現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

椎名誠「新橋烏森口青春篇」

2018-10-31 09:47:23 | 参考文献
 「哀愁の町に霧が降るのだ」と「銀座のカラス」(その記事を参照してください)と並ぶ自伝的青春小説三部作の真ん中に当たる作品です。
 前作が執筆当時の作者自身も出てくるエッセイ風の作品だったの対して、この作品は、まだ主人公も含めて実名で書かれているものの、完全に私小説として書かれていて、フィクション度は高くなっています。
 これに続く「銀座のカラス」が、新しい雑誌の立ち上げを中心とした中小企業小説(もちろん、作者得意の友情や恋や酒や喧嘩などもたっぷり登場しますが)だったのに対して、会社員に成り立ての主人公(作者)の青春小説的要素(女性への憧れや、友情、酒、ばくちなど)がより濃く現れていて、作品としてのまとまりは一番高いと思われます。
 なお、この作品は単行本発行直後にNHKでドラマ化されて、その後有名になる若手俳優(緒方直人、布施博、木戸真亜子など)が多数出演して、作品世界がより魅力的に描かれていました。

新橋烏森口青春篇 (小学館文庫)
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小学館
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大野裕「こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳」

2018-10-31 08:49:47 | 参考文献
 同じ著者の「はじめての認知療法」の記事でも紹介しましたが、うつや不安に対する療法として、薬物療法と同等以上の効果があり、薬物療法と併用することによってさらに効果が得られる「認知療法(認知行動療法)」を、医療機関やカウンセリング施設にかからずに、自分でマスターできる自習帳です。
 現在では、認知療法は日本でも広く知られるようになり、同種の本もいろいろと出版されていますが、この本はそれ以前(2003年刊行)に出版された初めての自習帳です。
 この本の各モジュール、ストレスに気づこう(ストレスチェック)、問題をはっきりさせよう(問題リスト)、バランスのよい考え方をしよう(コラム法)、問題を解決しよう(問題解決技法)、人間関係を改善しよう(アサーション)、スキーマに挑戦しよう(スキーマの改善)を順に自習してマスターできれば、読者の生活はかなり改善されます。
 特に、コラム法と問題解決技法は、「うつや不安」に悩んでいない人にも有益で、仕事、家庭生活、勉強などに幅広く応用できます。
 ただし、この分野は日進月歩なので、新しい本(同じ著者ならば「はじめての認知療法」(その記事を参照してください)など)も合わせて読むことをお勧めします。
 特に、コラム法のシートは、問題解決技法と結びつけるために改善されています。

こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳
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はじめての認知療法 (講談社現代新書)
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講談社


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10月30日(火)のつぶやき

2018-10-31 06:16:04 | ツイッター
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高岡 健「総論:メランコリーの彼岸へ」うつ病論 双極Ⅱ型とその周辺所収

2018-10-30 08:59:30 | 参考文献
 従来普遍的と思われていたメランコリー(単極)うつ病が、単にある時代(日本では主に戦後の高度成長期)に固有の特殊型にすぎなくて、新しい時代(バブル経済崩壊後の1990年代以降)には、新しい相貌を伴った(躁)うつ病が表れていると述べています。
 そして、新しい(躁)うつ病の特徴として、軽症化、混合状態、非定型化をあげています。
 軽症化は、従来入院を必要としていたうつ病が、外来治療だけで対応が可能になったことをさし、その原因として企業などの旧来の共同体(学校や地域などもそれに含まれるでしょう)が個人の保護機能を放棄した(バブル崩壊後のリストラや、就職氷河期、非正規雇用、学校や自治会やPTA活動の形骸化などが、それにあたると思われます)ために、自己関係づけが困難になり、その結果として浮遊化した自己意識が行き場を求める過程で生じたものとしています。
 そのため、個々の障害は軽症化していますが、発症する人の数は飛躍的に増大したと思われます。
 双極Ⅱ型において典型的な躁うつ混合状態は、過去にさかのぼっても存在していたのですが、メランコリー(単極)うつ病が全盛の時代にはその陰に隠れてあまり議論されなかっただけだとしています。
 そして、情動労働(肉体と頭脳だけでなく感情を使う労働のこと)が多い現代では、もともと共同体への帰属意識が低く、個人は自分と直接的に向かい合わざるを得ないので、その葛藤が躁うつ状態の交代や混合を生み出しているとしています。
 非定型化は、会社や家などへの適応をしなくなった個人が、特定の他者との関わりを自己に引き寄せたり、世界との関わりを自己に引き寄せたりして、発症するうつ病だとしています。
 簡潔にそれぞれの歴史なども踏まえてまとめられてますが、文章や用語が難しく(上記ではかなり易しく書き直したつもりです)専門家以外は非常に読みにくい文章になっています。
 これらの障害が、被害者および加害者のどちらか及び双方に関係するいろいろな子どもたちや若い世代における社会問題(いじめ、不登校、引きこもり、セクハラやパワハラなどのハラスメント、ストーカー、拒食、過食、睡眠障害、自傷、自殺、薬物依存など)は、単に自己責任が問われるべきものではなく、社会全体のゆがみがそこに現れていると見るべきでしょう。
 それは、企業や学校や地域社会などを強化して、かつてのように個人を強力に組織化してその見返りとして保護機能を発揮すればよいというような単純なものではありません。
 新しい時代には、それに見合った新しい組織と個人の関係や、個人同士の関係を構築しなければならないでしょう。

うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー)
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批評社
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ワジム・フロロフ「愛について」

2018-10-30 08:56:10 | 作品論
 1966年にソ連で書かれた作品ですが、日本語には1973年に翻訳されたので、1978年ごろに児童文学のタブー(性、離婚、家出、自殺など)の崩壊が議論された時に、盛んに引き合いに出されました。
 性への目覚め、最愛の美しい母の駆け落ち、それに対する尊敬していた父の無力化、母のことを同級生に侮辱されて爆発した暴力事件による退学などを、主人公の14歳の少年は短期間に体験します。
 飲酒による父とのいさかい、家出において恋人とキスする母親の目撃などを通して、精神的な「親殺し」を経て、一人の人間として生きていくことを決意する少年の姿が描かれています。
 翻訳があまりうまくないので読んでいてかなりいらいらしますが、私の読んだ本は1996年で18刷なので、少なくとも90年代まではかなり読まれていたのではないでしょうか。

愛について
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岩波書店
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大野裕「はじめての認知療法」

2018-10-30 08:54:29 | 参考文献
 うつや不安などに有効な治療法(薬物療法と同等またはそれ以上に有効で、薬物療法との併用も可能)である認知療法(最近使われているこの言い方は認知症の治療法だと勘違いされるので、本来の「認知行動療法」を使う方が好ましいと思われます)を、この分野の日本における第一人者である筆者が、やさしく解説しています。
 認知療法が何かから始まって、活動記録表、問題リスト、問題解決技法、注意転換法、腹式呼吸、漸進的筋弛緩法、アサーション、コラム法、スキーマなどの、有効なツールや概念が紹介されています。
 特に、コラム法と問題解決技法は、患者だけでなく一般の人にも有効なツールなので、身に着けると確実に生活の質を改善できます。
 これらを身に着けるには、同じ筆者の「こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳」(その記事を参照してください)の方が使い易いでしょう。
 ただし、問題解決技法とコラム法を結びつけるために、「こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳」(2003年発行)の「七つのコラム」に対して、「はじめての認知療法」(2011年発行)の「コラム法」は、八番目のコラム(「残された課題」)が追加されていて、改善されています。

はじめての認知療法 (講談社現代新書)
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講談社


こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳
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ペーパームーン

2018-10-30 08:49:52 | 映画
 大恐慌後の禁酒法時代を背景にしたロードムービーです。
 母を事故で亡くした九歳の少女を、母親の知り合い(わずかだが少女の父親の可能性もある)の気のいい詐欺師が、親戚の家に送り届けるまでの珍道中が楽しいです。
 いろいろなオーソドックスな詐欺の手口が、オニール親子(実の親子です)の達者な演技(特にテータム・オニールはシャーリー・テンプル(戦前の天才子役)の再来と言われて、この映画でアカデミー助演女優賞を最年少で受賞しています)で、鮮やかに描かれています。
 ペーパームーンと言う題名は、実際には血のつながりを持たなくても一緒に過ごしていくうちに心のつながりを築いていくという意味で、少女が、裕福でやさしそうな叔母夫妻との生活よりも、根無し草のような詐欺師との暮らしを選ぶラストを暗示しています。
 子どもがたばこを吸うなど、今では許されないようなシーンもありますが、人と人のつながりを見事に描いた傑作ですし、児童文学を創作する上でも大いに参考になります。
 それしても、天才子役たちのその後は、洋の東西を問わず悲惨なことが多く、テイタムもその例にもれません。
 そんな子役たちを、ちやほやしながら搾取する大人たちの存在は許しがたいものがあります。

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10月29日(月)のつぶやき

2018-10-30 06:11:59 | ツイッター
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礒田道史「武士の家計簿」

2018-10-29 16:32:32 | 参考文献
 ベストセラーになり映画化もされた歴史啓蒙書です。
 この作者の優れた点は、単なる歴史の紹介ではなく、現代の様々な問題点をふまえた上で、新しい歴史上の発見を紹介していることです。
 また、古文書を平易な現代語に訳しているので、一般読者にもすごく読みやすくなっています。
 ただし、読者に分かりやすく興味も持てるように書いているので、多数の読者を獲得した反面、論文としての厳密さや現代の問題点を批判する力には限界があるように思われます。
 この葛藤は、児童文学を創作する上で、多くの読者に受けるように書くことと、創作者としてのオリジナリティを獲得することとのジレンマに共通しています。

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
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新潮社
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10月24日(水)のつぶやき

2018-10-25 06:16:18 | ツイッター
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内海 健「うつ病新時代 双極Ⅱ型障害という病」

2018-10-24 12:46:05 | 参考文献
 2006年8月に発行された新しい気分障害である双極Ⅱ型障害(軽躁状態とうつ状態が繰り返しあるいは混合して現れる障害です)について、臨床と並行して、気分障害史にも言及して解説した本です。
 ポストモダンに生きる我々がいろいろな生きづらさに直面した時に発症するのは、旧来のうつ病(メランコリー)ではなく、このポストメランコリーの病気なのです。
 まだ臨床医の多くもこの病気を正しく理解していなくて、多くの患者がうつ病と誤診されています(私自身も、2003年に同様の誤診をされた苦い経験を持っています)。
 今の子どもたちや若い世代を取り巻くいろいろな問題(いじめ、セクハラやパワハラなどのハラスメント、ネグレクト、虐待、ひきこもり、登校拒否、拒食、過食、自傷、自殺、薬物依存、犯罪など)の背景の多くに、当事者やその親や教師や上司などの内部にこの双極Ⅱ型障害が潜んでいることが多いと思われます。
 また、この障害は、個人の責任ではなく、社会のひずみが生んだ「公害」なのです。
 そのため、社会全体を改革しない限り、この障害ならびにそれに基づく問題は、マクロ的には解決できないと思っています。
 私は、これからこのような子どもたちや若い世代の問題を取り上げた創作(児童文学ではなく一般文学になると思われます)に力を入れていこうとしていますが、その背景を正しく理解するためにこの本はおおいに役立ちました。
 ただし、この本は内容や文章がやや難しく、筆者もあとがきで弁明していますが、「精神科医からのメッセージ」というシリーズ名にはふさわしくなく、「精神科医へのメッセージ」といった趣です。

うつ病新時代―双極2型障害という病 (精神科医からのメッセージ)
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勉誠出版
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10月21日(日)のつぶやき

2018-10-22 06:23:10 | ツイッター
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カメラを止めるな!

2018-10-21 17:32:10 | 映画
 2017年公開ですが、国内外のいろいろなマイナーな映画祭で受賞を重ねて話題になり、2018年にメジャーな公開がされています。
 前半は、廃墟でソンビ映画を撮影していたチームが本当のゾンビに襲われるというB級ホラー映画で、その終了時には実際にエンドロールも流れます(ところどころ放送事故のようなおかしな場面があって、出来栄えはイマイチなのですが、それが後半の伏線になっています)。
 中盤は、その映画の監督一家(夫は再現シーンなどのマイナーなフィルム専用の妥協ばかりしている監督、妻は元女優、娘も監督志望だが一切妥協しないのでADとして問題ばかり起こしている)を中心に、この映画(実は、30分ノーカットで生中継もされる)に関わる、いずれも一癖あるプロデューサー、スタッフ、キャストなどの紹介(それぞれのキャラクターが後半の伏線になっていますが、ここが一番つまらない)。
 後半は、ノーカット生中継のゾンビ映画などという無茶苦茶な設定と、いろいろなアクシデント(何かと撮影で手抜き(ゲロはNG、涙の代わりの目薬など)を要求する主演女優のアイドル、やたらとリアリティにこだわる主演男優のイケメン俳優、監督役の男優とメイク役の女優が実は不倫中で一緒の車で撮影現場に来る途中に事故を起こし来れなくなり、実際の監督と元女優の妻が代役をすることになる。監督は、次第に夢中になって、日頃と違って妥協しなくなる。元女優の妻は、やたらと役にはまり込んでしまって、本番中に暴走する(もともとそのために女優を辞めさせられていた)。アルコール依存症のカメラマン役の男優が差し入れの日本酒を飲んでしまって、本番前に泥酔してしまう。硬水が飲めない体質の音声役の男優が誤って硬水を飲んで本番中に下痢を起こす。クレーンカメラが落下して壊れてしまい、代わりに人間ピラミッドを組んでその上で撮影するなど)を乗りこえて、生中継をなんとか最後まで乗り越えていく様子を、ノンフィクションタッチで描いています。
 前半のゾンビ映画でのおかしな場面や、中盤で紹介されたいずれも一癖あるメンバーなどのすべての伏線が、後半のドキュメンタリーですべて見事に回収されていく腕前には感心させられ、上映中の満員の館内のあちこちで絶え間なく爆笑が起きていました(私自身も抱腹絶倒でした)。
 なお、八月ごろにこの映画の原案になった舞台関係者と一時トラブル(原案ではなく原作で著作権を侵害しているといった内容のようでした)になりましたが、その後解決したようです(この作品の面白さはどう見ても映画的な所ですし、興業的に大ヒットして大手の配給会社も関係するようになったので、金銭的にも納得のいく線で保障できたのでしょう)。

【映画パンフレット】カメラを止めるな! ONE CUT OF THE DEAD
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アスミック・エース
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10月18日(木)のつぶやき

2018-10-19 06:17:52 | ツイッター
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バッド・ジーニアス 危険な天才たち

2018-10-18 17:46:06 | 映画
 非常に記憶力のいい主人公の少女が、しだいに大がかりなカンニング事件に巻き込まれていく姿を描いています。
 初めは、仲のいいクラスメイトの女の子が、成績が悪くて演劇部の芝居に出られないのに同情して、彼女にカンニングをさせて、芝居に出演できる成績レベルをクリアさせます。
 しかし、そのことを友だちの彼氏の、金持ちのぼんぼんに知られて、有料でカンニングを請け負う組織に発展してしまいます。
 背景としては、主人公があまり裕福ではなく、彼女たちが通う私立の名門校(校長へのわいろが横行していて、成績の悪い裕福な家庭の子女もたくさんいます)の授業料免除の特待生だということがあります(主人公の父親は教師なのですが、給料が安くてそれが原因なのか母親と離婚しています)。
 もう一人の特待生の男の子(彼もまた、母親一人でやっている洗濯屋を手伝っている苦学生です)も巻き込んで、ついには、全世界を対象としたアメリカの大学を受けるための資格試験を、世界で一番初めに実施されるシドニーとタイの時差(四時間)を利用して、事前に主人公たち特待生がシドニーで受験した答えをタイへ送って、高額な参加料を出させた大勢の受験生に伝えるという大がかりな犯罪にまで発展します。
 ピアノのコードやバーコードやスマホを利用した現代的なカンニング方法や、いろいろなハプニングに見舞われる資格試験当日をサスペンスタッチで描いたところが一番の見せ場です。
 また、背景として、日本以上に格差社会であるタイの現状や、貧しい子どもたちがそれを打破するためには、アメリカなどの海外の大学に留学するしかないことなどが描かれている点も、優れていると思いました。
 主役を演じた富永愛似の女の子(やはりモデルだそうです)を初めとして、タイの若い出演者たちがなかなか魅力的でした。
 ただ、ジーニアスとか、天才という惹句はかなり大げさで、特待生たちは記憶力の良い秀才にすぎませんし、年長者(ここでは主人公の父親)をたてるタイらしいモラーリッシュなラストにも不満が残りました。

【映画パンフレット】バッド・ジーニアス 危険な天才たち
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ザジフィルムズ
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