-10-05 00:24:09 | 読書・映画・音楽
 昔の映画のDVDが最近は500円で買える。これは有難いと言うわけで、グレゴリー・ペック(当時33歳)が主演した「頭上の敵機」(1949;モノクロ)を入手した。もう50年以上前に劇場で見た映画で、内容は殆ど覚えていなかったが、B-17爆撃機だけは記憶にあった。

 この映画、戦争物なのだが、現在でも中間管理職の人達が見たら随分参考になると思う。例えば、営業売り上げはそれなり確保している事業部で、利益がさっぱり上がらない状況があるとしよう。それは、社員が所期の目的を忘れ、同時に杜撰な気持ちになっている場合が多い。それに悩む事業部長には、大いに考えるヒントを与えてくれるだろう。

 人間でない主役は、4発の重爆撃機B―17F(フライイング・フォートレス;ボーイング社)である。高空飛行用に排気タービン・スーパーチャージャーを内蔵し、13丁の12.7mm機関銃を装備している。爆弾約4トンを搭載。装甲も十分に厚く、密集編隊飛行により撃墜される確率を減らす。乗員10名。ヨーロッパ戦線や中支・西太平洋で大いに活躍した。

 映画では、実写及び大戦中の記録フィルムを巧みに使っており、迫力がある。帰還した爆撃機の車輪が出ず、激しく胴体着陸する場面も実機を用いている。当時の米軍の惜しみない協力があったのだろう。独軍戦闘機も、各地の戦闘を写した記録フィルムを使用し、編集したとのこと。

 以下にストーリーを述べるが、ネタバレになるのでご注意下さい。

 1942年、英国へ進出した米国戦略爆撃隊の基地アーチベリー飛行場には、第918爆撃隊が駐留していた。在英米軍爆撃隊総司令官プリッチャード中将は、ドイツの戦力の源泉となっている在仏軍需工場とドイツ海軍潜水艦基地(ラ・ロシェル港など)を壊滅させようと狙っていた。英国爆撃隊と役割分担して、危険と知りつつも、指揮下の爆撃隊に「昼間爆撃」をさせたが、中々上手くいかない。とりわけ、第918爆撃隊の成果が気になった。

 第918爆撃隊では、隊司令官のキース・ダヴェンポート大佐の下、21機のB17爆撃機が稼働中だ。在る時、連日の渡洋出撃で疲れたナビゲーターのジンマーマン中尉が3分間進路を誤るミスをした。その結果、敵の集中攻撃を受けて5機を失い、50名が戦死する。

 温情家のダヴェンポートは、これを「味方の不運」として表沙汰とせずにいた。日本風の<なあなあ>の風情だ。が、爆撃総司令部運用担当のフランク・サヴェージ准将は、親友である大佐の部下を思う心境をある程度理解しながらも、率直にプリッチャード総司令官に問題の所在を語った。第918爆撃隊の成果不良は、隊長の中途半端なリーダーシップにあると言うのだ。

 プリッチャ―ド総司令官は、直接ダヴェンポートに詰問しながら、サヴェージの指摘したことを確認する。そこで総司令官はダヴェンポートを解任、サヴェージがかつて爆撃隊で活躍したことを思い出し、彼に918爆撃隊の指揮を執ることを命じた。

 サヴェージ准将は、司令官に着任早々衛兵を始めとして隊の士気が著しく弛緩していることを知った。自分のミスでダヴェンポートの更迭を招いたジンマーマン中尉は、責任を感じてサヴェージが来る直前に自殺してしまった。司令官更迭やナビゲーターの自殺もあって、隊内には益々倦怠感が淀み、酒保に逃避するものが多かった。サヴェージは、編隊筆頭責任者のベン・ゲイトリー中佐に対し、「お前は、厄介者だ」と容赦なく弛緩振りを指摘し、編隊責任者を解任する。そして、酒保を閉じて即日猛訓練を開始した。兎に角、基本に返れというわけだ。

 ダヴェンポート大佐とは大きく異なるサヴェージの指揮方針に対し、爆撃機搭乗員の間に動揺と強烈な不満が湧き起こり、転属を申し出る者が輩出した。司令官付副官のストーヴァル少佐は弁護士上がりだが、新司令官の意を汲んで、隊員をなだめる。

 昔取った杵柄、サヴェージは編隊出撃の度に先頭に立って適切な指揮をとり、部隊の責任者として率先垂範する。それが隊員の戦闘意欲を次第に掻き立てた。サヴェージは密集隊形を強く指示する。同僚が墜落しても気にしてはならぬとさえ言い切るのだ。918爆撃隊の成果は目立って向上し、犠牲者は激減した。転属希望者が多いと言うので、監察が入ったが、サヴェージの心を知った若者が転属希望を劇的に撤回、それに引きずられる者が続出した。

 占領下のフランスから爆撃目標はドイツ本土のボール・ベアリング工場へ変わった。本土爆撃ゆえ、ドイツ空軍は戦闘機を増やし、対空砲火を充実させた。918爆撃隊も次第に犠牲を増やすが、サヴェージは怯まなかった。着任当時に無礼な振る舞いをしたが、ゲートリー中佐の後任として昇進させた飛行隊長マジ・コッブ少佐や、名誉勲章を貰った一途な隊員も戦死する。「そうか、あいつも死んだか・・・」。

 使命感に溢れたサヴェージであったが、ここに来て改めて部下を想うダヴェンポートの心境が体得出来たように感じるのだ。それをおくびにも出さず自らの心を励まし、部下を死地に追いやる懊悩に苛まれながら部隊に任務命令を与え続ける。

 こうして心身をすり減らすような激務を続けたため、サヴェージはとうとう精神疾患から来る筋肉疲労に陥り、機内へ搭乗出来なくなった。操縦桿を動かせないなんて。何としてでも指揮機に乗ろうとするサヴェージを副官が必死に止める。「じゃあ、俺の代わりに誰が指揮をするのだ?」「ベン・ゲートリー中佐にしましょう」

 心配して基地に来たダヴェンポートは、サヴェージを叱り付けるようにして励ます。沈黙を守るサヴェージ。ストーヴァル副官に医務室へ行くように言われるが、彼は出撃した部下を司令官室で待ち続けて一睡もしない。やがて彼は、ゲートリー中佐が率いる編隊が帰還する爆音に耳を澄まし、部下の無事と多大の成果を確認すると死んだようになって寝床へ入るのであった。

 その後、サヴェージ准将は回復して昇進したのか、あるいは廃人のようになってしまったのか、映画は全く語らない。戦後数年してロンドンを訪れたストーヴァル弁護士が、骨董店で人面を彫刻した陶器のピッチャー(ビール用の大型容器)を見つけ、それを購入する。この容器は、アーチベリー基地酒保のマスコットであったのだ。

 ストーヴァル弁護士は、それを抱えて汽車に乗り、懐かしいアーチベリーへ出かける。かつての飛行場舗装とコントロールタワーの廃墟は残っていたが、周囲はのどかな牧場に変わっていた。「つわもの共が夢のあと」を眺め、弁護士は静かに去って行った。

      ◇     ◇      ◇

この作品は、第22回アカデミー助演男優賞(ディーン・ジャガー;ストーヴァル少佐を演じる)、及び音楽賞を受賞した。監督は、ヘンリー・キング。ダリル・F・ザナックが製作者である。G.ペックがフランク・サヴェージ准将を演じる。なお、酒保の女性と看護婦がほんの少し出てくるだけで、女優とは全く縁の無い作りになっている。
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