梅雨の合間の良く晴れた日だった。ぼくは、学校の帰りに一人で横山公園のそばを通っていた。
中からは歓声が聞こえてくる。公園では、いつものように幼稚園ぐらいの子たちがたくさん遊んでいた。
公園の中心には、すべり台やジャングルジムやトンネルなどを組み合わせたような複合遊具がある。そこに大勢の子どもたちが群がっていた。
複合遊具のそばで、大声で泣いている小さな男の子がいる。
(ぜんぜん変わらないな)
と、ぼくは思った。
ぼくも幼稚園や小学校の低学年のころには、いつもここで遊んでいた。そして、あの子のように泣いたり笑ったりしていた。そのころも、この公園は、子どもたちのかっこうの遊び場だった。
もっと早い時間には、幼稚園や小学校の子たちばかりでなく、バギーに乗せられてやってきた、もっと小さな子たちもたくさん来ていた。公園の周囲にあるベンチでは、そばにバギーを並べて、若いおかあさんたちが大勢おしゃべりをしていた。子どもたちだけでなく、おかあさんたちにとっても、この公園はちょっとした社交場なのだ。
ぼくは足を止めて、公園の外からしばらく子どもたちが遊んでいるのを見ていた。そうすると、小さかったころのことが思い出されて、頭のすみがジーンとしびれてくるような感じがした。
ぼくは、幼稚園のころの自分を思い出していた。
その日も、ぼくはおかあさんに横山公園に連れてきてもらっていた。二つ年上のにいちゃんも一緒だ。ぼくは幼稚園に入ったころで、にいちゃんは小学一年生になったばかりだった。
公園の複合遊具は、その時も大勢の子どもたちで混み合っていた。
いつの間にか、ぼくはにいちゃんとはぐれてしまっていた。
ぼくは、複合遊具の頂上からまわりを見渡した。
でも、にいちゃんの姿は見えない。おかあさんは、遠くでママ友たちとおしゃべりしている。
しかたないので、ぼくはすべり台で下りていった。このすべり台は、いつも気持ちの良いスピードが出る。
「おい、どけよ」
すべり台をすべり終わってその場にそのまま立っていたら、後ろからすべってきた男の子にどなられた。
振り返ると、その子はぼくよりだいぶ大きかった。
「どけったら」
その子は、いきなりぼくを力いっぱい突き飛ばした。ぼくはあおむけに倒れて、ゴンと後頭部を地面にうちつけた。
ぼくは、驚いたのと痛かったのとで、大きな声をあげて泣き出してしまった。ぼくを押し倒した子は、ニヤニヤしながら見下ろしている。ぼくにはその子が、テレビの変身ヒーローシリーズに出てくる恐ろしい怪人のように思えた。
と、その時だ。
「よっちゃん、どうした?」
離れていたところにいたはずのにいちゃんが、いつのまにかぼくのそばにきていた、ぼくの泣き声を聞きつけてとんできてくれたのかもしれない。
「なんだ。てめえは」
ぼくを泣かした子は、今度はにいちゃんにパンチしようとした。
でも、にいちゃんはすばやく相手のパンチをかわすと、思いっきり両手で相手を突き飛ばした。
今度は、その子が地面に後ろ向けに倒れて、後頭部を打ちつけた。
「キーック!」
にいちゃんは、さらにその子にとどめをさしている。
その子は大声で泣き出すと、あっさりと逃げ出していった。にいちゃんは、あっという間に、いじめっ子をやっつけてくれたのだ。
「よっちゃん、もう大丈夫だよ」
にいちゃんは、ぼくの頭をやさしくなぜてくれた。
ようやくぼくが泣きやむと、にいちゃんは二カッと笑った。ぼくも、もう安心しきってニコッと笑い返した。
そう。小学一年生のにいちゃんは、そのころのぼくにとっては、いつでもピンチになると助けにきてくれるスーパーヒーローのような存在だったのだ。
それから何年かたって、ぼくも小学校にあがった。
にいちゃんと一緒に学校へ通うようになると、ぼくにも少しは現実がわかるようになってきた。上級生の他の男の子たちと比べて、にいちゃんがけっして飛びぬけてすぐれた存在ではないことに気がついてしまったのだ。
いや客観的に見れば、むしろごく平凡な男の子に過ぎなかったのかもしれない。
にいちゃんは引っ込み思案なのか、授業中もそれ以外でも、積極的にみんなを引っ張っていくタイプではなかった。
授業参観にいったおとうさんの話によると、先生がみんなに質問した時、にいちゃんも手を挙げているのだけれど、机の上から数センチのごく低空飛行だったので、先生がぜんぜん気付いてくれなかったのだそうだ。
「わかっているんだから、もっと高く手を挙げればいいのに」
おとうさんがそう言っても、にいちゃんは恥ずかしそうに笑っているだけだった。
それでも、相変わらず、ぼくはそんなにいちゃんを尊敬していた。
そのころは、四畳半の部屋に二段ベッドとそれぞれの勉強机を持ち込んだ相部屋だったので、ぼくとにいちゃんはいつも一緒だった。
にいちゃんは、おかあさんに言われなくてもいつもこつこつと勉強していて、算数でも国語でも、ぼくがわからないことはなんでも教えてくれた。
いつかおかあさんがそっと見せてくれたにいちゃんの通信簿は、どの科目もすごくいい成績だったので、ぼくはびっくりしたことがあった。もしかすると、おかあさんはそれを見せれば、平凡な成績のぼくが少しは発奮するんじゃないかと思ったのかもしれない。
一緒に入っていた少年野球チームでもそうだった。
小柄で不器用なにいちゃんは、チームではずっと補欠だったけれど、みんなが帰った後もいつも一人だけ居残り練習をしていた。
そんなにいちゃんを監督やコーチたちも見捨てられなかったのか、いつでも誰かがつきっきりで教えてくれていた。
そして、五年の秋に新チームになった時、にいちゃんはライパチ(守備はライトで打順は八番の、最後のレギュラーポジション)ながら、監督言うところの史上最強世代のチームのレギュラーポジションを見事に獲得していた。
そう、その時も、まだにいちゃんはぼくの誇りだったのだ。
ガチャン。
「ただいま」
玄関のドアを開けて、ぼくはいつものように小さくつぶやいた。
といっても、誰かの返事を期待しているわけではない。とうさんは会社だし、かあさんもこの時間にはまだパートから帰ってきていないからだ。いってみれば、「ただいま」と言ったのは、帰宅の時のたんなる習慣のようなものかもしれない。
と、その時だ。左手の部屋から、
「おかえり」
と、小さな声が聞こえた。
(にいちゃんだ)
にいちゃんが、返事をしてくれたのだ。
ぼくは、急いで靴を脱いで家に上がると、
「にいちゃん、ただいまあ」
と、大きな声でもう一度言った。
「……」
ぼくはにいちゃんの部屋のドアをじっとながめたが、それっきりにいちゃんから返事はなかった。
でも、確かにさっきの声はにいちゃんだった。ぼくがにいちゃんの声を聞いたのは、数か月ぶりのことかもしれない。
(にいちゃんが返事をしてくれた)
それだけでも、ぼくにはすごくうれしいことだった。
にいちゃんは、今年、中学二年生になった。
でも、中学に入ってから学校を休みがちになってしまっていた。
初めのころは、家にいる時はすごく元気で普通に生活していた。それなのに、学校だけは休んでしまうのだ。
朝、学校に行こうとすると、にいちゃんはおなかが痛くなったり吐き気がしたりして、家を出られなくなってしまった。
そういった症状が出るのは、最初は月曜日だけだった。火曜日以降は、そのままずっと学校へ通うことができた
それが、だんだん休む日が、火曜日まで、水曜日までと増えていって、そのうちにまったく学校に行かれなくなってしまった。
詳しい理由は、ぼくにはわからない。
いろいろな小学校から来た生徒たちがいる中学校に、なじめなかったからだとも言われていた。確かににいちゃんは人見知りで引っ込み思案だったので、新しい環境に適応するのが難しかったのかもしれない。
誰かに『いじめられた』という噂もあった。このことでは、学校でも調査をしたようだが、真相はうやむやのままだった。
おとうさんやおかあさんは、なんとかにいちゃんがまた学校へ行かれるようにと、いろいろなことをやっていた。
学校の先生にも協力をお願いした。先生たちはかわるがわる家庭訪問をしてくれたり、クラスメイトたちからの手紙を届けたりもしてくれた。
でも、それらは、まったく効果がなかった。
その後も、両親は、教育委員会に相談したり、専門のカウンセラーの所へにいちゃんを連れていったりもした。
それでも、にいちゃんは依然として学校へ通えなかった。
最近は、おとうさんもおかあさんも、にいちゃんを無理に学校へ行かせることはあきらめていた。
これには、
「しばらくあまり干渉しないように」
との、専門家のアドバイスも影響していたのかもしれない。
OK3-2.引きこもり
にいちゃんが完全に学校へ行かなくなってしまってから、もう一年以上になる。それ以来、にいちゃんは、玄関脇の自分の部屋にこもりっきりになってしまった。
にいちゃんの部屋は、一階の北東の角の四畳半だ。もともとは、おとうさんの書斎だった部屋で、一方の壁はすべて天井までが作りつけの本棚になっていて、読書好きのおとうさんの本がぎっしりと詰まっている。本棚を隔てて反対側にある南東向きのぼくの部屋とは対照的に、昼でも薄暗い日当たりの悪い部屋だった。しかも、本棚の分だけぼくの部屋よりも狭い。
でも、居間からふすまを開け閉めして出入りするぼくの部屋とは違って、玄関から直接行ける独立した部屋だった。それに、ぼくの部屋のような和室ではなく、鍵のかかるドアがついたフローリングの洋室だ。
にいちゃんが中学に上がる時に、ぼくたちは、それまでの二段ベッドで同じ部屋を使うのを卒業して、個室を持つことになった。それと同時に、とうさんは自分の書斎を失ったわけだ。
今までの子ども部屋と書斎のどちらかを自分の部屋に選ぶ時、優先権はにいちゃんにあった。にいちゃんが中学生になってもっと勉強が忙しくなるだろうということが、それぞれの個室を持つという部屋替えの理由だったからだ。
にいちゃんは、居間から独立していることと鍵がかけられることが気にいって、自分からその北東の部屋を選んだ。
ぼくは、にいちゃんほど独立した部屋が欲しいわけではなかったので、日当たりが良く少し広い今の部屋に満足していた。まあ、お互いに納得できる部屋選びだったというわけだった。
にいちゃんは、二段ベッドの上の段を解体してできた自分のベッドと勉強机を、おとうさんやぼくに手伝ってもらって、新しい自分の部屋に持ち込んだ。
おとうさんも、パソコンデスクやチェアを部屋の外に出した。さらに、自分の蔵書の一部を他の部屋に移して、作り付けの本棚ににいちゃんのスペースを作ってあげた。にいちゃんは、自分のコミックスやライトノベルをズラリとそこに並べた。
学校に行かなくなってからは、にいちゃんは一日中自分の部屋にこもっている。
にいちゃんは、自分の部屋に厳重に鍵をかけていた。ドアの鍵だけでなく、ドアの取っ手にチェーンをからませて、南京錠までかけている。
前に、おかあさんが合鍵を使って入ろうとした時、チェーンが邪魔して入れないことがあった。
「にいちゃん、中に入れて」
「いやだよ。向こうに行ってよ」
「チェーンをはずして」
「だめ。絶対入らないで」
二人が大騒ぎをしているので、おとうさんやぼくも集まってきた。
けっきょくにいちゃんは部屋に人が入るのを最後まで拒んで、それ以来家族の誰にもほとんど姿を見せなくなった。そのころまでは、にいちゃんはまだ時々部屋を出ていることもあったのだ。それが、今ではもうぜんぜん出てこない。
朝昼晩の食事は、おかあさんがおぼんにのせてドアの外に運んでいる。にいちゃんは、誰もいない時を見はからって、それらを部屋に運び入れて一人で食べていた。食べ終わった食器は、またひっそりとドアの外に置かれている。
お風呂には、みんなが寝静まった夜中にあたりを見計らって、時々は入っているようだった。
トイレはにいちゃんの部屋を出てすぐの所にあったので、不自由はしていないようだった。
インターネットとテレビの長いケーブルを部屋の中に引き込んで、オンラインゲームをやったりテレビを見たりして、にいちゃんは長い一日をすごしていた。
特に、ネットゲームにははまっていて夜中にやっているので、にいちゃんは昼夜逆転した生活をしている。学校の友だちとは付き合わなくなったが、ネットゲーム仲間とはインターネットのチャットなどで交流しているようだった。夜中に起きているので、ぼくが学校に行っている間は眠っていることが多かった。
ぼくは自分の部屋へ行くと、ランドセルを勉強机の横のフックに引っかけてつるした。
今日は天気がいいので、ぼくの部屋には、初夏の太陽の光が窓越しにふりそそいでいる。ぼくは、いつものように公園に行って、みんなとドッジボールかサッカーでもやろうかなと考えていた。
その時、ぼくは、ハッとした。
(そうだ!)
にいちゃんはもう長いこと、そうやって陽の光の中で遊んでいないのだ。いや、それどころか、外に出たことすらない。
最後に、にいちゃんが外へ出たのはいつのことだろう。
(うーん?)
なかなか思い出せなかった。
ぼくが五年生の時のはずだ。
(そうだ。郡大会だ)
そのころのぼくは、六年生たちに交じって、少年野球チームのレギュラーを務めていた。
県大会出場のかかった大事な試合の日も、今日のようにいい天気だった。
まだ完全な引きこもりにはなっていなかったにいちゃんは、おとうさんやおかあさんと一緒に、ぼくを応援に来てくれたのだ。そして、スポーツドリンクの2リットルのペットボトルを、おこづかいでチームに差し入れてくれた。
「石川先輩、ありがとうございます!」
チームのみんなが声をそろえてお礼を言うと、にいちゃんは照れたように笑っていた。
あれから、もう一年以上がたっている。
こんな天気のいい日にも、にいちゃんが薄暗い自分の部屋の中でじっとしているかと思うと、ぼくはたまらない気持ちになった。ぼくの部屋の光を、少しでもにいちゃんの部屋に分けてやりたかった。
ぼくは椅子から立ち上がって、にいちゃんの部屋に向かった
トントン。
ぼくは、にいちゃんの部屋のドアをノックして、声をかけた。
「にいちゃん」
「……」
返事がない。
「にいちゃん」
もう一度、少し大きな声で声をかけた。
やっぱり返事はなかったけれど、部屋の中でにいちゃんが動く気配がした。
カチャ、カチャン。
鍵をはずす音がした。
ゆっくりと内側にドアが開いて、にいちゃんが顔をのぞかせた。
にいちゃんのあごのあたりには、ポヨポヨと無精ひげのようなものが生えている。しばらく見ないうちに、にいちゃんはだいぶ太ったみたいだった。やはり、部屋にこもりっきりなので、運動不足なのだろう。
にいちゃんがドアを大きく開けてくれたので、ぼくは部屋の中に入っていった。
にいちゃんの部屋は、ただでさえ日当たりが悪いのに、東側と北側の窓に遮光カーテンがピッチリと閉められている。外からの光は、まったく差し込まないようになっていた。
でも、天井の電灯も、勉強机の蛍光灯もつけられているので、部屋の中は思ったよりも明るかった。
にいちゃんが勉強机の椅子にすわったので、ぼくはベッドに腰を下した。
部屋の中は、意外にきちんとかたづいている。長い間、かあさんも部屋に入れなかったので、もっと乱雑に散らかっている部屋を、ぼくは想像していた。
ベッドの脇の作りつけの本棚には、いつの間にかおとうさんの本の前に二重に置かれる形で、コミックスやライトノベルの文庫本がぎっしりとおさまっていた。部屋が狭いので、ノートパソコンとテレビは東側の出窓の上に置かれていた。
にいちゃんは、勉強机の上でジグソーパズルをやっているところだったようだ。
ぼくにクルリと背中を向けると、にいちゃんはジグソーパズル作りを再開した。
「そのジグソーパズルは、どこで買ったの?」
ぼくがたずねると、
「アマゾン」
にいちゃんは、振り返りもしないでボソッと答えた。
ぼくはベッドから立ち上がると、後ろから覗き込んだ。
にいちゃんのジグソーパズルは、もうほとんど完成していた。図柄は、なぜかぼくが好きなアニメのキャラクターだった。
にいちゃんは、背中を丸めて一心にジグソーパズルを作っていた。
ジグソーパズルは、いよいよ完成間近だ。最後の追い込みにかかっているところなので、にいちゃんは素早く手を動かして、ピースをどんどんはめ込んでいった。ぼくは、そんなにいちゃんを後ろから見つめていた。
にいちゃんは、とうとう最後のピースをはめ込んだ。
「フー。やっと完成したぞ」
にいちゃんは満足そうに大きく息を吐くと、ぼくにかすかに笑顔を見せた。そして、ピースがはずれないように、ジグソーパズル用の台紙に接着剤で貼り付けた。
そんなにいちゃんを、ぼくがもう一度ベッドに腰を下ろして見ていると、
「これ、お前の好きなキャラだろ。やるよ」
にいちゃんはぶっきらぼうに言いながら、ぼくにむかってジグソーパズルを差し出した。
「えっ、どうしてぼくにくれるの?」
ぼくがそう言うと、
「だって、今日はお前の誕生日だろ」
にいちゃんは、少し照れくさそうに答えた。
(そうだ!)
たしかに今日は、ぼくの十二回目の誕生日だった。
おとうさんはプレゼントを用意してくれているはずだし、おかあさんはパートの帰りに予約しておいたケーキを取ってきてくれることになっている。
でも、その小さなお祝いにも、にいちゃんは参加しない。そんなにいちゃんから、まさか誕生プレゼントをもらえるとは、ぼくは思ってもみなかった。にいちゃんは、ぼくの誕生日を忘れずにいてくれたのだ。
「にいちゃん、ありがとう」
ぼくがお礼をいうと、
「……」
にいちゃんは黙っていたけれど、目を細くしてやさしそうに笑っていた。その笑顔は、あの公園でぼくを助けてくれた時と同じようだった。
にいちゃんの笑顔を見るのは、本当に久しぶりだった。にいちゃんが部屋に引きこもるようになってからは、初めてかもしれない。
「にいちゃん、今日、おかあさんがケーキを買ってきてくれるんだけど、一緒に食べない?」
そう誘ってみたけれど、にいちゃんは黙って首を横に振るだけだった。
「じゃあ、おかあさんににいちゃんの分を届けてもらうから」
ぼくがそう言うと、にいちゃんは今度はニコッと笑った。
ぼくは、ジグソーパズルを持ってにいちゃんの部屋を出ると、自分の部屋に戻った。
勉強机の前の本棚には、少年野球の優秀選手賞の盾や郡大会の優勝メダルなどがたくさん並んでいる。
ぼくはそれらをみんなはじによせると、一番いい場所ににいちゃんのジグソーパズルを飾った。
あらためてその絵柄を眺めてみた。
アニメのスーパーヒーローは、ぼくたちを励ますように笑顔を浮かべている。
どんな盾やメダルよりも、そしておとうさんからのプレゼントよりも、このにいちゃんのジグソーパズルが、ぼくにとっては一番の宝物のように思えていた。