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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

扉をたたく人

2019-01-23 15:59:53 | 映画
 妻に先立たれ、仕事にも私生活にも無気力になってしまった大学教授が、ふとしたことで不法滞在者の若いカップルと知り合うことによって、生きる希望を見出していきます。
 9.11以降のニューヨークを舞台に、格段に厳しくなった難民や移民の審査、不法滞在者の摘発、そして強制送還といった過酷な現実が背景になっています。
 そういった社会問題も重要ですが、それ以上に生きる目標を失った初老の男性の姿が、私も同世代だけに余計に身に染みました。
 しかし、この映画の主人公のように他律とはいえ新しい生きがいを見出している人はむしろ少数で、映画の冒頭に描かれたような無気力状態に陥っている人たちが大半なのではないでしょうか。
 少なくとも主人公は、コネチカットの自宅以外にニューヨークにアパートメントを持っているほど裕福ですし、大学教授とういう社会的な地位もあります。
 日本でもアメリカでも、大多数の中高年の男性たちは、生活していくので精いっぱいなので、置かれている状況ははるかに過酷です。
 そうした人たち(特にプアーホワイトと呼ばれている貧しい白人たち)に、アメリカ大統領選におけるトランプの移民排撃政策は魅力的に映ったのでしょう。

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津村記久子「カソウスキの行方」カソウスキの行方所収

2019-01-23 15:58:10 | 参考文献
 作品論ではありませんが、簡単にあらすじを述べておきます。
 イリエは、後輩に対する上司のセクハラを告発して、逆に本社から辺鄙なところにある閉鎖される予定の倉庫へ左遷されてしまいます。
 本社へ帰りたいイリエは都内に借りている部屋はそのままにして、倉庫の近くのショッピングセンターのカフェで店長をしている、大学時代の友人のしおりの所に居候しています。
 イリエは両親とも関係が切れていて、もう三年も実家へ帰っていません。
 つきあっいる相手もいないイリエは、将来しおりとシェアハウスを買って一緒に暮らしてもいいかなと思っていました。
 しかし、しおりはカフェでアルバイトをしていた六歳年下の大学生と、その子の卒業を機に結婚することになります。
 そのため、イリエは、会社の借りている古いアパートに移らなくてはならなくなります。
 四面楚歌の状態に追い込まれたイリエは、その窮地を何とかやり過ごすために、同僚のパッとしない森川という男を好きになったと、自分で仮想することにします。
 カソウスキとは、「仮想好き」のことなのです。
 正直言って、小説の出来は彼女のその後の作品と比べるともうひとつなのですが、この作品もポスト現代児童文学の創作理論について示唆に富んでいます。
 学校(特に教師)、友人関係、家庭に阻害されてような、孤立無援になっている子どもたちにとって、仮想した友人、(それは同性でも異性でも構いませんが)、を持つことは、その状況を克服するとまではいかないにしろ、何とかやり過ごす手段として有効だと思います。
 ゲームやネットなどの仮想空間で遊ぶことに慣れている現代の子どもたちにとっては、仮想の友人を描いた作品は親和性の高いものになると思われます。
 また、そういった作品を読むことによって、実際に孤立している子どもたちが生き延びていくためのヒントになるのではないでしょうか。
 友人ではありませんが仮想のペットを持つことで閉塞感を逃れようとした児童文学の作品には、フィリッパ・ピアスの「まぼろしの小さい犬」があります。
 私自身も、幼稚園から小学校低学年のころ、自家中毒という病気で幼稚園や学校を休みがちだったので、「本の中の友だち」(例えば、エーリヒ・ケストナーの「エーミールと探偵たち」のエーミール・ティッシュバインや「飛ぶ教室」のマルチン・ターラーなど)にどんなに励まされたかわかりません。
 その時の体験がなかったら、私は児童文学に関わるようにはならなかったでしょう。
 

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安東みきえ・さく ミロコマチコ・え「ヒワとゾウガメ」

2019-01-23 15:54:51 | 作品論
 あける24号という同人誌に掲載された作品が、2014年に絵本として出版されました。
 作品の内容は、同人誌の時とほとんど変わらないので、そちらの記事を参照してください。
 その時述べたように、主人公たち(特にヒワ)のビジュアル面が文章からはわからない点は、絵本になったことで解消されています。
 作者の作品は哲学的な内容を含んでいるので、子どもたちには難しいかもしれませんが、最近の絵本の読者の中心になっている広範な年齢の女性たちには受け入れられると思われます。
 ミロコマチコの絵は力強くて魅力的なのですが、作者の持ち味である繊細な感覚と練り上げられた文章には、もっと精密なイラスト風の絵の方がマッチしているのではないでしょうか。

ヒワとゾウガメ
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