現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

鳥野美知子「ぽっこちゃん」あける29号所収

2018-05-27 09:37:32 | 同人誌
 学校の図書館を利用して週末に地域へ開放されている「みんなの図書館」を舞台に、二人の四年生の女の子が仲良しになるお話です。
 「ぽっこちゃん」という人形の世話をめぐって現れる不思議な世界も面白いのですが、なんといってもこの作品の魅力は本(特に児童文学)や図書館の世界が緻密に描かれていることでしょう。
 主人公の二人の女の子はもちろん、図書館の司書(?)やそこで出会うおばあさんたちまで含めて、登場人物はすべて大の本好きばかりで、作者の本(特に児童文学)への愛情が強く感じられました。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
クリエーター情報なし
岩崎書店
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荒木せいお「ゴジラになりたい」あける29号所収

2018-05-23 09:01:46 | 同人誌
 クラスのアイドル的な存在(実際にテレビのCMに出演する)の女の子にあこがれている男の子を、馬鹿にしながらもだんだん好きになっていく主人公の女の子の揺れる気持ちを描いています。
 著者は小学校の教師だったこともあり、作品に出てくる子どもたちにはリアリティがあります。
 特に、女の子の繊細な気持ちを描けるので、女の子の読者が中心の現在の児童文学では一定の読者を獲得していくことでしょう。

日本児童文学 2018年 02 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
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広越 遼「未来人」あける29号所収

2018-05-23 08:58:43 | 同人誌
 将棋好きの中学生の少年が、その将棋を教えてくれて今は認知症で主人公もわからない(若い頃のおじさんだと思っている)祖父との心の交流を描いています。
 ちょっと独特なキャラクターの将棋部の先輩の機転(二人が未来人で、ここにいるのは成長した主人公(祖父は未だに幼児だと思っている)だと祖父に理解してもらって、現在の主人公を認識してもらいます。
 主人公と祖父が昔のように将棋を指すシーンが感動的です。

メロディー・ストーリーズ (童心社・新創作シリーズ)
クリエーター情報なし
童心社
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ばんひろこ「デマンドタクシー」あける29号所収

2018-05-15 09:11:49 | 同人誌
 捕まえたキジを友だちに逃がされて、怒りの「決闘」に向かう主人公の男の子が、乗り合わせた「デマンドタクシー」の中で繰り広げられている老人たちの和気藹々とした雰囲気に和まされていって、しだいに「決闘」に対する気持ちがあいまいになっていく姿をユーモアたっぷりに描いています。
 過疎地における四世代にわたる人々の交流を、廃止されたバスの代わりに走っている「デマンドタクシー」(電話で申し込んで呼べる乗り合いタクシー)という現在の過疎地ならではの新しい風俗を生かして描いている点が、特に優れていると思いました。

天馬のゆめ
クリエーター情報なし
新日本出版社
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倉本采「なぎさ橋美術館」あける29号所収

2018-05-14 08:41:09 | 同人誌
 自信を失ったかつての新進画家が、かもめの精(?)と出会って、かつての自分の作品群だけを飾った美術館へ連れて行ってもらって、立ち直るきっかけをつかむ話です。
 全編一種の美文調で統一して描かれていて、かつての少女マンガや宝塚の世界を彷彿させる作者の美学で貫かれていますので、こうした世界が好きな読者(特に女性)は好きになることでしょう。

パックル森のゆかいな仲間 ポーとコロンタ (子どものしあわせ童話セレクション3)
クリエーター情報なし
本の泉社
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三枝ひかる「どすこい元ちゃん」あける29号所収

2018-05-13 20:57:12 | 同人誌
 相撲取りを目指す小学校三年生の男の子が主人公です。
 元力士で今はちゃんこ鍋屋をやっている父親や、弁護士を目指すために相撲をやめることになる親友の男の子たちをからめて、練習や大会などを戯画的に描いたエンターテインメント作品です。

 
低学年からのスポーツ・ルール〈4〉柔道・剣道・相撲・空手
クリエーター情報なし
汐文社
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小西洋平「突然の帰郷」季節風114号所収

2018-05-11 16:36:47 | 同人誌
 大きな地震のために急遽帰郷することになった主人公(三十才ぐらい)が、列車の中で十五年前の中学時代にいじめていた相手(実は地震で死んでいたので幽霊か)と再会する話です。
 作者の創作する姿勢にいくつか疑問を感じました。
 まず、このままでは、中学生に向けて書いた児童文学ではなく、普通の小説(一種のホラー)だと思います。
 そうだとしたら、大人の読者が読むのに足るプロットなり、人物造形なりをきちんと構築する必要があります。
 児童文学として書きたいのならば、中学時代のいじめについてもっとまともに向き合って、その部分だけで作品を書いた方がいいでしょう。
 こういったテイストの作品を書きたいのであれば、参考のために那須正幹の「六年目のクラス会」(その記事を参照してください)を読むことをお勧めします。
 最後に地震に関してですが、東日本大震災を経た現代において地震を書くならば、この作品のようなたんなるネタとしてではなく、それなりの覚悟を決めて書かなければいけないのではないでしょうか。
 
六年目のクラス会―那須正幹作品集 (創作こども文学 (1))
クリエーター情報なし
ポプラ社
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佐藤いつ子「めがねのヒーロー」あける29号

2018-05-09 09:42:49 | 同人誌
 近視になって初めて眼鏡をかける日、これは大人ではコンタクトが一般的になっている現代でも、小学生にとっては大事件でしょう。
 この作品では、それと少年野球の補欠選手の初ヒット(私は長い間少年野球のコーチをしてきましたが、自分の息子も含めて補欠だった子が、眼鏡をかけてから打撃も守備もよくなって、レギュラーを勝ち取った姿を何度も見てきています)を、亡くなったおとうさんの思い出も絡めてうまくまとめています。
 特に、主人公を男の子でなく女の子にした点が、眼鏡をかけることに対してよりナイーブになることや今日性を出すことに成功しています。

駅伝ランナー (角川文庫)
クリエーター情報なし
KADOKAWA/角川書店
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高山榮香「つばめのつんちゃん」あける29号所収

2018-05-07 18:16:16 | 同人誌
 南の国から毎年渡ってくるつばめのつんちゃんと、四年生の子どもたちとの交流を描いています。
 学習の一環としてつばめのことを調べているという設定を生かして、読者もつばめについてかなり詳しく知ることができ、学習教材のような趣もあります。
 すずめがつばめの巣に住みついたり、つんちゃんがやってくるのが遅れたり、巣から雛が落ちたのを救出したりするなど、物語を盛り上げる工夫もなされています。

横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
クリエーター情報なし
銀の鈴社
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井出ひすい「フォトスタジオ」あける29号所収

2018-05-06 09:26:18 | 同人誌
 作者が断続的に書き続けている、主人公のウマばあさんを含めた八十歳以上の老人トリオが活躍する「老年児童文学」です。
 この短編でも、三人の友情を中心に、集落で唯一の高校生やキジの精(?)などが、豊かな自然の中で心温まる交流を繰り広げます。
 ウマばあさんの亡くなった夫の想い出もからめて、読者はホロリとさせられます。
 他の記事にも書きましたが、高齢者と童話は親和性が高いので、流通の問題さえ解決すれば商品性はあると思われます。

小川未明童話集 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社
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櫻井ひろこ「ばんけのてんぷら」あける29号所収

2018-05-04 15:12:38 | 同人誌
 四代七人の大家族で暮らす主人公の小学校一年生の女の子に、新しい妹が誕生します。
 仲良く暮らす大家族の良さや、大人たちが子どもたちを見守る地域の人間関係の良さが描かれています。
 あるいは、現在の子どもたちが暮らす環境とは違うかもしれませんが、こうした失われつつある人間関係を伝えることも児童文学の大事な役割でしょう。
 主人公が道草までして(そのために迷子になってしまいます)つんだ、母の好物のばんけ(ふきのとう)のてんぷらが八個あったことが、幸せな八人家族を象徴しています。

野草天ぷら―栄養になる野草哲学
クリエーター情報なし
バーズアイ出版
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安東みきえ「メンドリと赤い手ぶくろ」あける29号所収

2018-05-03 10:06:08 | 同人誌
 オンドリのように朝を告げたい若いメンドリと、自分ばかり働かされるのが不満な右の赤い手袋(持ち主の女の子が右利きなのでしょう)が、風のいたずらで出会って自分たちの不満が意味のないことを知ります。
 ふんだんに盛り込まれた言葉遊びやしゃれ、そして二人の不満を解消する鮮やかなオチ。
 こうした寓話を書かせたら、現在の児童文学作家では第一人者である作者ならではのできばえです。

夕暮れのマグノリア
クリエーター情報なし
講談社
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新井けいこ「ふたりゆうか」あける29号所収

2018-05-02 18:02:34 | 同人誌
 ゆうかの中(実際にはわずかに左側)に、つい本音を言ってしまう「てゆうかちゃん」(他の人意見に「てゆうか、」と本音の反論をズバリと言ってしまう)が現れて、クラスのみんなから浮いてしまうお話です。
 ドッジボールで集中攻撃を受けたのをきっかけに、「てゆうかちゃん」はゆうかから抜け出して他のターゲットに向かうようです。
 「てゆうか」ちゃんの発想は非常にユニークなので、これを膨らまして一冊の本に仕上げることも可能でしょう。

しりとりボクシング
クリエーター情報なし
小峰書店
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最上一平「いがぐり三郎」あける29号所収

2018-05-02 18:01:28 | 同人誌
 みんな(特におかあさん)に言えない秘密(弁天様の人形を落として首がとれてしまったこと)のために元気がなくなった主人公の女の子を心配して、96歳になるひいばあちゃんは、昔、村にいた「いがぐり三郎」(毎日、崖の上に立って道路を眺めているだけだったが、村人に親しまれていました)の話をしてくれます。
 一家総出での蚕の世話や蚕が絹糸をはく神秘的な姿と相まって、「みんな、いるだけで大事な存在なんだ」という作者のメッセージが鮮やかに伝わってきます。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
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石井暁人「撃つぞ!」季節風115号所収

2018-05-02 08:11:23 | 同人誌
 時代設定は1978年です。
 中学三年生の男の子の劣等感(成績が悪くて高校にいかれそうもない)や性衝動を、エロ本を自販機に買いに行って警官に追いかけるのをクライマックスにして、新聞配達をしている同級生の女の子(やはり成績が悪い)などを絡めて描いています。
 一読して、作者の想定している読者は誰なのかと思いました。
 現代の男子中学生をターゲットとするなら、こういった過去の話(作者の少年時代か?)を書くのではなく、現代の男の子たちの性衝動や風俗を描くべきでしょう。
 だいたい三十年以上前とは風俗が違いすぎて、彼らが理解することすら困難だと思います。
 現代では、エロ本など買わなくても、無料のアダルトサイトなどでいくらでも少年たちの性衝動を満足させる動画を入手できます。
 それでは、主人公と同世代(五十歳前後か)の男性を読者として考えているのでしょうか?
 もしそうであるならば、彼らのノスタルジーを掻き立てることにも失敗しています。
 エロ本の思い出にしても、同級生の女の子にしても、具体的なイメージに乏しく、魅力が感じられません。
 作者は、1970年代を舞台に作品を書く意義をもう一度考え直した方がいいかもしれません。
 参考までに、少年の性衝動を描いた作品としては、柏原兵三の「兎の結末」(その記事を参照してください)が非常に優れています。

兎の結末 (1968年)
クリエーター情報なし
文藝春秋
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