現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

岡崎京子「リバーズ・エッジ」

2018-02-14 09:27:51 | コミックス
 1993年から1994年にかけて、女性ファッション誌に連載され、若い女性を中心に今でもカルト的な人気を持つ作品です。
 私は、2015年に出たオリジナル復刻版で読みました。
 すえた臭いのするよどんだ河口の川べり(川崎あたりを連想させます)にある高校とそのそばの河原を舞台に、異性にも同性にももてるかわいい高校二年生の普通の女の子(ただし、煙草も吸いますし、元彼の強引な求めに応じてセックスもします)を主人公にした学園ものです。
 普通の高校生活(学食、教室内、バイトなど)が描かれる中に、暴力、いじめ、過激なセックス、麻薬、ゲイ、偽装恋愛(主人公が、元彼からのいじめをかばっている美少年は、同性愛を隠すために女の子と付き合っています)、男性売春、レズビアン、摂食障害(モデルをやっている下級生のレズビアンの女の子は、大量な食べ物を食べた後でそれらをすべてをトイレで吐いています)、子どもをタレントにして食い物にしている親、援助交際、引きこもり、ボーイズラブの漫画、リストカット、死体、放火、ストーカー、焼身自殺などの一見過激な事件が描かれます。
 当時でも、個々の事件はそれほど目新しいものではないのですが、それらを日常的な高校生活と並行して描いているところが、この作品の優れた点だと思われます。
 象徴的なのは、かなりかわいいとは言え普通の女の子である主人公を、暴力的で麻薬の売買をやり変態的なセックスもする元彼、男の子からはいじめられて女の子たちからはもてている新宿二丁目で男性売春をしている美少年、モデルやタレントをしている有名人だが親たちに食い物にされていて摂食障害になっている美少女といった、かなりデフォルメされた主要な登場人物たちが、全員彼女が好きでやすらぎ(時にはそれがセックスやレズビアンとして表現されているとしても)を求めている点です。
 また、これらの過激な内容を、あまり緻密には描かずに、ラフでソフトなタッチで描いているので、あまり生々しくなっていないことも成功の理由でしょう。
 全体的には、バブル崩壊後の閉塞感とノストラダムスの大予言(当時は若い世代を中心に真面目に信じている人たちがたくさんいました)に象徴される世紀末の退廃的な雰囲気を漂わせています。
 ただ作品のところどころやあとがきに書かれている作者の直截的な言葉に対しては、読み手によって好き嫌いが分かれるところかもしれません。
 また、25年も前に書かれた作品なので、LGBTに関してはかなり古さを感じさせられます。
 残念ながら、児童文学の世界では、当時このような作品は描かれませんでした。
 しいていえば、岡崎とほぼ同世代の長崎夏海(「A DAY」や「マイ・ネーム・イズ……」の作者)などにはこういった作品を書ける資質があったと思われますが、当時の児童文学業界は出版バブルが崩壊して多様な作品を出す余裕がありませんでした。
 そういった意味では、コミックスのマーケットの方がはるかに巨大なので、いろいろな作品を発表できるダイナミック・レンジの広さを持っていた(今ではさらにその差は広がっています)と思われます。

リバーズ・エッジ オリジナル復刻版
クリエーター情報なし
宝島社




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井上雄彦「リアル」

2016-09-21 08:30:04 | コミックス
 ご存知の通り、この作品は有名なコミックスなので、あらすじはここでは書きません。
 これを読んで、児童文学の出版状況に関して思ったことを書きます。
 この作品では、いろいろな事情で車いすバスケットに関わるようになった障害者たちとその周辺の健常者たちを、まさに題名通りにリアルに描いたものです。
 周到な取材をもとに、不定期な雑誌連載というマイペースな発表の仕方で、じっくりと描かれています。
 作者ならではのユーモアや迫力ある車いすバスケットのシーンも魅力ですが、障害、死、格差社会などの重いテーマを真っ向から描いています。
 こういったある意味まじめなかたい作品に一定の読者がついているのですから、児童文学の世界でもこういった作品がもっと出版されるべきだと思います。
 もちろん、こういう作品を自分のペースで発表できるのは、作者が「スラムダンク」や「バガボンド」といった超人気コミックスの作者だということも理由の一つでしょう。
 出版社への発言力の強さや経済的な余裕のおかげで、自分のやりたいことを自由にやれているのかもしれません。
 しかし、現実にこういった作品が出版されて、商売としても成立していることは事実なのです。
 また、この作品の特長として、本物のスポーツの質感がよく表れていることがあげられます。
 これはたんなる取材だけではなく、自分自身でプレーした経験がないとなかなか出せないなと思いました。
 作品から、実際の汗やにおいや雰囲気までが立ち上ってくる感じです。
 最近の児童文学(あるいはヤングアダルト作品)に多いお手軽な取材だけで書いた妙にさわやかなスポーツ物とは、一線を画しています。
 また、試合や練習のシーンが多いのも特徴的です。
 これは、男性を読者対象のメインとしているからかもしれません。
 少年漫画の世界では、人気が下がるとてこ入れのために試合や戦闘シーンを増やすのが一般的な手法です。
 例えば、代表的な野球漫画であるちばあきおの「キャプテン」や「プレイボール」も、だんだんに試合のシーンが増えていきました。
 もっとも、そのために自分の書きたい世界と実際の作品とのギャップに悩んだことが、彼の自殺の原因とも言われているので、そのへんのさじ加減は難しいのかもしれません。
 自分自身の体験や息子たちの様子を見ていた経験からしても、いつの時代も男の子たちは試合や戦闘のシーンを好むようです。
 この点でも、今の児童文学の出版社が出している、試合をめったにやらないスポーツ物や、迫力のある戦闘シーンのない「剣と魔法の世界」を描いたファンタジーなどは、いかにも女性好みで、ますます男の子の読者を減らしていきます。
「どうせ男の子たちは本を読まないから、そんな連中をもともと対象にしていない」と豪語していた女性編集者もかつていましたが、そういった本作りの姿勢が児童文学をますます女性に偏ったものにしているのでしょう。
 しかし、ライトノベルやコミックスやアニメやゲームの世界では、男の子たちをメインターゲットにした作品がたくさんある(むしろ多数派)のですから、児童文学でも工夫次第では「リアル」のような作品を出せるのではないでしょうか。
 そういった児童文学の書き手を育てないのは、出版社や編集者たちの怠慢だと思います。
 もっとも、別の記事で述べたように、今の印税の仕組みや出版状況ではエンターテインメントではない児童文学だけでは生活できないので、男性の文字表現者の才能が他の世界へ流れていっているのも事実でしょう。

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