現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

伊坂幸太郎「FINE」AX所収

2017-11-30 10:33:35 | 参考文献
 凄腕で恐妻家の殺し屋の主人公が第四話で殺された真相を、本人と彼の最愛の息子(殺されてから十年後なので彼自身も結婚して息子がいます)の両方の視点で交互に書いて、追及していきます。
 この作品では、作者の持ち味のユーモアがほとんど消えているので、妙にシリアスであまり楽しめませんでした。
 ただし、主人公とほとんど同じ境遇(息子がいて(ただし二人)、孫も男の子)なので、代々受け継がれていく父親の息子に対する想いはよく書けていて身につまされました。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

本谷有希子「パプリカ次郎」嵐のピクニック所収

2017-11-29 08:47:11 | 参考文献
 露天商の少年と、定期的に台風や雷のように現れ露店を破壊していく暴徒たちとの接触を、シュールなタッチで描いた掌編です。
 なんとなく作者の意図する比喩も想像できるのですが、描き方に迫力がないので印象に残りません。
 児童文学の世界(特に絵本)では、スズキコージの「サルビルサ」(その記事を参照してください)のように、はるかにシュールで、はるかに迫力のある作品がたくさんあります。

嵐のピクニック
クリエーター情報なし
講談社
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グレムリン

2017-11-29 08:46:13 | 映画
 1984年公開の子ども向けホラー映画です。
 これもまた、そのころたくさん作られていたスピルバーグ印(製作総指揮)の映画の一つです。
 当時アイドルだったフィービー・ケイツが出演していたこともあって、日本でもヒットしました。
 中国由来(?)のモグワイというかわいい不思議な動物(光が嫌いで(日光を浴びると溶けてします)、水をかけると増殖し、十二時をすぎてから餌を与えると悪鬼(グレムリン)に変身する)が、大勢のグレムリンに変身して、クリスマスイブの田舎町で大暴れします。
 ストーリー自体はたわいのない物なのですが、CGのない時代に特撮シーンをどう撮影したかには興味が惹かれます。
 作品中で、外国製品批判(おそらく日本製品でしょう)が登場するのが、当時のアメリカの社会的背景を感じさせます。
 古典的な中国人の扱い(神秘性や歴史など)なども、現代だったら変わっていたかもしれません。
 
グレムリン [Blu-ray]
クリエーター情報なし
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

現代における戦争児童文学

2017-11-28 09:54:25 | 考察
 現代において新しい戦争児童文学を書く意味は、よく考えなければならないかもしれません。
 日本では、戦争児童文学は一つのジャンルとして成立するほど多く書かれています。
 その上で、さらに新しい作品を書くのであれば、従来の作品にはない新しい面がなければいけないのではないでしょうか。
 平和な現代の日本に暮らす子どもたちに、戦争が「遠い過去のこと」でも、「どこかの外国のこと」でもなく、ともすれば自分自身も巻き込まれる可能性があることを想起させるような工夫が必要だと思います。
 「戦争は悲しい」、「戦争は悲惨だ」、「戦争は恐ろしい」といった風に、情緒的に反戦を訴えるだけでは、限界があるのではないでしょうか。

戦争児童文学は真実をつたえてきたか―長谷川潮・評論集 (教科書に書かれなかった戦争)
クリエーター情報なし
梨の木舎
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎「EXIT」AX所収

2017-11-28 09:53:00 | 参考文献
 主人公の凄腕の殺し屋が、同等の腕前の同業者と対決します。
 この対決は引き分けに終わるのですが、その後主人公はあっさりと(二行で)別の手段で殺されてしまい、主人公は対決した同業者へ移ります。
 この短編では、作品の一番の魅力である主人公の恐妻家ぶりがぜんぜん生かされていなくて、まったく物足りません。
 息子への愛情(これは同業者も同じです)は他の短編と同様に書かれているのですが、とってつけたようでうまくいかされていません。
 そのため、同業者との対決がメインになっているのですが、こうしたアクションシーンはもっと上手に書ける作家はたくさんいるので、特に魅力はありません。
 他の短編は雑誌に発表されているのに、この作品と次の最終作品だけが書き下ろしになっているようなのですが、それが悪影響(本にするために無理に書かされたかもしれません)しているように思われます。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三崎亜記「正義の味方」チェーン・ピープル所収

2017-11-28 09:52:22 | 参考文献
 ウルトラマンを想起させる「正義の味方」が、実はみんなにとって迷惑な存在(「敵」に壊されるのだけならその被害は国が補償するが「正義の味方」との格闘で被害がさらに拡大されてしかも誰も保障してくれない、「敵」は「正義の味方」がいるから日本だけを襲ってくるのではないか、政争に利用されているなど)になっていったことが、「正義の味方」がいた四十年前を懐古する形で語られます。
 明らかにウルトラマンのパロディなのですが、書き方が独特です。
 ほとんどリアルタイムのストーリー展開はなく、過去の事実を淡々と説明する感じです。
 そう、何かの教科書のようです。
 この作品はかなり極端ですが、最近のエンターテインメントでは、描写、アクション、ダイアローグといった従来の小説の文章よりも説明文でストーリーが語られる傾向にあります。
 これは、対象としている読者の読書体験が昔と比べて少なく、文字情報から物語を読み解く力が弱くなっているので、説明文の方が物語を追いやすくなっているためだと思われます。
 このことが悪いと言っているのでなく、かつて物語消費の媒体が「人による語り」から「文字情報」へ変わったように、現代では「文字情報」から「視覚プラス音声情報」へと変化していると言っているのです。
 文学に限ってみても、「詩」から「散文」へ、その「散文」もより意味を限定する(児童文学研究者の宮川健郎の言葉を借りれば)取扱説明書のような誰が読んでも同じように意味が伝わるものへと変化しつつあります。
 極論すれば、文学は限りなく芸術から遠い世界へ向かっていると言えるかもしれません。


チェーン・ピープル
クリエーター情報なし
幻冬舎
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グーニーズ

2017-11-28 09:51:45 | 映画
 1985年に公開された子ども向け冒険映画で、その頃大人気だったシンディー・ローパーが主題歌を歌っていたこともあり、日本でもヒットしました。
 当時夥しい数あったスピルバーグ印(この映画では製作総指揮)の映画だったことも人気の原因ですが、演出力は彼が監督した作品には遠く及びません。
 子どもたちの海賊の宝物さがしを、脱獄中の偽札作り犯人グループとの対決や、ゴルフ場開発のために町がなくなる話などに絡めて、いいもの役と悪人役がはっきりしていて、最後にはいい方がすべて勝つという単純明快なハッピーエンドストーリーです。
 見どころは、スピルバーグの「インディー・ジョーンズ」を子ども版にした冒険活劇シーン(CGではないのでそれなりにスリルが味わえます)と、「インディー・ジョーンズ」や「スタンド・バイ・ミー」(この映画より一年後の公開ですが)で活躍した子役たちも含めた少年たちの達者な演技でしょう。
 そう、この映画は「インディ・ジョーンズ」の子ども版であるとともに、「スタンド・バイ・ミー」のエンターテインメント版なのかもしれません。
 そういう意味では、児童文学のエンターテインメントを書こうとしている人にはお勧めできます。

グーニーズ [Blu-ray]
クリエーター情報なし
ワーナー・ホーム・ビデオ
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説的技法と児童文学

2017-11-25 08:47:50 | 考察
 1980年代ごろから、児童文学でも描写を中心にした小説的手法の書き方の作品が出版されるようになりました。
 従来の現代児童文学では、アクションとダイアローグを中心に描かれることが多かったのですが、それに飽き足らない作家たちがこの手法を好んで用い、それに伴い児童文学の読者の高年齢化や一般文学への越境が盛んに行われてきました。
 これらを支えたのは、1980年代から1990年代初めにかけての出版バブルでしょう。
 実に多様な作品が出版されていました。
 しかし、バブルがはじけて出版される児童書が売れ筋を中心に絞り込まれるようになると、こういった描写を中心とした小説的手法の作品は出版されにくくなりました。
 そのため、多くの児童文学作家が一般文学の方へ越境していきました。
 特に、中学年以下の読者を対象とした作品では、小説的手法ではそれを読みこなされる読者は限定されてしまいます。
 そこでは、従来のアクションとダイアローグを中心として物語をすすめる作品が中心になっています。

小説読本
クリエーター情報なし
中央公論新社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロマンス

2017-11-24 17:30:11 | 映画
 元AKBの大島優子主演の映画です。
 私は彼女のファンではないのですが、読売新聞の映画評によるとアイドル映画ではなく、共演がくせ者の大倉孝二だったので見てみました。
 全体的な評価は、封切り初日だったせいか出口でやっていた満足度調査に答えたように、70点でした。
 一番の欠点は、この映画がかなり露骨なタイアップ作品(小田急や箱根に対して)であったことで、ロマンスカーや箱根の観光案内風な所が鼻につきました。
 出演者はほとんど大島優子と大倉孝二だけなのですが、二人とも自然な演技をしていて作品世界にすんなり溶け込めました。
 「0.5ミリ(その記事を参照してください)」の安藤サクラについても同じことを書きましたが、大島優子は美人でもスタイルがいいわけでもないのが、前田敦子よりも女優として有利に働いているようです。
 彼女のような普通の容姿の女優の方が、作品にリアリティを与えています。
 この作品のような地味な映画に出続ければ、演技派女優として地位を築ける可能性があります。

ロマンス
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

舞城王太郎「美しい馬の地」短編集五芒星所収 群像2012年3月号 

2017-11-23 08:50:18 | 参考文献
 非・連作短編と銘打たれた短編集の冒頭の短編です。
 流産を憎む気もちに取りつかれた独身男が、偏執狂的なふるまいをして孤立していく短編です。
 女の人に流産させたことはないのに、なぜかその思いに取りつかれ、関連する資料を集めるのに没頭したために、恋人に去られてしまいます。
 流産に関する衝動はさらにエスカレートして、すべての流産した子どもたちのために水子供養をしようと思うまでのところまでたどり着いてします。
 そのために、同窓会で流産の経験ある女性といさかいを起こし、男の執拗さに腹を立てた同席していた男性に暴力を振るわれ骨折させられてしまいます。
 理性ではいけないことだとわかっているのに、その衝動を抑えられない人間の弱さをこれでもかと繰り返し描いています。
 児童文学でも、子どもたちの抑えきれない衝動を描くことは有効だと考えています。
 自分自身を振り返ってみると、幼稚園、小学校、中学校と進むにつれて、しだいに抑圧を感じるようになったと思います。
 私の場合、その抑圧は、高校、大学に進むにつれていったん弱くなりました。
 しかし、就職、結婚、子どもたちの誕生、老親の介護などにより、再び抑圧が強くなっていきました。
 それが、両親の死、子どもたちの独立などによりまた弱くなっていって、今は抑圧からかなり解放されました。
 それでも、時々は、抑圧(ストレスといってもいいかもしれません)を受けると、衝動を抑えられなくなることもあります。
 どうやら、抑圧と衝動は比例関係にあるようです。
 抑圧されていた時には、衝動的に怒ったり、食欲を抑えられなかったり、ひどい時は犯罪すれすれのことをしたりしたこともありました。
 そういう意味では、子どもたちの抑圧(主に学校や親から加えられると思います)を開放するような作品は、彼らの精神衛生ためにも必要とされていると思われます。
 
群像 2012年 03月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
講談社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎「Crayon」AX所収

2017-11-23 08:47:41 | 参考文献
 この短編では、主人公の凄腕の殺し屋が恐妻家である面が、特に強調されています。
 主人公と同様の恐妻家と知り合い、彼としては生まれて初めての友だちを得ます。
 しかし、それは意外な形(やはり殺人が絡みます)で、あっけなく終わりを告げます。
 この作品の題名は、主人公と友人が、それぞれの息子や娘が幼稚園の時にくれた「おとうさん、がんばって」とクレヨンで書かれた似顔絵に由来しています。
 主人公たちは、つらい仕事やかかあ殿下の家庭生活をなんとかやっていけるのは、子どもたちの幼いころの思い出のおかげだと思っています。
 幼かった息子たちが誕生プレゼントにくれた、クレヨンで書いた「かたたたき券」や「なんでも券」を今でも捨てられない(もったいなくて使えませんでした)自分としては強く共感しました。
 おそらく日本中の多くの父親たち(恐妻家でなくても)も同感だと思います。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

児童文学の繰り返しの手法について

2017-11-22 08:39:15 | 考察
 児童文学の世界、特に絵本や幼年童話では、繰り返しの手法が有効です。
 自分自身の幼い頃の記憶でも、自分の子どもたちが小さかった頃も、自分の好きなことを何度でも繰り返して楽しんでいました。
 繰り返しの手法は、そうした幼児の特性を作品の中に取り込んだものです。
 同じような事柄が、少しずつ形を変えながら繰り返していくと、読者の興味はどんどんとかきたてられていきます。
 その盛り上がりをどのよう最後にストンと落とすかが、作者の腕前です。
 そこには、読者の期待通りに終わる場合も、読者の期待を鮮やかに裏切って見せる場合もあります。

三びきのやぎのがらがらどん (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)
クリエーター情報なし
福音館書店
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎「BEE」AX所収

2017-11-22 08:37:33 | 参考文献
 この短編でも、主人公の凄腕の殺し屋の恐妻家ぶりがいかんなく発揮されています。
 題名のとおり、昆虫のスズメバチと、それと同名の主人公の命を狙う殺し屋とをうまくからませて描いて、読者を飽きさせません。
 庭に巣を作ったキイロスズメバチの駆除のシーンは、私も体験がありますが、まったく事実通りで著者も体験があるかよほど綿密に調べたのでしょう。
 こうした細部のリアリティも、良質のエンターテインメント作品には欠かせないものです。
 また、この作品でも、主人公と高校生の息子の会話や、近所の十年飼っていた猫が死んでペットロスになっている若い母親とそれをけなげにいたわる五歳の息子のやりとりなどに、児童文学テイストがあふれていて、中学生や高校生の読者に向いたヤングアダルトエンターテインメント作品と言えるでしょう。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊坂幸太郎「AX」AX所収

2017-11-21 10:12:12 | 参考文献
 恐妻家の殺し屋を主人公にした連作短編集の表題作です。
 極度の恐妻家と凄腕の殺し屋を一人の男に共存させるアイデアだけで、エンターテインメントとしての成功は約束されています。
 それに、しゃれた設定や会話が加味されているので、読者を十分に楽しませてくれます。
 殺人を終えて深夜に空腹で帰宅して、妻を起こさないために食べるのには魚肉ソーセージが一番だというくだりが特にしゃれています。
 この作品は内容が向いていませんが、児童文学の世界でも、こうしたセンスのいいエンターテインメント作品があれば、子ども読者がもっと増えるでしょう。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三浦しをん「舟を編む」

2017-11-20 09:08:26 | 参考文献
 本屋大賞を受賞したベストセラーです。
 まず第一に、普段は日の当たることのない辞書の編集者に目をつけた作者のアイデアの勝利でしょう。
 実際の現場への取材を通して、普通の人の知ることのない辞書編纂の裏側を紹介しています。
 しかし、そこに盛られた人間ドラマがあまりに薄っぺらいので驚きました。
 登場人物の描き方が、どれをとっても表面的で魅力がありません。
 もちろん、こういうマンガ的な平面的キャラクターの描き方が、今のエンターテインメントでは主流なのは承知していますが、それと辞書の編集という題材とがミスマッチをおこしています。
 また、辞書の編纂には時間がかかるので、作品を時間的に二分して、登場人物の若返りを図るとともに、どちらの時代にも恋愛物語を挿入するのは、三浦のメインの読者である若い女性へのサービスなのでしょうが、安直すぎてついていけません。
 本屋大賞も、最初の小川洋子の「博士の愛した数式」のころは隠れた本を発掘してベストセラーにする働きを持っていましたが、だんだん既に売れている本の人気投票のようになって、受賞作は質的に大幅に低下しています。
 もちろん書店員は本を売るのが仕事なのですから、どんな形であれ本屋大賞によってベストセラーができればそれでOKなのでしょうが。

 
舟を編む
クリエーター情報なし
光文社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする