現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

パッチギ!

2022-07-27 15:04:53 | 映画

 2005年公開の日本映画です。

 井筒和幸監督の代表作で、1968年の京都を舞台に、けんかに明け暮れる朝鮮高校と対立する日本人の高校の生徒たちを描いています。

 暴力を描きながらも、当時の在日朝鮮人の問題(差別や貧困や帰国事業など)にも触れて、単なる娯楽映画としてではなく評価されて、キネマ旬報ベストテンの一位など数多くの賞を受賞しました。

 両者の対立の中に、日本人男子高校生と朝鮮高校の女生徒との恋愛も描いて、ちょっとロミオとジュリエット的な味付けもなされています(女生徒を演じたエリカ様になる前の沢尻エリカのなんとかわいいことか)。

 また、全編を流れる「イムジン河」の美しく切ない詩情が、作品に効果的に使われています。

 表題のパッチギは朝鮮語で「乗り越える」という意味でこの映画では使われていると思われるのですが、それ以外に「頭突き」という意味もあって、朝鮮高校の番長(沢尻エリカ演じる女生徒の兄)の喧嘩での得意技でもあります(この映画と同じころ、東京の下町でもパッチギは「朝鮮パンチ」と呼ばれて恐れられていました)。

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

うさぎドロップ

2022-07-22 08:24:26 | 映画

 2011年の日本映画です。

 人気コミックスの実写版ですが、後半はオリジナルな内容のようです。

 ひょんなことから、祖父の隠し子の女の子(六歳)を引き取ることになった独身男性の奮闘記(保育園、仕事との両立、実母との対決など)です。

 主演の松山ケンイチも熱演していますが、なんといっても、当時六歳の芦田愛菜の天才子役ぶりが目立っています。

 舞台の一つが保育園なので、たくさん子役が登場しますが、その子たちが全くのど素人に見えてしまうほどで、大人の俳優でもできないような表情や仕種での演技や完璧な台詞回しなど、その演技力は群を抜いています。

 けっきょく、松山ケンイチだけでなく脇を固める名だたる俳優陣(中村梅雀、風吹ジュンなど)を完全に喰ってしまいました。

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮内悠介「人間の王」盤上の夜所収

2022-07-19 14:38:01 | 参考文献

 チェッカーの無敵のチャンピオンだったマリオン・ティンズリーに関する作品です。
 チェッカーは10の30乗ほどしか局面がなく、囲碁の10の360乗や将棋の10の220乗はもちろん、チェスの10の120乗と比べても格段にシンプルで、1992年にはコンピューターは人間よりも強くなっていますし(チェスでコンピューターが人間より強くなったのは1997年、最近話題になっていますが将棋や囲碁もコンピューターの強さが人間を上回っています)、コンピューターによる完全解(最善手を続けると必ず引き分けになる)も2007年にだされています。
 マイナーなすでにゲームとしての命も失われてしまったチェッカーについて、ほぼノンフィクションの手法(最後にSF的なフィクションの味付けがされています)で書かれた名人伝なので、私のようなゲームマニア以外は退屈な作品でしょう。
 また、宮内のノンフィクションライターとしての姿勢も物足りません(ほとんどが既存の文献からの孫引きで、実地の調査がほとんどされていません)。
 とってつけたようなSF的な味付けもいかにもありがちで、読者を驚かせてくれません。
 児童文学でも、事実(例えば教育実践など)をもとに書かれた作品はたくさんあるのですが、ほとんどがフィクション化が中途半端になってしまって成功例(例えば、古田足日の「おしいれのぼうけん」など)は少ないと思われます。

盤上の夜 (創元日本SF叢書)
クリエーター情報なし
東京創元社
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新宿スワン

2022-07-13 16:27:34 | 映画

 新宿歌舞伎町で、女の子たちをキャバクラや風俗に紹介するスカウトたちの生態を描いた映画です。
 人気漫画の映画化なので当たり前なのですが、設定やストーリーはマンガ的で荒唐無稽です。
 くだらないと言ってしまえばそれまでですが、興業的には成功して続編も予定されているようなので、今の若い人たちが映画に何を求めているかがよくわかります。
 暇つぶしになる気楽な(深刻にならず頭も使わない)娯楽、自分自身の(平凡な)日常ではない非日常世界(裏世界も含めて)への興味(自分自身はそれらから安全な位置にいられることが前提です)などです。
 こういった欲求を満たす映画は、かつて映画が娯楽の王者だった時代(1920年代から1960年代ぐらいまで)にもたくさんありました。
 ただ、そのころは映画産業はもっと豊かでしたし、才能を持った人材も豊富だったので、別途芸術的だったり社会的だったりする映画も作れました。
 中には、芸術性や社会性を娯楽性と共存させる作品(例えば黒沢明の諸作品など)までが存在しました。
 しかし、今は違います。
 ほとんどの映画は、様々なスポンサーの出資によって作られています。
 そのため、製作費に対するリターンだけが重視されて、無難に観客動員でき、さらにビデオレンタルやテレビ放送でも稼げる作品しか作られません。
 また、映画産業に携わっていても、主演級の俳優を除いては十分な収入が得られませんから、才能のある人間が集まりようがないです。
 そのため、ますますつまらない映画しかできないようになる負のスパイラルに陥っています。
 この状況は、現在の児童文学業界も、まったく同様です。
 1980年代から1990年代初頭までの出版バブルの時代には、現在のような娯楽的な作品だけでなく芸術性や社会性を持った多様な作品も出版されていましたが、現在では売れそうもない作品を出版するような余裕は児童書の出版社にはありません。

 

新宿スワン コミック 全38巻完結セット (ヤングマガジンKC)
クリエーター情報なし
講談社
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原結子「コナミのいる島」コナミのいる島所収

2022-07-05 18:03:03 | 作品論

 第7回児童文学草原賞を受賞した短編で、原結子作品集の表題作にして巻頭作品です。

 与那国島の豊かな自然を背景に、将来島に残って馬を育てることを夢見る少女ナミの姿が、感性豊かな文章で描き出されています。

 彼女の周辺にいる祖父、母、従兄弟なども生き生きと描かれていて、少女の自立を助けています。

 嵐の様子、愛馬コナミの出産、かつて島で行われていた人減らしの習わし、乱暴なオス馬の乱入、出産をひかえた母、機織り、島バナナなどのエピソードが的確に描き出されていて、作品のリアリティを保証しています。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする