現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

さいとう雷夏「名前が欲しかった鬼」あける27号所収

2018-12-14 09:24:56 | 同人誌
 他の鬼たちと違って自分の名前が欲しかった青鬼と、醜く生れついたために疎外されている炭焼きの男との出会いを描きます。
 アイデンティティの喪失感、生きていることのリアリティの希薄さ、差別、疎外感、孤独など、現在の子どもたちや若い世代にとっても重要なモチーフを取り扱っています。
 問題の解決を急がずに、さらに象徴性を高めれば、今日的な問題に向き合った作品になると思われます。

ないた あかおに (絵本・日本むかし話)
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偕成社
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三枝ひかる「さくらが咲いた」あける25号所収

2018-12-05 08:32:49 | 同人誌
 妹のようにかわいがっていたいとこの女の子(年長さんと思われます)との別離(おばさんが再婚して遠くへ引っ越すようです)を、かなり感傷的なタッチで描いた作品です。
 文章も会話(特に話者の区別)も構成も、もっと読みやすくするために改善の余地があります。
 そのためには、自分の作品を客体化して見つめる視点を養成する必要があるでしょう。
 作者と読者では作品世界に対して持っている情報量がまったく違うことを理解して、どのように書いたら作者の中にある作品世界が読者に正しく伝わるかを検討することは、創作をするうえで大切です。

短編小説のレシピ (集英社新書)
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集英社
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井出ひすい「おみせばん」あける27号所収

2018-12-05 08:25:02 | 同人誌
 小学三年生の男の子が、おじいさんの釣り具店のおみせばんをする話です。
 お店にやってくる人たち(おじいさんの友だちの老人たちと、不思議な小さな女の子)が、忘れ物ばかりするのがおかしいです。
 今でも地域の人間関係が残っている地方を舞台に、楽しいメルフェンに仕上がっています。
 ただ、ところどころ分かりにくい個所(特に都会の子どもの読者にとって)があるので、もう少し配慮する必要があります。

川づり名人 (まんがでマスター 子ども名人シリーズ)
クリエーター情報なし
集英社
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ばんひろこ「だいじばこ」あける27号所収

2018-12-04 14:33:06 | 同人誌
 三年生の男の子と女の子を主人公にした連作短編のひとつです。
 「だいじばこ」にしまいこんでいた、一見ガラクタのようにも思える品物。
 それらは、いつか二人が公園で掘り出したものです。
 二人は、偶然居場所を知った、元の持ち主に返しに行くことにします。
 この作品では、子どもたちの過去の記憶や想い出を描いています。
 大人は見過ごしがちですが、子どもたちにもその短い人生の中に楽しかったり悲しかったりする記憶があるのです。
 この作品は、そんな子どもたちの思いを鮮やかに描いてくれます。
 エンターテインメント性ばかりが求められがちな現在の児童文学の出版状況ですが、時にはこういった文学性の豊かな作品も出版してほしいなと思います。

まいにちいちねんせい (ポプラちいさなおはなし)
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ポプラ社
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新井けいこ「げたでジャングルを行く」あける27号所収

2018-12-01 09:14:32 | 同人誌
 中学入学をひとつのきっかけにして、大人への自覚を持ち始める少年を描いています。
 子ども時代へのサヨナラを描くことは、児童文学の大きなモチーフの一つです。
 有名な例としては、ミルンの「プー横丁にたった家(くまのプーさんの続編)」のラストで、クリストファー・ロビンがみんなに別れを告げて、プーさんとともに子どもの世界(空想世界)を去っていくシーンやモルナールの「パール街の少年たち」のラストシーンなどがあげられます。
 中学一年という年齢は、精神的成長が遅くなっている現在ではやや若すぎる気もしますが、母子家庭で頼りにしていた祖父にも死別したことを考えると納得できます。
 ただ、こういった文学的な作品を本にするのは現在では難しい(特に男の子向けは)ので、むしろ母親世代を対象とした一般文学としてまとめた方が出版のチャンスはあるかもしれません。

電車でノリノリ (文研ブックランド)
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文研出版
 
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原結子「うみなり」あける27号所収

2018-11-24 09:13:15 | 同人誌
 7歳の女の子が、不思議なおばあさんに出会って、海の中でさまざまな体験をするお話です。
 小川未明の短編を現代的にしたような、抒情性あふれるメルフェンです。
 文体や書かれている内容からして、主人公の年齢と同じぐらいの子どもたちを対象にした作品ではありません。
 純文学といってもいいかもしれません。
 父の不在、母もまたいなくなってしまうのではとの不安、これらが少女の深層心理に働いて、美しくも恐ろしい不思議な世界が現れます。
 現在の児童文学では、子どものみならず、もっと広範な年齢層の読者(特に女性)を対象にしていますので、この作品にも十分に商品性はあると思います。
 かつての「現代児童文学」では、「成長物語」(物語の初めとくらべて、最後では主人公はなんらかの成長(変化)をしている)が主流でしたが、現在ではこの作品ような「遍歴物語」(物語の最初と最後で主人公は成長(変化)しない)が復権しています(「成長物語」と「遍歴物語」については、児童文学研究者の石井直人の論文に関する記事を参照してください)。
 作者として、この作品のような方向に進むのであらば、さらに文章、描写、イメージに磨きをかける必要があります。

小川未明童話集 (新潮文庫)
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新潮社
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さいとう雷夏「ソマディ」あける25号所収

2018-08-04 17:19:30 | 同人誌
 高校に入って変わろうとしている女の子が、やはり変わろうとしてる男の子に出会う話です。
 典型的な「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」(この話の場合は男女が逆ですが)の物語です。
 二人の様子が初々しくて好感が持てますが、本当の物語はこれからでしょう。
 この短編は導入部なので、この二人の出会いを長編の物語に仕上げていく必要があります。

BILLIONAIRE~BOY MEETS GIRL~
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エイベックス・トラックス
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高山英香「小さなかたつむり」あける25号所収

2018-08-03 08:07:17 | 同人誌
 小さな茶色いかたつむりをめぐって、小学校三年生の女の子とその弟を中心にした人間関係が描かれます。
 文章がこなれていない部分もありますが、丁寧に書かれていて好感が持てました。
 主人公、弟、母親、クラスの男の子の個性がよく描かれています。
 オーソドックスな成長物語なのですが、生命のたくましさもあいまって、ラストでは素直に主人公に共感できます。


横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
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銀の鈴社

ゆうたの小さなカタツムリ
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国土社
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倉本 采「グラン・ジュテ」あける25号所収

2018-08-02 08:26:32 | 同人誌
 バレエスクールを舞台にした小学校五年生の女の子の成長物語です。
 まだ未熟だけれど恵まれた素質を秘めている主人公、王子様役のかっこいい男の子、女王様役の先輩、敵役の女の子、主人公の理解者である親友の女の子など、典型的な配役がちりばめられています。
 この作品は典型的な少女小説ですが、作者ならではバレエの知識を生かして、楽しいエンターテインメントに仕上がっています。
 こういった作品の読者はたくさんいるので、もっとエンターテインメントに徹することができれば、商業出版も可能でしょう。

第41回ローザンヌ国際バレエ・コンクール 2013 ファイナル [DVD]
クリエーター情報なし
有限会社エリア・ビー
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鳥野美知子「けやき姉妹」あける25号所収

2018-07-27 08:00:59 | 同人誌
 集落に200年以上続く「けやき姉妹」という義姉妹の風習と、現代の女の子たちとの対比がうまく書けていて楽しいお話になっています。
 ただ、現代的な風俗や言葉に、やや古い(おそらく作者の少女時代)の風俗や考え方が紛れ込んできていて、せっかくの伝統と現代というコントラストをややそこなっています。
 例えば、けやき姉妹という風習が男たちが出稼ぎに行くことが多く残された女たちの団結を強めるために始まったと説明されていますが、作者の少女時代の高度成長期にはその通りだと思いますが、200年前はどうだったのでしょう。
 きちんと来歴を調べて書いてほうがよかったと思います。
 また、出稼ぎについても現代では様変わりをしています。
 田中角栄の日本列島改造論(彼の選挙区である新潟のような地方の出稼ぎを減らす為に公共事業をばらまきました)を境に、出稼ぎは減少を続け、今では派遣社員などの非正規雇用にとって代われました。
 特に、1999年の小泉内閣(推進したのは経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵です)による製造業への非正規雇用の解禁により、2000年代以降はいわゆる出稼ぎは死語あるいは別の意味(ブラジルやフィリピンなどから日本へ働きに来ている人々)になっています。
 また、女性は結婚して子どもを産むものだというかなり古くさいジェンダー観が、きちんと批判されていないのもやや気になりました。
 せっかく現代の女の子を主人公にしたのですから、「けやき姉妹」という伝統の風習に新しい風を吹き込むような作品にしてもらえば、非常にいい作品なったと思います。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
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岩崎書店
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安東みきえ「ルリシジミの庭」あける25号所収

2018-07-26 08:03:36 | 同人誌
 亡くした物語を預かる遺失物語台帳係のある、「ゆめみ野駅遺失物係」という連作短編集のうちの一冊です。
 今回のお話も「ルリシジミの庭」という美しいファンタジーで、文章も比喩もストーリー展開も非常にうまいのですが、本文でもほのめかしているように、O・ヘンリーの「最後の一葉」を想起させるところが欠点かもしれません。
 「最後の一葉」はあまりにうまくできているために、これまでにも多くの追随者を生み出してきました。
 そういった一種の型を使ったのがよかったかどうかは、議論の分かれるところでしょう。
 ただ、この作品では、物語の中の物語という二重構造になっているので、「ルリシジミの庭」の外の部分で、単なる美しいお話に終わらない作者ならではの哲学が語られている点が独自性を出しています。
 物語の中の物語というと、私はどうしてもブローディガンの「愛のゆくえ」を思い出してしまいます。
 この本は、学生時代のガールフレンドが薦めてくれたのですが、読んでみてその女の子のことがますます好きになってしまいました。
 さて、「ゆめみ野駅遺失物係」はやがて本になりましたが、年頃の男の子をそういう気持ちにさせるには、あまりにも女性向きに書かれすぎていると思います。
 ただし、現代の児童文学は、子どもよりもより広範な年代の女性向けの文学、いわゆるL文学(女性作家が女性を主人公に女性読者のために書かれた文学)に変化しているので、この作品はまさにその王道を言っています。

夕暮れのマグノリア
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講談社
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井出ひすい「松の木の下で」あける25号所収

2018-07-24 08:31:04 | 同人誌
 かつての同級生の夫がやさしいのがうらやましくなって、自分のわがままな夫の愚痴をこぼすおばあさんの話です。
 そういうジャンルがあるのかわかりませんが、「老年児童文学」といった趣のある作品です。
 おばあさんのこぼす愚痴の中に、したいにおじいさんへの愛情が感じられて、ほのぼのとさせられます。
 無理に子どもを登場させて、児童文学としての体裁をこしらえない所が、いいと思いました。
 すでに児童文学は、子どもの文学から、より広範な年代の女性のための文学に変化しているので、こういった作品も需要があると思われます。

絵本・児童文学における老人像―伝えたいもの伝わるもの
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グランまま社
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最上一平「みちおしえ」あける25号所収

2018-07-23 09:01:12 | 同人誌
 町まで一日二本しかバスが走っていない村に住む少年と、八十八才になった老人との交流を描きます。
 いつもながら、文章も風景描写も心理描写も非常に優れていて、高い文学性を確立しています。
 二人の交流とそれを取り巻く村の人々たちの存在が温かく描かれていて、読み味がとてもいいです。
 本人も言っているのですが、これは一種のユートピア小説なのでしょう。
 実際にも、ここで描かれたような孤独な老人は、過疎の地域にはたくさんいるでしょう。
 しかし、少年の方は作者の創作したファンタジー的存在で、すでに日本の村からはほとんど消滅していると思われます。
 また、ここに描かれたような温かい地域のコミュニケーションは、各地で急速に失われています。
 このようなユートピア小悦は、地域においてかつてのコミュニティが失われていく現実に対するアンチテーゼとして機能するでしょう。
 しかし、たまには、読み味は悪くとも、現状をストレートに糾弾するような作品も書いてもらいたいなとも思います。
 作者は職業作家なのですから、ある程度再生産(書くたびにより高みを追及しているとしても)になってしまうのはやむを得ないとは思うのですが、同人誌に発表する作品はもう少し新しい可能性にチャレンジしてもいいのではないかという気もします。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
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さくらい ひろこ「毛糸のぼうしとちゃいろのボタン」あける25号所収

2018-07-22 08:59:34 | 同人誌
 主人公の女の子が、おばあちゃんに毛糸の帽子を編んでもらうお話です。
 祖母の愛情と女の子の祖父母への思いをていねいに描いて、かわいらしい作品になっています。
 ただ、ていねいに書きすぎたことが仇になっている面もあります。
 主人公の年齢は分からないのですが、この作品はおそらく幼年物として書いていると思われます。
 それならば、もっと大胆な省略を用いてテンポよく書かないと、読者にあきられてしまします。
 また、漢字のかなへの開き方が不十分で、幼い子に読ませるのか、それとも親に読み聞かせをしてもらうのかも、中途半端な気がします。
 こういった幼年児童文学が陥りやすい欠点として、場面転換や筋立てが単純すぎることがあります。
 今は亡き安藤美紀夫は「日本語と「幼年童話」」(その記事を参照してください)という論文の中で、少なくとも二十の絵になるような場面が必要だと主張しています。
 現在の出版状況ではそこまでは要求されませんが、短ければ短いほど起承転結のはっきりした山場のある物語を書かないと、読者はついていってくれないことは変わりありません。

おそろいで編む帽子とマフラー (暮らし充実すてき術)
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高橋書店
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中原 光「ビードロ遊び」あける25号所収

2018-07-21 08:47:12 | 同人誌
 遠い日の懐かしい家族の想い出、その日々が楽しければ楽しいだけ、読者はなんだか不安にかられます。
 そして、残念ながらラストでその不安は的中してしまうのです。
 やや抒情的すぎるかなという気もしますが、一つ一つのエピソードが鮮明で読者に強い印象を与えます。
 書き方はオーソドックスですが、作者の豊かな感受性があふれた佳品だと思います。

はじめて学ぶ日本の戦争児童文学史 (シリーズ・日本の文学史)
クリエーター情報なし
ミネルヴァ書房
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