三島由紀夫賞と坪田譲治賞をダブル受賞し、芥川賞の候補にもなった作品です。
春休みに、利根川水系を我孫子から鹿島まで徒歩で旅するロードムービーのような趣のある作品です。
小説家の主人公と姪のサッカー少女(サッカーの強豪の私立中に受かったばかりの小学六年生)の二人組に、就職の内定が決まった女子大生が偶然途中から加わります。
「旅する練習」というよりは「練習する旅」といった方が適切かもしれない奇妙な旅です。
主人公は、所々で立ち止まって、その場所の風景(水辺や水鳥が多い)を描写します(それが彼の趣味であり仕事でもあります)。
その間、少女の方は、リフティングの練習をします。
そこに、ジーコと鹿島アントラーズのファンになったばかりだという女子大生のエピソード(コロナのために内定辞退を促されます)が絡んできます。
彼女との出会いもそうなのですが、いったん二人から離れて、再会するあたりは特に強引ですが、私自身もジーコと鹿島アントラーズのファンなので、それに関するエピソードはかなり楽しめました。
それだけに、少女の死という衝撃的なラストは納得がいきませんでした。
全体に、擬古的な文章だったり、古典的な文学者の引用を散りばめたり、運動能力の高い魅力的な少女が重要な役だったりなど、堀江敏幸の「いつか王子駅で」(その記事を参照してください)を思い起こさせますが、あちらはラストの読み味が良かったのになあと思わざるを得ません。