二十歳の時に初めてこの作品を読んだ時、こんなにかっこいい短編は今まで読んだことがないと思いました。
その感想は、五十年たった今、読み直しても少しも変わりません。
まず、これほど完璧な「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」的な作品は、他にはないでしょう。
二人(ラドフォドとペギィ。11歳?)が出会うシーン(ペギィが噛みかけのガムを首の後ろのくぼみにさし込むところが格好良かったので、ラドフォドが声をかけました)。
二人を強く結びつけた完璧な音楽的センス(ラドフォドが前から友だちだった酒場の黒人ジャズピアニストの演奏と、途中から彼の店へやってきた姪のジャズシンガーの歌声に対する二人の反応に対する描写は、音楽ファンなら誰でもしびれることでしょう)。
二人の婚約(?)(ペギィが、ちょっと怪我しただけ(あるいはしていない)の額に、ラドフォドをだましてキスさせて、それで婚約が成立したと宣言します)。
二人の別れと再会。
こうした「ア・ボーイ・ミツ・ア・ガール」的ストーリーの中に、1927年当時の南部(テネシー州)の黒人差別(病院をたらいまわしにされて、黒人ジャズシンガーは急性虫垂炎で死にます)、二人が再会した1942年の雰囲気(第二次世界大戦中で、インターン(医者になろうとしたきっかけは黒人ジャズシンガーの死が影響しているかもしれません)のラドフォドは陸軍に召集されるところで、ペギィは海軍の航空兵と結婚しています)、1944年の戦地での様子(語り手(サリンジャーの分身でしょう)がラドフォドからこの話を聞きます)などが、簡潔にしかし印象的に描き出されています。
だいたい「ブルー・メロディ」というタイトル自体が、すごくかっこいいですよね。
ほとんどの創作を始める人が同様だと思いますが、私も好きな作家の模倣からスタートしました。
私の場合の模倣する対象は、アラン・シリトー(「長距離ランナーの孤独」など)、ペイトン(「卒業の夏」など)と並んで、サリンジャーでした。
サリンジャーの作品で、「笑い男」(その記事を参照してください)と並んで真っ先に模倣したのが、この「ブルー・メロディ」でした。
その「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」的短編は、当時の雑誌「日本児童文学」の創作コンクールの選者の人たちはすごく褒めてくれたのですが、もちろんその出来が本家に遠く及ばなかったことは言うまでもありません。