現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

遠い空の向こうに

2024-11-05 08:33:53 | 映画

 1950年代の宇宙開発競争時代に、ソ連の人工衛星スプートニクスの成功に刺激を受けて科学に目覚め、ロケット開発に夢中になっていく少年たちを描いています。
 まさに、児童文学の王道の成長物語を絵にかいたような作品です。
 閉塞した田舎の炭坑町(そこを抜け出すには、主人公の兄のようにフットボールの奨学金を手に入れて大学に進学するしか方法がありません)、炭坑に人生のすべてをささげている父との葛藤、父の事故、科学コンテストに出場するよう励ましてくれる恩師の病気、度重なる失敗など、さまざまな障害を乗り越えて科学コンテストの全国大会で優勝して、仲間たち(ロケットボーイズと呼ばれています)と共に大学進学の奨学金を獲得します。
 実在するNASAの技術者の自伝に基づいた、典型的なアメリカンドリームのサクセスストーリーなのですが、俳優陣の堅実な演技が素直な感動を与えてくれます。
 あらゆる意味で1950年代はアメリカの黄金時代だったのですが、現在はトランプ大統領が誕生した背景にある格差問題(特に若年層)が深刻化しています。
 アメリカでは大学の学費の高さとそのための学生ローンが問題になっていますが、日本でも奨学金の名を借りた高利の学生ローンは若い世代の大きな負担になっています。
 これらの解決の消極的な行政や政治家たちに、強い怒りを覚えます。


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ブルース・ブラザース

2024-11-04 11:32:27 | 映画

 1980年公開のアメリカ映画です。
 アメリカの人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の同名コーナーの出演者を中心に、ストーリーを膨らましてアクション映画とミュージカルの要素をごたまぜにしたスラップスティック・コメディです。
 当時人気絶頂だった芸達者のジョン・ベルーシとダン・エイクロイドを中心にした、豪華メンバーによる演奏とダンスが途方もなく楽しいです。
 特に、大御所のジェームス・ブラウン、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズたちが、結構重要な役を楽しそうにこなしながら、歌やダンスを見せてくれるのはゴージャスです。
 カーチェイス、クラッシュ、爆破、銃撃戦などの派手なシーンも、現在と違ってCGを使わずに実写で描かれているので迫力満点です。
 けっこう建物や多数のパトカーがめちゃくちゃになるのですが、誰一人死なないどころか怪我もしないので心から楽しめます(ただし、カー・スタントの人たちは怪我をしたかもしれません)。
 スター・ウォーズのレイア姫役で当時人気者だったキャリー・フィッシャーが、ベルーシの命を付け狙う元恋人役で出ていて、その暗殺方法がロケット砲、時限爆弾、火炎放射器、マシンガンとハチャメチャで大げさなのですが、もちろんベルーシはかすり傷一つ負いません。
 とにかくばかばかしいストーリーなのですが、彼らの大暴れの理由がベルーシとエイクロイドが育った孤児院の立ち退きを救うためなので、どんなに無茶をしてもどこかホロリとさせられます(やっと児童文学につながりました)。
 また、ベルーシとエイクロイドの黒づくめの衣装にサングラスのスタイルは大流行して、その後、「マトリックス」や「メン・イン・ザ・ブラック」でも踏襲されています。

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モーリス・センダック「かいじゅうたちのいるところ」

2024-11-03 07:24:59 | 作品論

 映画にもなった世界中で読まれている人気絵本です。
 1963年に出版されましたが、日本に紹介されたのは1975年です。
 私の読んだのは1998年4月28日69刷ですから、日本でもロングセラーになっています。
 主人公の少年マックスが家で大あばれして、おかあさんに怒られて部屋に閉じ込められてから、彼の不思議な大冒険が始まります。
 マックスが怪獣の王さまになるストーリー自体はそれほど波乱に富んだものではありませんが、センダックの描く怪獣たちの絵が迫力があり、画面構成の変化にも非常に工夫を凝らしてあって、主人公と読者の、意識と無意識の領域の変化を巧みに表していて、最後までページごとの主人公および読者の意識と無意識の変化を楽しめるつくりになっています。
 児童文学研究者の本田和子は、「境界にたって その3 「自己」の文学 ―― 無意識と意識のはざまに生まれるもの」(「子どもの館」18号所収、その記事を参照してください)という論文の中で、「この物語は、一人の少年の無意識への退行と、新たな統合を成就した上での意識への回帰を、あまりにも典型的に描き出していて説明の要もなく思えるほどである。」と評しています。
 この論文は1974年11月に発表されたもので、日本版が出る前なのでこの本の日本語の題名が違っていますが、すでに海外では評判になっていたようです。
 長文になるので細かい解説は引用しませんが、本田の心理学に基づいたこの絵本の解析は見事ですので、興味のある方は是非雑誌を図書館で取り寄せて読んでみてください。
 ご存知のように、この本は世界中で2000万部以上も売れたベストセラーになりました。
 本田が指摘しているように、意識と無意識が大人より不分明である子どもたちにとっては、両方の世界を象徴的に描いたこの本はすんなり受け入れられる作品なのでしょう。

かいじゅうたちのいるところ
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冨山房
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E.T.

2024-11-02 08:06:11 | 映画

  1982年公開のスピルバーグ監督の映画で、世界中で空前のヒットをしました。

 E.T.と子どもたち、特に主人公のエリオット少年の心の触れ合いは、何度見ても心温まるものがあります。

 今のCG全盛の映画と比べると、宇宙船や特撮は手作り感満載なのですが、そんなことはどうでもいいのです。

 要は、ドラマが描けているかどうかなのです。

 大人たちの権力に対する子どもたちの完璧な勝利。

 そう、この作品は、児童文学の王道をいく作品なのです(映画ですが)。

 しかも、子どものころの心を失わない大人たちも登場し、児童文学作品が子どもだけでなく大人のためにもあることも証明してくれています。

 それは、スピルバーグ自身が子どもの心を失わない真の児童文学者(映画監督ですが)だからなのでしょう。

 

 

 

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七人の侍

2024-11-01 15:40:34 | 映画

 1954年(私が生まれた年です)に公開された、言わずと知れた黒澤明監督の代表作の一つです。
 手に汗握るアクション時代劇でありながら、人生とは何か、生きるとは何か、死とは何か、野武士たちに搾取されている百姓たちの悲しみ、負け戦を転々とする浪人たちの悲しみなどを余すところなく描き出した傑作中の傑作です。
 志村喬演じる軍略に通じいつも冷静沈着なリーダー役を初めとして、三船敏郎の百姓上がりの野性児、木村功の育ちの良い若侍、稲葉義男の温厚なリーダーの補佐役、加藤大介のほがらかなリーダーの女房役、千秋実のひょうひょうとしてとぼけたムードメーカー、宮口精二の寡黙な剣の達人と、七人の個性が際立っていて、後のいろいろな映画を初めとしたエンターテインメントで、リメイクされたり(一番有名なのは「荒野の七人」)、模倣されたりしています(フランシス・フォード・コッポラやスティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスといった面々にも、この映画は多大な影響を与えました)。
 見る人によって七人のうちの誰が好きかは意見が分かれるでしょうが、四十年以上も前に初めて見た時以来、私にとっては、作品中で木村功演ずる勝四郎が心酔したように、宮口精二演ずる久蔵が一番魅力的でした。
 味方が窮地に立たされた時は常に平然と一人で死地にも赴き、抜群の功績を残しても決して驕らず、「男の中の男」という言葉は、この男のためにあるのじゃないかと今でも思っています。
 全編、男臭い映画なのですが、津島恵子演ずる美しい百姓の娘しのと、勝四郎の、身分を超えた激しい恋愛が色を添えています。

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ジョーズ

2024-10-31 09:08:05 | 映画

 1975年に公開され、スティーブン・スピルバーグの名を不朽のものにしたパニック映画の傑作です。
 言い古された話ですが、サメが姿を見せない前半の恐怖の盛り上げ方(音楽、カメラ・アングルなど)が、他の恐怖映画とは一線を画しています。
 後半も、姿を現したサメと三人の男たち(海が苦手な島の警察署長、お金持ちのボンボンの海洋学者、サメ漁師の荒くれ男といった個性豊かな役どころを、それぞれロイ・シャイダー、リチャード・ドレイファス、ロバート・ショーという名優たちが演じています)との死闘もスリリングです。
 封切り時にはそのころ好きだった女の子と渋谷で見たのですが、前半は急な場面転換で怖いシーンが出てくるので、隣の女の子をかばいながら見るのに最適な映画だったことを今でも覚えています。
 そのころは、スピルバーグか、フランシス・コッポラか、ジョージ・ルーカスの映画(ジョーズ、インディ・ジョーンズ・シリーズ、E.T.、ゴッド・ファーザー・シリーズ、地獄の黙示録、アメリカン・グラフィティ、スター・ウォーズ・シリーズなど)さえ見れば、まずはずれはなかったので、女の子とのデートにはもってこいでした。

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ファーゴ

2024-10-30 15:38:56 | 映画

 1996年公開のアメリカ映画です。
 一種のクライム映画で、警察映画でもありますが、謎解きをメインにしたものではありません。
 妻の狂言誘拐を企てる夫側(夫、息子、妻の父、その経理士)も、二人の実行犯も、捜査する警察側も、すべてがいきあたりばったりで、偶然殺人事件が起こり、偶然さらなる殺人事件が起こり、偶然それらが解決されます。
 メインのストーリーに関係ないエピソード(主役の女性警察署長と、その絵かき(?)の夫、彼女の大学時代の友人のノイローゼの男性、犯人が買った娼婦たち、無責任な情報提供者たち、やる気のない警察関係者との他愛のない会話や、頻繁に登場する暴力シーンやセックスシーンやジャンクフードによる食事シーンなど)が積み重ねられ、どんな凶悪事件でも、実際の犯罪捜査中の捜査官や犯人の生活なんかこんなものなんだろうなあと思わせる、妙なリアリティが魅力です。
 さらに、一人として、イケメンも美人も登場しなくて、どこにでもいそうな(どちらかと言うと容姿が劣る)出演者たちが、作品のリアリティをアップさせています。
 妊娠七ヶ月の大きなお腹を抱えて、凶悪事件をさり気なく解決させてみせるという難役を演じたフランシス・マクドーマンドがアカデミー主演女優賞を獲得しています。
 彼女は、「スリー・ビルボード」でも再びアカデミー主演女優賞を獲得しているので、典型的なアメリカ女性を演じるにはうってつけの女優なのでしょう。


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夏目漱石「こころ」

2024-10-27 14:35:41 | 参考文献

 この文豪の名作にコメントするつもりはありません。
 ただこの作品を久しぶりに読んだのは、キンドル(電子書籍リーダー、その記事を参照してください)で無料で簡単に読めたからです。
 キンドルストアの無料本のベストセラーの上位には常にランクされていますから、かなりの人数の人びとがあらためてこの作品に触れる機会を得たのでしょう。
 この作品に書かれている世界は、明治天皇が崩御されて明治が終わるころですから百年以上前のことです。
 そのころに書かれた作品が、風俗の違いこそあれ、今でも大きな違和感なく読めるのは、漱石の平明な文章によるところが大きいものの、書かれている内容に普遍性があるからでしょう。
 こういった近代文学の古典を読むと、文学の力というものを改めて感じることができます。
 これらの古典的な作品を身近に味わえるところに、電子書籍による読書という新しい風俗のひとつの意義があるのではないでしょうか。
 その点では、一部の例外を除くと、日本の児童文学の代表作の電子化は遅々として進んでいません。
 一方、英語圏の児童文学の代表作は、ほとんどが電子書籍になっていて、無料もしくは安価で手に入ります。
 日本の児童書の出版社が、児童文学作品を耐久財ではなく消費財と考えていることが、この点からも分かります。
 また、この作品の主人公や先生のような生き方(高等遊民)には、初めて読んだ中学生の時に強く憧れて、高校生や大学生の時にささやかながら実体験(当時の「高等遊民」の遊びは、最先端の演劇、映画、音楽、美術、文学などを追及することでした)しました。
 会社に勤めてからは、48歳までにHappy Retirementして高等遊民に戻りたいと考えていましたが、子どもが生まれたのが遅かったせいもあって実際にはだいぶ遅れてしまいました。
 今はようやくそういったものを追求できるのですが、現在ではかつての高等遊民の遊びの各分野とも、商業主義がひどく進んでしまっているので、それらの最新のものは追わずに古典や名作に親しむ方が無難なようです。

こころ (新潮文庫)
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新潮社
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斎藤栄美「ふたりの秘密」

2024-10-26 16:14:42 | 作品論

主人公の小学生の女の子は、同じマンションに引っ越してきた女の子が、同じクラスになることをきっかけに友だちになります。

しかし、その女の子には秘密があって、なかなかそれを打ち明けてくれません。

主人公の女の子は、その子の気持ちに寄り添って接していきます。

そして、とうとうその子は秘密を明かしてくれます。

それ以来、二人は秘密を共有することによって、ますます仲良くなっていきます。

二人の女の子の気持ちを丁寧に描いていくことによって、人の気持ちを思いやることの大切さを教えてくれます。

 

 

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ピーター・パン ライブ

2024-10-25 09:16:13 | 演劇

 バリーの「ピーター・パンとウェンディ」のミュージカル化です。

 原作に忠実に作られているので、ジェンダー観はかなり古い(女性はおかあさんになり、子供たちの面倒を見る。ラストでは、ウェンディの娘が新たなピーター・パンの相手になり、そう繰り返されることによってピーター・パン(男の子)の永遠の命が保証される)ものです。

 別の記事にも書きましたが、この作品は繰り返し劇化(もともと劇用なので当然ですが)されていますが、そのたびにウェンディは、その時その時のジェンダー感(ある時には自立した女性として、また別の時は家庭的な女性として)が反映されているようです。

 そういった意味では、この作品が作られた時(2014年)は、アメリカのジェンダー観はかなり保守的だったのでしょう。

 それはさておいて、歌と踊りとワイヤー・アクションと美術セットは本当に素晴らしく、十分に楽しめました。

 

 

 

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