現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大塚英志「本当は誰にでも小説は書けるということ」物語の体操所収

2019-01-17 09:33:59 | 参考文献
 オタク評論家の大塚による、小説家養成の専門学校での講義をまとめたものです。
 大塚は、「小説には特別な才能は不要で誰にでも書ける」とし、その訓練で大事なのは文章を磨くことではなく、「おはなし」を作ることだとしています。
 そして、その「おはなし」も訓練すれば誰でも作れるとして、その証拠として五才の子が作った「おはなし」を紹介しています。
 誰でも「おはなし」が作れるのはその通りですが、訓練して習得したレベルでの「おはなし」などたかがしれています。
 本物のストーリーテラーは、幼いころからほとんど無意識に「おはなし」(それを実際に文章にして書くかは別問題です)を作る習慣があるので、それこそ無数に「おはなし」体験を持っているのです。
 そういう人たちに対して、講義で習って「おはなし」作りを始めたのではあまりにも遅すぎます。
 大塚はキーワードを書いたカードをシャッフルしてプロットを作る方法を得々として紹介していますが、こんなことは、小説を書いたことのある人ならば、実行するかどうかは別として誰でも思いつくことです。
 例えば、五十年以上も前に書かれた北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」において、友人の劇の研究者が北に同様のアイデアを説明するシーンがあります。
 これを使っていくらトレーニングしても、できあがる「おはなし」はたかがしれています。
 そして、この講義のタイトルは「本当は誰にでも小説は書けるということ」でしたが、いつのまにか「「おはなし」は誰にでも作れる」にすり替わってしまいました。
 「小説」と「おはなし」の間には、大きなギャップがあります。
 これでは「羊頭を掲げて狗肉を売る」のたぐいで、大塚が批判している「小説家志望者」を食い物にする業者(自費出版会社、専門学校など)と大差はないでしょう。

物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン (朝日文庫)
クリエーター情報なし
朝日新聞社
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2050年の世界

2019-01-17 09:30:57 | 参考文献
 イギリスの経済雑誌である「エコノミスト」誌が、2012年に予測した38年後の世界です。
 以下のように刺激的な目次が並んでいます。

第一部 人間とその相互関係
 第一章 人口の配当を受ける成長地域はここだ
 第二章 人間と病気の将来
 第三章 経済成長がもたらす女性の機会
 第四章 ソーシャル・ネットワークの可能性
 第五章 言語と文化の未来
第二部 環境、信仰、政府
 第六章 宗教はゆっくり後退する
 第七章 地球は本当に温暖化するか
 第八章 弱者が強者となる戦争の未来
 第九章 おぼつかない自由の足取り
 第十章 高齢化社会による国家財政の悪化をどうするか
第三部 経済とビジネス
 第十一章 新興市場の時代
 第十二章 グローバリゼーションとアジアの世紀
 第十三章 貧富の格差は収斂していく
 第十四章 現実となるシュンペーターの理論
 第十五章 バブルと景気循環のサイクル

第四部 知識と科学
 第十六章 次なる科学
 第十七章 苦難を超え宇宙に進路を
 第十八章 情報技術はどこまで進歩するか
 第十九章 距離は死に、位置が重要になる
 第二十章 予言はなぜ当たらないのか

 正直言って、次のような広告の惹句(本の扉にも掲げられています)に惹かれて読みました。
「一九六二年に日本の経済大国化を予測し、見事に的中させたグローバルエリート誌が、今後四〇年を大胆に予測」
・日本は、人類がまだ見たことのない老人の国へとつき進んでいる。二〇五〇年における日本の平均年齢は、52.7歳。米国のそれは40歳。
・しかし、中国も同じ少子高齢化に悩み、二〇二五年に人口減少が始まり、経済成長は止まり、インドに逆転される。
・豊かさの指標であるGNPで、日本は韓国の約半分になる。
・今後もっとも進歩をとげる科学分野は、生物学である。
・英語は、タイプライターのキー配列のように、いったん得たグローバル言語の座を維持する。
・人口の配当をうけるタンザニアなどアフリカ諸国が新興国として台頭。
「ビジネスに、教育に、あなたの未来に関するヒントが満載!」

 しかし読んでみると、たいして感心しませんでした。
 まず日本に関してですが、上記に書いた内容がほとんどすべてで、著者たちは超高齢者国家の日本に興味はないようで、まったく無視されています。
 次に、ほとんどの予測が過去のトレンドの延長にすぎず、全然大胆ではありません。
 また、おおむね楽観的(地域限定ではあるが核戦争の危険と温暖化については悲観的あるいは自信がないようです)すぎます(最後の章で自分たちで弁解していますが)。
 西欧人の観点が強すぎて、世界中が西欧化するという前提で予測しています。
 ビジネスマンや雑誌の編集者(つまり自分たち)にとって都合のいい予測が散見されて、その部分は苦笑を禁じ得ませんでした。
 子どもたちや若い人たちの未来の方向性について何かヒントが得られればと思っていましたが、残念ながらほとんど得られませんでした。

2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する
クリエーター情報なし
文藝春秋


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宮内悠介「盤上の夜」盤上の夜所収

2019-01-17 09:00:42 | 参考文献
 この作品は、架空の囲碁棋士の人生を描いた一種の名人伝であり、また、四肢を失った美少女という設定のキャラクター小説でもあります。
 四肢を失い、囲碁盤を感覚器とするようになった若き女流棋士の短い栄光の日々といったゲーマーにはたまらない設定と、ちりばめられたマニアックな「名言集」が、オタクたちの心をくすぐります。
 私も、かつてゲーマー(といってもプレイをしたのは将棋、モノポリー、カタンなどのボードゲームで、電子ゲームは七十年代に自分でプログラムを組むのに熱中したことはありますが、今はプレイもほとんどしません)だったので、こうしたストーリーは大好きです。
 現代では、ゲームと文学は物語消費という点で密接な関係にありますが、私の体験でも児童文学に熱中している時にはゲーム熱が冷め、児童文学から距離を置くとゲームへの関心がわいてきます。
 そういった意味では、この作品はゲームと文学を両立させた絶妙のポジショニングにあると言えます。

盤上の夜 (創元日本SF叢書)
クリエーター情報なし
東京創元社
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