陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

山男の愛唱歌<穂高よさらば>を聴く

2006-05-05 18:54:15 | 読書・映画・音楽
 連休たけなわの5月1日、北アルプス針ノ木岳で50代の方達5人が巻き込まれ、3人が死亡する傷ましい雪崩事故があった。何と言う事だろうか。
http://www8.shinmai.co.jp/yama/2006/05/02_001870.html

 今年は大雪で、山岳地帯は残雪が多いからスキー客、そして登山好きの人達に呉々も安全を意識して山を楽しんで欲しいと願う。

 北アルプスと言えば、松本市から入る上高地、それに連なる穂高山系は老若男女を問わず人気が高い。そして、穂高へ行った人達が何とは無く口ずさむ歌、<穂高よさらば>がある。

穂高よさらば 横内正&山の仲間達



 とても覚え易く、機会があると山男達が好んで唄う歌だ。これには、幾つかのバージョンがある。「山靴の音」(中公文庫)の著者で、アイガー北壁制覇のアルピニスト、芳野満彦氏が替え歌作詞したものを取り分け私は気に入っている。これを芹洋子さんが透き通った声で伸びやかに唄うCDもある。
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005UD8P/qid=1146831444/sr=8-2/ref=sr_8_xs_ap_i2_xgl15/250-0532888-6065857

穂高よさらば

作詞:芳野満彦
作曲:古関裕而  (キングレコード版)

一.穂高よさらば また来る日まで
  奥穂に映ゆる 茜雲
  かえり見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る ジャンダルム

ニ.滝谷さらば また来る日まで
  北穂へ続く 雪の道
  かえり見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る 槍ヶ岳

三.涸沢さらば また来る日まで
  横尾へ続く 雪の道 
  かえり見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る 屏風岩

四.岳沢さらば また来る日まで
  前穂を後に 河童橋 
  かえり見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る 畳岩

(少し蛇足の説明)

ジャンダルム(Gendarme):西穂高岳方面から行くと、奥穂高岳の前に聳える丸い突端の岩山(標高3163m)を指す。フランス語で、前衛兵・憲兵の意味で、奥穂高岳を守る前衛峰の意味か。磯三男氏のHPで、この岩山の偉容を見せて頂く。
 http://www5d.biglobe.ne.jp/~isom/yariho1.htm

2万5000分の1の地図
 http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.aspx?id=54373500&slidex=400&slidey=0

年輩の方も、この山へチャレンジ。とても人気が高いのですね。
 http://www.joy.hi-ho.ne.jp/h-nebashi/sub1070.htm

 ところで、芳野満彦氏は一聯目だけを作詞し、色々な穂高好きの人達がそれへどんどん歌詞を付け加えて行ったらしい(二木紘三氏の説明)が、違う人が作詞したものでは、

作詞:田村 扇吉
作曲:古関裕而

一、穂高よさらば 又来る日まで
  奥穂にはゆる あかね雲
  返り見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る ジャンダルム

二、穂高よさらば 又来る日まで
  北穂へ続く 雪の原
  返り見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る 槍ヶ岳

三、穂高よさらば 又来る日まで
  前穂へ続く 岩の峰
  返り見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る 又白池

四、穂高よさらば 又来る日まで
  西穂へ続く 岩の峰
  返り見すれば 遠ざかる
  まぶたに残る ピラミッド

 どの替え歌バージョンも、北アルプス穂高岳連峰の雄大な景色を心に描いた良い歌詞だ。まあ、何と言ってもメロディーが素晴らしい。
二木紘三さんが、この歌のMIDIを前奏付きで丁寧に制作して下さった。で、拝聴。
 http://www.duarbo.jp/versoj/v-folksong/hotakayosaraba.htm


 それで原曲はと言うと、実は軍歌。

 東宝映画「雷撃隊出動」の主題歌で、1944年(昭和19年)11月封切り。
 
山本嘉次郎監督、大河内伝次郎、藤田進、河野秋武ら出演。円谷英二が特撮技術担当。同年10月25日、既に残り少ない空母の一隻<翔鶴>は撃沈させられ、神風特攻隊が雄々しくフィリピンで戦っていた。私はこの映画を見ていないが、2006年7月28日DVD化されて発売の予定。

 同じ映画の挿入歌「雷撃隊隊歌」(作詞:海軍雷撃隊員・作曲:海軍軍楽隊員)とは異なる。
この映画の詳しい内容紹介は、 kapon2 さんにおまかせ。
 http://plaza.rakuten.co.jp/kapon2/diary/200509150001/

雷撃隊出動の歌


雷撃隊出動の歌> 1944

作詞:米山忠雄
作曲:古関裕而

一、母艦よさらば 撃滅の
  翼に映える 茜雲
  かえりみすれば 遠ざかる
  目蓋に残る 菊の花

二、炸弾の雨 突抜けて
  雷撃進路 ひた進む
  まなじりたかし 必殺の
  翼にかかる 潮しぶき

三、天皇陛下 万歳と
  最後の息に 振る翼
  おおその翼 紅の
  火玉と燃えて 体当たり

四、雲染む屍 つぎつぎて
  撃ちてし止まん 幾潮路
  決死の翼 征くところ
  雄叫び高し 雷撃隊 


 実に迫力のある歌詞と思う。第三聯は転調して、心を引き締め身を賭しての雷撃遂行の場面となる。将に、この歌の山場で、じっと歌詞を読んでいると静かに目蓋が熱くなるのだ。・・・かえりみすれば、遠ざかる・・・、そう、英霊達は「さようなら、日本、俺達は死んで行くが、お前ら必ず頑張れよ」、彼らはきっとそのように語りかけていたのだ。当時の国民の多くは、戦地で命を掛けて戦う家族達、そして同胞を思いながら、疎開と労働奉仕を通じて身体で強く敗戦を意識していただろう。それは、口には出せなかっただろうけれども。

 実は、敗戦直後に年端も行かぬ小さかった頃、私は家にあった様々な軍歌のSPレコードでこの歌を何度も聞いた事がある。「大平洋行進曲」、「出征兵士を送る歌」や「空の神兵」とは少し違っていて、全体に哀愁の漂う軍歌だなと幼いながらに感じていた。でも別れの歌のような雰囲気に変わった「穂高よさらば」の背景に最近まで殆ど気がつかなかった。鈍いんですね。

 替え歌を作られた芳野さんは、映画封切の頃13才位か。多分、多感な軍国少年であったろう。この映画を見られて、誇りと共に忘れられないものがあり、長じて悠久の山の姿を見た時に、メロディーに託して御自分の気持を訴えておられたのかも知れない。

 ただ今、私は英霊に合掌をするのみである。


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