満月が煌々と輝く真夜中、私は人里離れた断崖の上に立ち、静かな海面を眺めていた。此処は、竜飛崎だろうか?右手方向奥にイカ釣りの漁火が微かに見える。
左手方向に目をやると、小さな黒い物体が遠くに見えたが、それがどんどん近づいて来た。やがてそれは、海の上をゆっくりと駆けて来る人馬であると知れた。馬は全体に青白く、そして痩せているが、大きな眼は爛々と輝いている。
騎乗していたのは、黒い詰襟服に身を包んだ肥満体の男。刈り上げた頭には、黒電話のような髪の毛がちんまりと載っている。左手に手綱、右手には黒い杖状の物体を握っていた。やがて、人馬は私の見降ろしている崖の前で止まった。馬は男の体重に堪えかねて、今にも倒れそうだ。
突然、男は杖を頭上に高く放り投げた。不思議なことに、杖は太くて長い円筒形に変化し、ゆっくりと舞い降りて男の傍へ水平になって近づいた。体形に似合わず、男はヒラリと円筒にまたがり、馬の周囲を二度、三度と回っていたが、断崖の上にいる私を認めてにやりとした。
突然、円筒は轟音を発して仰角45度方向に上昇し始め、月を目掛けて速度を上げた。そして、その姿は間もなく消えて行った。一方、青白い馬は音もなく海の中へ沈み去り、海面は元のように静かになった。
私は、そこで目が覚めた。ベッドの上で転寝(うたたね)をしていたのだ。傍らには、五木寛之の<蒼ざめた馬を見よ>(文春文庫)が転がっていた。
さて、<蒼ざめた馬>は、ヨハネ黙示録において現れる不吉な動物。
同黙示録によれば、子羊が七つの封印を開封する場面がある(6章-8章5節)。次は、wikipedia による解説。
- 第一の封印:白い馬。勝利の上に更に勝利を得ようとして出て行く(6:1-2)
- 第二の封印:火のように赤い馬。戦争をもたらす(6:3-4)
- 第三の封印:黒い馬。飢饉をもたらす(6:5-6)
- 第四の封印:青ざめた馬。死をもたらす(6:7-8)
- 以下略
つまり、蒼ざめた馬に乗っていたのは、死神である。私は、夢で現代の死神を見たのであった。
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