現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

四元康裕「ゴールデンアワー」

2017-03-30 15:49:53 | 参考文献
 1960年代から70年代にかけてのテレビアニメ(「巨人の星」、「鉄腕アトム」、「あしたのジョー」など)やテレビ番組(「タイムトンネル」、「宇宙家族ロビンソン」など)やテレビ出演者(クレイジーキャッツ、コント55号など)、映画(「ミクロの決死圏」、「夕陽のガンマン」など)などを題材にした連作詩集です。
 児童文学研究者の石井直人が、「児童文学補完計画1」(その記事を参照してください)で述べた「架空へのノスタルジアを自覚した試み」という評価は、前半部分にはあてはまりますが、全体としてはそれだけでなく少年時代全体へのノスタルジアを18歳の時の母の死の予感を通奏低音にして描いた詩集でした。
 ここでいう「架空へのノスタルジア」というのは、いわゆるマンガ的リアリズムと同様に、ある世代に共通したエンターテインメント作品の理解を前提とした作品世界のことです。
 私は、作者や石井よりやや上の世代にあたるので、彼らの強い共感を少しだけ客観的に眺められる立場にいます。
 ビデオゲームがなかったそのころのテレビを中心にした架空世界は、そのころ少年時代を過ごした人々にとっては、実生活と切っても切れない関係にありました。
 それらをバネにして、子ども時代を描くような児童文学作品が、もっとあってもいいかなと思います。

ゴールデンアワー
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新潮社
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ジャイアント馬場「王道十六文」

2017-03-28 18:41:17 | 参考文献
 私が少年時代にテレビでプロレスを見ていたころに、アントニオ猪木とともにスーパースターであったプロレスラーが昭和62年に書いた自伝(おそらく本人が口述したものを、あとがきで謝辞を述べている菊池孝氏が文章化したのでしょう)です。
 少年時代や高校野球時代(二年で中退して史上最年少の16才でプロ野球選手になったのは初めて知りました。もっともそのころすでに身長は2メートル以上あったようですが)、それに巨人(二軍では最優秀投手だったのですが、本人いわくチーム内の派閥のせいで一軍で登板する機会はあまり与えられなかったようです)の投手時代、アメリカ武者修行時代などの前半は、すでにマンガ(「ジャイアント旋風」)で概要は知っていたものの、本人の口で語られると細部がクリアで興味深かったです。 
 また、アントニオ猪木とタッグを組んで「BI砲」として活躍した時代は、祖父の部屋で一緒に見た懐かしい試合が次々に出てきて感慨深かったです。
 その後の日本プロレスが崩壊し、全日本プロレスを立ち上げて、アントニオ猪木の新日本プロレスなどといろいろな抗争(興業の争いや選手の引き抜きあいなど)を社長として戦った話が、当事者の片側から一方的に書かれているのであまり読み味はよくなかったです(本人も書きにくいと言っていますし、私自身もそのころはプロレスを見なくなっていたせいもありますが)。
 ご存知のように、プロレスは、相撲や総合格闘技やボクシングとは違って、本当の真剣勝負ではない(シリーズ中は毎日のように試合があるのでいちいち真剣勝負をやっていては体が持ちません。レスラー同士の因縁などでセメントマッチと言って真剣勝負をやる場合もあります)のですが、この本ではあたかも真剣勝負であるかのような記述で統一されています。
 その一方で、本人は全日本プロレスのプロモーター(興行を主宰します)であるとともに、ブッカーであったとも明言しています。
 この本では、ブッカーを選手契約者と訳していますが、実は、ブッカーとはブック(すなわち試合のシナリオないし、そのシリーズ全体の筋書き)を書く人のことで、つまり演劇でいう脚本家なのです。
 そういった意味では、ジャイアント馬場は、偉大なプロレスラーであるとともに、優れた経営者(全日本プロレスの社長で、アメリカのプロレス組織のNWAの副会長)、凄腕のプロモーター(外人レスラーの招聘や各シリーズの地方巡業の運営など)、そしてブッカーとしての名脚本家といった、マルチの才能を持った人物だということができます。
 こうした興味深い人物たちを子どもたちに紹介するのも、かつては児童文学の重要な役割りだったのですが、最近は低調なようです。


ジャイアント馬場―王道十六文 (人間の記録)
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日本図書センター
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色川武大「少女たち」離婚所収

2017-03-21 11:06:46 | 参考文献
 「離婚」(その記事を参照してください)の前篇にあたる作品です。
 主人公が、匿名で娯楽小説(主人公を作者と考えると阿佐田哲也名義の麻雀小説)を書きはじめ、次第に売れっ子になるころです。
 先輩の事務所に居候していた主人公が、初めて独り立ちして事務所兼住処を得ます。
 そこに、秘書やアルバイトなどの名目で出入りするようになった少女たち(年齢的には二十代が大半ですが精神的には非常に幼く危うい)との不思議な関係(主人公は遊園地と呼んでいます)を描いています。
 四十近い主人公は、彼女たちの保護者気取りです(彼女たちと個人的な関係は一切なく、昼ごろから夕食まで、みんなで雑談したり、ご飯を作って食べたりしているだけです。主人公は、夜から朝方までは、一人で飲みに行ったりギャンブルに行ったりして不在です)。
 こうした関係も、主人公が売れっ子作家でお金も暇もあって、しかも家族がいない気楽な立場だからこそできることで(実際、「離婚」などの作品に登場する妻になる少女が現れて、「遊園地」は閉鎖されます)、普通の男性にとっては羨ましい話ではあります。
 現代では、こうした若い女性たちは、当時よりもはるかに自由な立場にあるように思われがちですが、実際には経済的には非常に厳しい状況が続いていて、今でも同様に危うい状況(悪い男や風俗関係の仕事にからめ捕られる)なのかもしれません。

離婚 (文春文庫)
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文藝春秋
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色川武大「妻の嫁入り」離婚所収

2017-03-21 09:55:33 | 参考文献
 「離婚」(その記事を参照してください)と「四人」(その記事を参照してください)の後日談です。
 今度は、元妻は主人公からの自立を模索します。
 まず、彼女は、仕事を始めようと、ブティックに勤めはじめます。
 主人公から見ても、彼女が仕事をするとしたら、ブティックぐらいしかむいている場所はないのですが、これも長続きしません。
 次に、年下の男を好きになって、彼と結婚しようと主人公のもとを離れて同棲を始めます。
 相手の男は主人公の知人で堅気のサラリーマンなので、主人公も応援しています(これで厄介払いができるという気持ちもあります)。
 しかし、これもすぐに破たんして、元妻は主人公の元へ舞い戻ります。
「出戻りという場合は、実家へ帰るというのがきまり相場なのに、此奴は元亭主のところへ帰ってくるんだなァ。」とぼやきつつも、主人公はまんざら悪い気分ではありません。
 こうして、二人の奇妙な関係は、また復活しました。
 こうしたつかず離れずの男女関係は、普通の婚姻関係をしているのが大半だった当時の男性たちにとっては、ある意味羨ましいものでした。
 非婚化が進んだ現代では、このような関係の男女は増えているかもしれません。

離婚 (文春文庫)
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文藝春秋
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モアナと伝説の海

2017-03-16 09:08:02 | 映画
 子ども向けのアニメですが、完成度は高いです。
 映像(特に海のシーン)が繊細で美しく、実写かと思わせるような場面もたくさんありました。
 CGは、実写映画よりもこういったアニメーションの方が、生かされているようです。
 実写映画では、アクションシーンなどでもどうせCGだと思うとあまり楽しめないのですが、アニメだと最初から割り切れて映像の美しさや迫力を素直に楽しめます。
 また、この作品はミュージカルでもあるのですが、評判の高い「ラ・ラ・ランド」よりも歌うシーンの質が高いようです。
 吹き替え版で見たのですが、日本語の声の出演者の歌のレベルもかなりのものがありました。
 エンターテインメントなので当然のことなのですが、広範な年代の観客をいかに楽しませるかの工夫がなされています。
 児童文学のエンターテインメント作品も、ディジタルおよびモバイル時代にどのように顧客にアピールするかをマーケティングしないと、どんどん取り残されてしまいます。

モアナと伝説の海 オリジナル・サウンドトラック <日本語版>
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WALT DISNEY RECORDS
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クリスマス プレゼント

2017-03-11 11:25:10 | キンドル本
 主人公の男の子は、おかあさんと二人で暮らしています。
 おかあさんは、主人公が通う学校とは別の小学校で、教師をしています。
 ある日、おかあさんがうつ病で入院してしまいました。
 担任している学級が問題のあるクラスで、そのストレスで容体が悪くなったのです。
 おかあさんが入院している間あずけられた母方の祖父母の家で、主人公は冷たい仕打ちを受けます。
 最後には、二人から、死んだと聞かされていたおとうさんが生きていて、両親は離婚していたのだと告げられます。
 そして、おかあさんが入院している間、別れたおとうさんの所へ行くように言われます。
 二人は、おかあさんがなかなか治りそうもないので、厄介払いがしたかったのです。
 主人公は、福岡から飛行機に乗って、東京のおとうさんのもとへやってきます。
 羽田空港では、おとうさんが待っていてくれました。
 遠く離れたおとうさんの家で主人公が体験したことは?

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ひとりぼっちの動物園

2017-03-11 11:22:56 | キンドル本
 小学一年生の主人公は、学校の遠足で動物園へ行きます。
 みんなを無視して、自分勝手な行動をしていたら、班のみんなとはぐれてしまいました。
 主人公は園内を探しまわりますが、他の子はなかなか見つかりません。
 一人ぼっちの動物園は、まるで様子が違ったみたいです。
 みんながもう学校へ帰ってしまったような気がして、主人公はだんだん不安になります。
 はたして、主人公はみんなと巡り合えるでしょうか?
 
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ひとりぼっちの動物園
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痛い!

2017-03-11 11:20:49 | キンドル本
 主人公は、中学校の女子駅伝選手です。
 彼女は記録を上げるために、顧問の先生から過度のダイエットと激しい練習を強要されています。
 体重が軽くなって、たしかに記録はよくなりましたが、それと引き換えのように生理が止まってしまいます。
 ある日、彼女は練習中に足を疲労骨折してしまいます。
 検査の結果、過度なダイエットや激しい練習で無月経になったことによるホルモン異常が骨折の原因でした。
 それでも、陸上部の顧問の教師は、自分の非を認めません。
 主人公は陸上部を休部し普通の食生活に戻して、体調を取り戻します。
 主人公は、担当医の勧めで、女子選手に理解のある高校に進んで、長距離を続けることを決意します。

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ダイビングキャッチ

2017-03-11 11:18:21 | キンドル本
 主人公は、少年野球チームに入っています。
 最近変わった新しい守備位置のセカンドに、なかなか慣れることができません。
 見かねたおとうさんが、毎朝特訓をやってくれることになりました。
 そのおかげもあって、主人公はようやく守備位置に慣れてきました。
 でも、大事な大会の直前に、今度は外野にコンバートされてしまいました。
 これは、監督が考えた強敵に対する秘策のためでした。
 おとうさんは、今度は外野守備の特訓をしてくれます。
 大会が始まりました。
 勝ち進んだチームは、強豪チームと県大会出場をかけて対戦することになりました。
 チームの監督が、主人公に指示した秘策とは?

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初恋に出会ったときに読む本

2017-03-11 11:16:19 | キンドル本
初めて異性を好きになる体験、「初恋」をめぐる中短編集です。

目次

デート・デート・デート
主人公が好きな女の子が転校することになりました。
なんとかお別れまでに告白したいと思います。
電話、手紙、待ち伏せなど、いろいろな作戦を練りますが、どれもうまくいきません。
最終的に、プレゼント作戦を実行することになりました。
いろいろなハプニングの末に、なんとかデートをする約束を取り付けます。
でも、クラスメートたちがデートの邪魔をします。
はたして、主人公の告白はうまくいくでしょうか?

ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール
主人公は、初めて理想の女の子と出会います。
一方、秘密基地では、男の子たちが秘密の冒険をしています。
女の子と初めてデートします。
学校をさぼって、ディズニーランドでデートします。
さぼりがばれて、周囲から迫害されます。
クラスのみんなのおかげで、二人は結婚式をあげます。
先生たちとの最後の戦いが始まります。

世界一の長距離ランナ-
主人公は電車で幼稚園に通っていました。
そこで女の子と知り合います。
彼らは幼稚園の帰りに不忍池に寄り道するようになりました。
そこで中学生の長距離ランナー、山下先輩と知り合います。
区大会の選考会でベスト5に入って選手に選ばれるために特訓していたのです。
区大会の選考会に、二人は山下先輩を応援にしに行きます。
その選考会のレース結果は?
帰り道で、主人公は女の子のために世界一の長距離ランナーになろうと誓います。

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初恋に出会ったときに読む本
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色川武大「したいことができなくて」怪しい来客簿所収

2017-03-10 16:04:00 | 参考文献
 戦後の出版界の底辺をさまよっていた老編集者について、実名で書いています。
 作中、彼の欠点をこれでもかと繰り返して書いて、一言もほめていないのですが、その裏に作者の彼に対する愛情が感じられるところが書き手の腕前です。
 こうした市井の名もない人を描いたノンフィクションは、沢木耕太郎の初期にも優れた作品がたくさんありました。

怪しい来客簿 (文春文庫)
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文藝春秋
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柏原兵三「蜂の挿話」柏原兵三作品集2所収

2017-03-10 11:41:52 | 参考文献
 バスに乗り合わせた人びとと、そこに紛れ込んだ蜂との関わりを描いた作品です。
 ほとんどストーリーらしいものはなく、徹頭徹尾細かな描写だけで形作られた短編です。
 かつて物語から出発した文学は、近代に入って描写(自然、場景、心理など)を獲得して、小説という形態が生み出されました。
 この短編は、そういった意味では小説の典型なのかもしれません。
 児童文学の世界でも、1970年代ごろから1990年代ごろまでは、描写を主体にした小説的な作品がたくさん出版されていました。
 しかし、現在ではそういった作品を読みこなせる子ども読者は激減し、そのためにほとんど出版されなくなりました。
 その頃活躍した作家の多くは、一般文学の方へ越境していったり、エンターテインメント的な作品へ傾斜していったり、幼年童話や絵本に活路を見出したりしています。
 高学年や中学生向けの小説的作品を書き続けている生き残り的な書き手たちは、少女小説(男の子たちよりはまだ読者が生き残っています)的性格を強めるか、自費出版の途を取るかしかないようです。

柏原兵三作品集〈第2巻〉 (1973年)
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潮出版社
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小川洋子「帯同馬」いつも彼らはどこかに所収

2017-03-10 10:18:12 | 参考文献
 スーパーで試食品のデモンストレーションをすることを仕事にしている主人公の女性と、スーパーをぐるぐる回って何度も試食を食べにくる小母さんとの、奇妙な友情を描いています。
 表題は、凱旋門賞への遠征でディープインパクトに帯同したピカレストコートにちなんでいます。
 主人公はモノレール(車内から飛行機と競馬場が見えるので羽田と浜松町を結ぶ東京モノレールだと思われます)の軌道の外には出られない(他の乗り物に乗ると不安から体調を崩してしまいます)のですが、世界中を旅したという虚言癖のある小母さんの帯同馬としてならば、どこかに飛びたてるのではないかと夢見ます。
 もちろん、現実には、モノレールから見える競馬場は地方競馬の大井競馬場なのでディープインパクトやピカレストコートとは関係ありませんし、ディープたちが出発したのも羽田ではなく成田です。
 でも、そんなことはどうでもいいのです。
 飛行機と競馬場とフランス遠征の帯同馬が、モノレールに乗った主人公の中で、一つに結びついたのです。
 主人公、小母さん、ピカレストコート。
 小川は、彼ら誰の目にも止まらない人びと(馬もいますが)に優しいまなざしを向けています。
 児童文学で弱者への視線というと、他の記事でもたびたび書きましたが森忠明の作品群が思い起こされます。
 現在の児童文学では、こういった滋味に富んだ作品は出版されなくなって久しいです。
 いっそ小川洋子に、現代を生きる子どもたちに向けたこのような作品を書いてもらえないかとも思いますが、おそらくあまり売れないでしょうから実現は難しいでしょう。

いつも彼らはどこかに
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新潮社
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川上未映子「アイスクリーム熱」愛の夢とか所収

2017-03-10 10:16:19 | 参考文献
 谷崎潤一郎賞を受賞した短編集の巻頭の短編です。
 アイスクリーム屋の店員が、そこに訪れる男性客に恋をして、おそらく失恋したと思われる感じで終わります。
 全体に水彩画のような淡いタッチで、恋心が描かれます。
 恋愛を仕事もうまくいかずいつのまにか大人になってしまったことを自覚する苦みが、アイスクリームのフレーバーのように作品を引き締めています。
 文章も作品世界も端正で純文学的ですが、描かれている世界が若い女性向きなので、一定の読者を獲得できるでしょう。
 これは現在の児童文学の世界でも同様なのですが、こういう作品は圧倒的に女性読者が多いので女性作家の方がビジネス的には有利なようです。

愛の夢とか
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講談社
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津村記久子「婚礼、葬礼、その他」婚礼、葬礼、その他所収

2017-03-10 10:15:14 | 参考文献
 作品論ではないのですが、簡単にあらすじを述べます。
 ヨシノは友人の結婚式の披露宴の途中で、会社の部長(直接の上司ではないようです)の父親の通夜に強引に呼び出されます。
 小さな会社なので昼間は業務に支障をきたすとのことで、全員が強制的に通夜に出席するのです。
 ヨシノは、大学のハイキング同好会の仲間だった新郎新婦を残して、一度も会ったことのない老人の通夜にすきっ腹を抱えて参加しなければなりません。
 披露宴の二次会の幹事だったヨシノは、携帯で披露宴会場と連絡を取りながら、なんとか最低限の幹事の務めを果たします。
 校長だったという故人の通夜には、愛人たちや全然かわいがってもらったことがなくて故人を憎んでいる孫娘などがいて、ヨシノはいろいろと理不尽な目にあいます。
 やがて、見ず知らずの故人の通夜に参列しながら、亡くなった祖父母のことや自分自身のこれからの人生に思いをはせます。
 作者ののちの作品に比べると完成度はもうひとつなのですが、いろいろ理不尽な目にあいながらもユーモアを持って生き延びていく主人公に託した作者の人生に対する肯定的なメッセージは、この作品からも読み取れます。
 児童文学においても、身近な人たちの結婚や葬式を通して自分を見つめなおす作品は、もっと書かかれてもいいのではないかと思いました。

婚礼、葬礼、その他
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文藝春秋
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