陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

イスラム難民がEU圏を目指して大移動

2015-09-16 03:45:03 | 欧州関係
 衛星TV海外放送を見ていると、先月から英国、フランス、ドイツ、スペインなどの各放送局は、毎日のように中東難民*)移動の様子、あるいは欧州各国政府の対応を詳しく報道している。最近は、我が国国内TV各局もこの問題を少し取り上げるようになった。既に欧州共同体(EU)圏に流入した難民は18万人に達すると言われ、なおバルカン半島や地中海を経由して続々と難民はEU圏へ押し寄せている。

*) 英BBCでは移民(migrant)、米ABCでは難民(refugee) を用いているが、この混乱状態では両者の区別は難しそうである。ここでは、難民の表現を用いる。

 この事態は、メルケル独首相の「難民80万人受け入れ」発言が大きな契機になったと思われる。中東系難民(シリア人、イラク人、クルド人、更にアフガニスタン人も含まれる)には、EU圏南端のギリシャが到着拠点となった。それから鉄道を利用しセルビア経由でハンガリーに到着した難民は、9月に入って突然ブダペスト東駅で足止めされ、同駅は数千人の難民が溢れて機能停止状態になった。一部バス輸送が行われたが、多くの難民は徒歩でオーストリアへ移動し、更にドイツを目指した。

 最近は、あまりの中東系難民の多さに各国政府では難民登録手続きが遅れ、また一時収容施設がパンクして、国境検問を厳しくするようになった。EU圏内の自由通行を許可する「シェンゲン協定」は、事実上停止されたに等しい。慌てたメルケル首相は、EU圏各国に難民受け入れを要請しているが、ハンガリーは勿論、チェコ、スロバキア、ポーランドなど東欧諸国はそれに難色を示している。

 一方、地中海を渡ってイタリアからフランス、英国を目指すアフリカ系難民(リビア、エリトリアなど)も数万人に達し、オランド仏大統領は2万人強の難民受け入れを表明した。英国のキャメロン首相も1万人弱の難民受け入れに言及している。ただ両国共、難民がイスラム教徒であることから宗教的対立を懸念する人々も多いし、強烈な民族主義者は難民受け入れ反対運動を展開して混乱が増大する可能性も孕んでいる。

難民 : 行き場失う…ハンガリーに拒まれ、3万人路頭に
09月15日 21:51 毎日新聞

 【ブリュッセル斎藤義彦】中東などから欧州に難民らが押し寄せている問題で、国境管理を復活させたドイツでは14日に流入した難民らが先週末の10分の1以下の約1000人に激減した。難民を追い出そうとするハンガリーからは14日に約2万人、15日未明に2000人がオーストリアに流入。ハンガリー入りを拒まれセルビアを移動中の難民らは3万人に上るとされ、行き場を失った難民らを巡る対応が今後の焦点となりそうだ。

 人権団体は、セルビアやギリシャに滞留している難民らが、バルカン半島西部のアルバニアを通ってクロアチアから欧州連合(EU)の域内に入るルートを取るか、ブルガリアやルーマニアを通る可能性を指摘している。ロイター通信によると、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は15日、難民らがハンガリーを回避するルートを模索するため、周辺国に協力を働きかけていることを明らかにした。

 ドイツでは、オーストリアからの列車は国境付近で止められてパスポートの確認が行われている。14日にはオーストリアとの国境付近のフライラッシングで列車に乗っていた難民ら500人を警察が収容施設へと送った。高速道路でも難民らを乗せたワゴン車やトラックなどを中心に検査が続いている。先週末に1万6000人以上が到着した南部のミュンヘン駅では、15日に到着したのは850人にとどまり、難民らのドイツ入りは困難な状態となっている。

 ハンガリーは14日に9000人の難民を収容したと発表した。難民登録を行うとしているが、国外に出そうとする動きもあり、同日、オーストリア側に約2万人が出た。
 ハンガリー国境付近のオーストリア・ニッケルスドルフでは約1万7000人がテントなどで野宿した。オーストリアは、公共施設などに収容しようとしているが、満杯になっているという。ハンガリー国内には約6万人がまだいるとの予測もあり、オーストリアに難民らがさらに集中する事態も懸念される。

 ドイツの国境管理強化のしわよせを受けた形のオーストリアのファイマン首相は15日、ベルリンでメルケル独首相と会談して対策を協議した。しかし、ドイツ側も準備が進んでおらず、両国の間で難民らの押し付け合いは当面は続きそうだ。
http://mainichi.jp/select/news/20150916k0000m030106000c.html

 欧州は、ギリシャ財政問題、ウクライナ内戦紛争に加え、イスラム難民への対応という大変な自体を迎えた。特に難民問題は、人権尊重を標榜する欧州為政者にとって頭の痛くなるような内容を含んでいる。さし当たっては、難民への経済支援、社会福祉と教育の問題が欧州各国に多大の負担を強いることになる。興味深いのは、こんな事態になっても、有能な(?)パン・ギムンUN事務総長は何ら動こうとしないことである(笑)。

 中・長期的には、各国に定着した難民が独自の宗教的コミュニティを形成して行くと予想される故、民族的対立や宗教的な対立が次第に顕在化するであろう。メルケル首相は5年前に異民族共存は難しいと言う内容の発言をして物議を醸(かも)した。それとは趣(おもむき)の異なる「80万人難民受け入れ」構想は、少子高齢化に悩むドイツ国内の労働力確保が背景にあると思われるが、民族国家の維持に破綻を来す可能性がある。それは、EUと言う緩やかなキリスト教連合体の存在を脅かすであろう。


 この問題に関して、長谷川良氏がオーストリア国内の反応をブログ<ウィーン発『コンフィデンシャル』>において

欧州のイスラム化は避けられるか
http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/52115342.html

新境地「愛されるドイツ」の行方
http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/52114976.html

という論考を述べられている。中々考えさせられる興味深い内容と思う。

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