現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

「第一話 ルナールの誕生と子供時代」狐物語所収

2019-01-06 11:58:47 | 作品論
 児童文学の動物ファンタジーでは、動物によっては既定のキャラクターがそのまま設定されている場合があります。
 例えば、キツネの場合は、「ずるい」、「賢い」、そしてその二つを兼ね備えた「ずるがしこい」というキャラクター設定がされることが多いです。
 これらのキャラクターは、12世紀のフランスで異なる作者によって生み出された「狐物語」の主人公である、キツネの「ルナール」によって確立されたものでしょう。
 この短編では、ルナールが誕生した背景について書かれています。
 中世ヨーロッパは王政でしたので、ライオンを王として、このお話の脇役であるオオカミの「イザングラン」は重臣という設定です。
 王に直接はむかうことはこの時代では死を意味しますから、このお話では、代わりに重臣のイザングランを権力の象徴として、本来は力を持たない民衆の代表であるルナールが、ずるがしこさを発揮してイザングランをやっつける姿に、読者たちは喝采したのでしょう。
 ただし、現在ではこうした本来の物語構造をすっかり忘れられて、たんなるキャラクター設定になっている場合が多いようです。
 なお、本来は民衆(大人)のために書かれたので、「狐物語」には猥雑なシーンが頻出します。
 それが、子ども用の物語になる過程において漂白されて、人畜無害なものになってしまいました。
 過度にモラリッシュな現在の日本の児童文学界では、こういったピカレスクロマンを受け入れるのは難しいでしょう。

狐物語 (岩波文庫)
クリエーター情報なし
岩波書店
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馳星周「不夜城」

2019-01-06 09:12:58 | 参考文献
 1996年に発表されたノワール・ノベル(暗黒街を舞台にした犯罪がからむ小説)の傑作です。
 暴力、殺人、セックス、ドラッグなど、なんでもありのアクション小説なのですが、今までの同種の作品と違う点がいくつかあります。
 まず、安易なハッピーエンドにせず(一緒にピンチを切り抜けてきた主人公の愛人は、ラストで主人公自身によって射殺されます)に、主人公は最後まで悪党のままで、誰も信じずに生きていく姿勢を貫いています。
 また、登場人物たちが属するのは、従来のやくざ組織ではなく、中国人マフィア(台湾、上海、北京、香港など、出身地ごとにグループを作っています)で、彼らのメンタリティが非常にドライで新鮮に感じられました。
 主人公(台湾人と日本人のハーフ)と主人公の愛人(中国人と残留日本人のハーフ)が、「半半」と呼ばれて中国人にも日本人にも差別されている存在であり、彼らが誰も信じないで生きていくことにリアリティを持たせています。
 舞台は1990年代半ばの新宿歌舞伎町で、バブル崩壊によってかつての繁栄がなくなった場所に、さまざまな場所から中国人マフィアが流れ込んでいたころ(中国が経済発展する前です)の歌舞伎町の殺伐とした雰囲気をよくとらえています。

不夜城 (角川コミックス・エース)
クリエーター情報なし
角川書店
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