現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

さいとう雷夏「ソマディ」あける25号所収

2018-08-04 17:19:30 | 同人誌
 高校に入って変わろうとしている女の子が、やはり変わろうとしてる男の子に出会う話です。
 典型的な「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」(この話の場合は男女が逆ですが)の物語です。
 二人の様子が初々しくて好感が持てますが、本当の物語はこれからでしょう。
 この短編は導入部なので、この二人の出会いを長編の物語に仕上げていく必要があります。

BILLIONAIRE~BOY MEETS GIRL~
クリエーター情報なし
エイベックス・トラックス
コメント

高山英香「小さなかたつむり」あける25号所収

2018-08-03 08:07:17 | 同人誌
 小さな茶色いかたつむりをめぐって、小学校三年生の女の子とその弟を中心にした人間関係が描かれます。
 文章がこなれていない部分もありますが、丁寧に書かれていて好感が持てました。
 主人公、弟、母親、クラスの男の子の個性がよく描かれています。
 オーソドックスな成長物語なのですが、生命のたくましさもあいまって、ラストでは素直に主人公に共感できます。


横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
クリエーター情報なし
銀の鈴社

ゆうたの小さなカタツムリ
クリエーター情報なし
国土社
コメント

倉本 采「グラン・ジュテ」あける25号所収

2018-08-02 08:26:32 | 同人誌
 バレエスクールを舞台にした小学校五年生の女の子の成長物語です。
 まだ未熟だけれど恵まれた素質を秘めている主人公、王子様役のかっこいい男の子、女王様役の先輩、敵役の女の子、主人公の理解者である親友の女の子など、典型的な配役がちりばめられています。
 この作品は典型的な少女小説ですが、作者ならではバレエの知識を生かして、楽しいエンターテインメントに仕上がっています。
 こういった作品の読者はたくさんいるので、もっとエンターテインメントに徹することができれば、商業出版も可能でしょう。

第41回ローザンヌ国際バレエ・コンクール 2013 ファイナル [DVD]
クリエーター情報なし
有限会社エリア・ビー
コメント

鳥野美知子「けやき姉妹」あける25号所収

2018-07-27 08:00:59 | 同人誌
 集落に200年以上続く「けやき姉妹」という義姉妹の風習と、現代の女の子たちとの対比がうまく書けていて楽しいお話になっています。
 ただ、現代的な風俗や言葉に、やや古い(おそらく作者の少女時代)の風俗や考え方が紛れ込んできていて、せっかくの伝統と現代というコントラストをややそこなっています。
 例えば、けやき姉妹という風習が男たちが出稼ぎに行くことが多く残された女たちの団結を強めるために始まったと説明されていますが、作者の少女時代の高度成長期にはその通りだと思いますが、200年前はどうだったのでしょう。
 きちんと来歴を調べて書いてほうがよかったと思います。
 また、出稼ぎについても現代では様変わりをしています。
 田中角栄の日本列島改造論(彼の選挙区である新潟のような地方の出稼ぎを減らす為に公共事業をばらまきました)を境に、出稼ぎは減少を続け、今では派遣社員などの非正規雇用にとって代われました。
 特に、1999年の小泉内閣(推進したのは経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵です)による製造業への非正規雇用の解禁により、2000年代以降はいわゆる出稼ぎは死語あるいは別の意味(ブラジルやフィリピンなどから日本へ働きに来ている人々)になっています。
 また、女性は結婚して子どもを産むものだというかなり古くさいジェンダー観が、きちんと批判されていないのもやや気になりました。
 せっかく現代の女の子を主人公にしたのですから、「けやき姉妹」という伝統の風習に新しい風を吹き込むような作品にしてもらえば、非常にいい作品なったと思います。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
クリエーター情報なし
岩崎書店
コメント

安東みきえ「ルリシジミの庭」あける25号所収

2018-07-26 08:03:36 | 同人誌
 亡くした物語を預かる遺失物語台帳係のある、「ゆめみ野駅遺失物係」という連作短編集のうちの一冊です。
 今回のお話も「ルリシジミの庭」という美しいファンタジーで、文章も比喩もストーリー展開も非常にうまいのですが、本文でもほのめかしているように、O・ヘンリーの「最後の一葉」を想起させるところが欠点かもしれません。
 「最後の一葉」はあまりにうまくできているために、これまでにも多くの追随者を生み出してきました。
 そういった一種の型を使ったのがよかったかどうかは、議論の分かれるところでしょう。
 ただ、この作品では、物語の中の物語という二重構造になっているので、「ルリシジミの庭」の外の部分で、単なる美しいお話に終わらない作者ならではの哲学が語られている点が独自性を出しています。
 物語の中の物語というと、私はどうしてもブローディガンの「愛のゆくえ」を思い出してしまいます。
 この本は、学生時代のガールフレンドが薦めてくれたのですが、読んでみてその女の子のことがますます好きになってしまいました。
 さて、「ゆめみ野駅遺失物係」はやがて本になりましたが、年頃の男の子をそういう気持ちにさせるには、あまりにも女性向きに書かれすぎていると思います。
 ただし、現代の児童文学は、子どもよりもより広範な年代の女性向けの文学、いわゆるL文学(女性作家が女性を主人公に女性読者のために書かれた文学)に変化しているので、この作品はまさにその王道を言っています。

夕暮れのマグノリア
クリエーター情報なし
講談社
コメント

井出ひすい「松の木の下で」あける25号所収

2018-07-24 08:31:04 | 同人誌
 かつての同級生の夫がやさしいのがうらやましくなって、自分のわがままな夫の愚痴をこぼすおばあさんの話です。
 そういうジャンルがあるのかわかりませんが、「老年児童文学」といった趣のある作品です。
 おばあさんのこぼす愚痴の中に、したいにおじいさんへの愛情が感じられて、ほのぼのとさせられます。
 無理に子どもを登場させて、児童文学としての体裁をこしらえない所が、いいと思いました。
 すでに児童文学は、子どもの文学から、より広範な年代の女性のための文学に変化しているので、こういった作品も需要があると思われます。

絵本・児童文学における老人像―伝えたいもの伝わるもの
クリエーター情報なし
グランまま社
コメント

最上一平「みちおしえ」あける25号所収

2018-07-23 09:01:12 | 同人誌
 町まで一日二本しかバスが走っていない村に住む少年と、八十八才になった老人との交流を描きます。
 いつもながら、文章も風景描写も心理描写も非常に優れていて、高い文学性を確立しています。
 二人の交流とそれを取り巻く村の人々たちの存在が温かく描かれていて、読み味がとてもいいです。
 本人も言っているのですが、これは一種のユートピア小説なのでしょう。
 実際にも、ここで描かれたような孤独な老人は、過疎の地域にはたくさんいるでしょう。
 しかし、少年の方は作者の創作したファンタジー的存在で、すでに日本の村からはほとんど消滅していると思われます。
 また、ここに描かれたような温かい地域のコミュニケーションは、各地で急速に失われています。
 このようなユートピア小悦は、地域においてかつてのコミュニティが失われていく現実に対するアンチテーゼとして機能するでしょう。
 しかし、たまには、読み味は悪くとも、現状をストレートに糾弾するような作品も書いてもらいたいなとも思います。
 作者は職業作家なのですから、ある程度再生産(書くたびにより高みを追及しているとしても)になってしまうのはやむを得ないとは思うのですが、同人誌に発表する作品はもう少し新しい可能性にチャレンジしてもいいのではないかという気もします。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
コメント

さくらい ひろこ「毛糸のぼうしとちゃいろのボタン」あける25号所収

2018-07-22 08:59:34 | 同人誌
 主人公の女の子が、おばあちゃんに毛糸の帽子を編んでもらうお話です。
 祖母の愛情と女の子の祖父母への思いをていねいに描いて、かわいらしい作品になっています。
 ただ、ていねいに書きすぎたことが仇になっている面もあります。
 主人公の年齢は分からないのですが、この作品はおそらく幼年物として書いていると思われます。
 それならば、もっと大胆な省略を用いてテンポよく書かないと、読者にあきられてしまします。
 また、漢字のかなへの開き方が不十分で、幼い子に読ませるのか、それとも親に読み聞かせをしてもらうのかも、中途半端な気がします。
 こういった幼年児童文学が陥りやすい欠点として、場面転換や筋立てが単純すぎることがあります。
 今は亡き安藤美紀夫は「日本語と「幼年童話」」(その記事を参照してください)という論文の中で、少なくとも二十の絵になるような場面が必要だと主張しています。
 現在の出版状況ではそこまでは要求されませんが、短ければ短いほど起承転結のはっきりした山場のある物語を書かないと、読者はついていってくれないことは変わりありません。

おそろいで編む帽子とマフラー (暮らし充実すてき術)
クリエーター情報なし
高橋書店
コメント

中原 光「ビードロ遊び」あける25号所収

2018-07-21 08:47:12 | 同人誌
 遠い日の懐かしい家族の想い出、その日々が楽しければ楽しいだけ、読者はなんだか不安にかられます。
 そして、残念ながらラストでその不安は的中してしまうのです。
 やや抒情的すぎるかなという気もしますが、一つ一つのエピソードが鮮明で読者に強い印象を与えます。
 書き方はオーソドックスですが、作者の豊かな感受性があふれた佳品だと思います。

はじめて学ぶ日本の戦争児童文学史 (シリーズ・日本の文学史)
クリエーター情報なし
ミネルヴァ書房
コメント

ばんひろこ「うそつきたまこ」あける25号所収

2018-07-20 08:29:38 | 同人誌
 ついついうそをついてしまうたまこと、仲良しのなっちゃんの話です。
 この作品の一番の評価点は、うそつきたまこというトリックスターを生みだしたことです。
 作者の今までの作品に出てくる女の子は、どちらかというといい子が多くそのためか影が薄かったのですが、たまこは明らかに違う強いキャラクター性を持っています。
 こういった新しい作品に挑戦したことは、商業出版ではない同人誌という発表の場の制約のなさを生かしていると思います。
 たまこの理解者で至極まっとうな女の子であるなっちゃんとの組み合わせも、そんなに新鮮さはないもののお話に安定感を生みだしています。
 これから、さらにたまこをパワーアップしていってもらいたいと思いました。

団地ぜんぶがぼくのいえ (新日本おはなしの本だな)
クリエーター情報なし
新日本出版社
コメント

荒木せいお「恋チュンはあたしたちを本当に元気にできるのだろうか?」あける25号所収

2018-07-03 09:58:04 | 同人誌
 東日本大震災で母を失った少女が、文化祭で友だちとAKBの「恋するフォーチュンクッキー」のダンスを踊ることによって、いろいろな困難を乗り越える元気をもらおうとする話です。
 東日本大震災の後遺症、原発事故による放射能汚染、「恋チュン」など、2013年現在のリアルタイムの事象をたくさん取り入れています。
 現代の事象や風俗をそのまま作品に取り入れると、時間の経過とともに古くなるので避けられがちですが、この作品では潔いまでに同時代性にこだわっています。
 短い作品に、大震災、津波、原発事故、母の死、父親の若い女性との恋愛、友との別れなどの大きな問題を盛り込んでいるので、やや消化不良の感はします。
 特に、東日本大震災と原発事故はすごく大きな問題なので、もっとこれらについての作者の考えをかったって欲しい気はしました。
 ただ、今も多くの人たちに爪痕を残している東日本大震災や原発事故などの大問題は、どのような形であっても児童文学でももっともっと書いていくべきでしょう。

恋するフォーチュンクッキーType A(初回限定盤)
クリエーター情報なし
キングレコード
コメント

鳥野美知子「ぽっこちゃん」あける29号所収

2018-05-27 09:37:32 | 同人誌
 学校の図書館を利用して週末に地域へ開放されている「みんなの図書館」を舞台に、二人の四年生の女の子が仲良しになるお話です。
 「ぽっこちゃん」という人形の世話をめぐって現れる不思議な世界も面白いのですが、なんといってもこの作品の魅力は本(特に児童文学)や図書館の世界が緻密に描かれていることでしょう。
 主人公の二人の女の子はもちろん、図書館の司書(?)やそこで出会うおばあさんたちまで含めて、登場人物はすべて大の本好きばかりで、作者の本(特に児童文学)への愛情が強く感じられました。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
クリエーター情報なし
岩崎書店
コメント

荒木せいお「ゴジラになりたい」あける29号所収

2018-05-23 09:01:46 | 同人誌
 クラスのアイドル的な存在(実際にテレビのCMに出演する)の女の子にあこがれている男の子を、馬鹿にしながらもだんだん好きになっていく主人公の女の子の揺れる気持ちを描いています。
 著者は小学校の教師だったこともあり、作品に出てくる子どもたちにはリアリティがあります。
 特に、女の子の繊細な気持ちを描けるので、女の子の読者が中心の現在の児童文学では一定の読者を獲得していくことでしょう。

日本児童文学 2018年 02 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
コメント

広越 遼「未来人」あける29号所収

2018-05-23 08:58:43 | 同人誌
 将棋好きの中学生の少年が、その将棋を教えてくれて今は認知症で主人公もわからない(若い頃のおじさんだと思っている)祖父との心の交流を描いています。
 ちょっと独特なキャラクターの将棋部の先輩の機転(二人が未来人で、ここにいるのは成長した主人公(祖父は未だに幼児だと思っている)だと祖父に理解してもらって、現在の主人公を認識してもらいます。
 主人公と祖父が昔のように将棋を指すシーンが感動的です。

メロディー・ストーリーズ (童心社・新創作シリーズ)
クリエーター情報なし
童心社
コメント

ばんひろこ「デマンドタクシー」あける29号所収

2018-05-15 09:11:49 | 同人誌
 捕まえたキジを友だちに逃がされて、怒りの「決闘」に向かう主人公の男の子が、乗り合わせた「デマンドタクシー」の中で繰り広げられている老人たちの和気藹々とした雰囲気に和まされていって、しだいに「決闘」に対する気持ちがあいまいになっていく姿をユーモアたっぷりに描いています。
 過疎地における四世代にわたる人々の交流を、廃止されたバスの代わりに走っている「デマンドタクシー」(電話で申し込んで呼べる乗り合いタクシー)という現在の過疎地ならではの新しい風俗を生かして描いている点が、特に優れていると思いました。

天馬のゆめ
クリエーター情報なし
新日本出版社
コメント