現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

北村薫「仰ぐ空」うた合わせ所収

2019-03-30 08:56:19 | 参考文献
 秋の空を見上げる二首のうちの黒崎善四郎の歌、
 「秋晴れに小躍るほどの洗濯好きああ妻はどこにも居らず」
 長年介護して先に逝かれてしまった妻への思いをストレートに歌う黒崎に、北村は自分の言葉は最小にして、妻の死の前後の実に三十七首も引用しています。
 その思いの強さ、世の中を二人だけで生き抜いてきた夫妻の人生が胸を打ちます。

うた合わせ 北村薫の百人一首
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新潮社
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フォレスト・ガンプ 一期一会

2019-03-28 14:39:59 | 映画
 1994年公開のアメリカ映画で、アカデミー賞で作品賞/監督賞/脚色賞/主演男優賞/編集賞/視覚効果賞を受賞しました。
 特に、主演のトム・ハンクスは、前年の「フィラデルフィア」に続いての二年連続受賞で、アメリカの代表的な俳優に上り詰めました。
 IQは劣るものの、ピュアな心と人並みはずれた身体能力で、周囲の人たち(母親、幼なじみの女の子(後に結婚して子どもをもうけます)、軍隊での同僚や上官など)を幸福に導きます。
 演出上も非常に工夫されていて、主人公の成長とアメリカの現代史(主な物を上げると、公民権運動、ベトナム戦争、反戦運動、ヒッピー・ムーブメント、ブラックパンサー、ピンポン外交、月着陸、ウォーターゲート事件、レーガン大統領暗殺未遂事件など)をからめることによって、主人公とその周辺だけでなく、アメリカ全体の歴史としてとらえることができます。
 ニュース映画に加工して主人公を写しこむなどのアイデアで、アメリカ社会の有名人(主な人を上げると、エルヴィス・プレスリー、ウォレスアラバマ州知事(後に保守派の大統領候補)、ケネディ大統領、ジョンソン大統領、ジョン・レノン、ニクソン大統領など)と共演させています。
 また、それぞれの時代の社会問題(主な物を上げると、人種差別、ベトナム帰還兵問題、障碍者問題、麻薬など)も簡潔ながら取り上げています。
 個人的には、バックに流れ続けている音楽が、それぞれの時代を代表するアメリカのヒット曲(主な物を上げると、ハウンド・ドッグ(エルヴィス・プレスリー)、風に吹かれて (ボブ・ディラン)、夢のカリフォルニア(ママス&パパス)、ミセス・ロビンソン(サイモンとガーファンクル)、花のサンフランシスコ(スコット・マッケンジー)、輝く星座~レット・ザ・サンシャイン (フィフス・ディメンション)、うわさの男(二ルソン)、喜びの世界(スリー・ドッグ・ナイト)、スウィート・ホーム・アラバマ(レーナード・スキナード)など)ばかりなので、とても懐かしかったです。
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マージョリー・フラック さく・え「アンガスとあひる」

2019-03-28 08:36:49 | 作品論
 八十年以上前に作られた絵本の古典です。
 アンガスはスコッチ・テリアの子犬で、好奇心いっぱいです。
 生垣にさえぎられて見られなかった、隣の家のアヒルたちを見にいって、とんでもない目にあいます。
 横長の紙面が、作品世界と登場者たちの動きをよく生かしています。
 児童文学者の瀬田貞二は「幼い子の文学」(その記事を参照してください)において、この絵本を幼年童話や絵本の基本的な構造である「行きて帰りし物語」の典型例として紹介しています。
 アンガス(好奇心いっぱいの子どもたちを象徴していると思われます)が、生垣をくぐって隣の家の庭へ「行きて」アヒルたちに挑みますが、逆にひどい目にあわされて、安全なうちの中のソファーの下へ「帰りし」物語なのです。
 この構造は、もっと複雑なファンタジーなどでも、「日常」から「非日常」に「行きて」、また、「日常」に「帰りし」物語として使われています。
 瀬田が「幼い子の文学」の中で述べているように、有名なトールキンの「ホビットの冒険」の副題(最初の訳者は瀬田自身です)にもなっています。
 
アンガスとあひる (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)
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福音館書店
 
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インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説

2019-03-27 17:34:40 | 映画
 人気活劇映画「インディ・ジョーンズ」シリーズの第二作ですが、設定時代は、前作よりも一年さかのぼって1935年です。
 ノンストップ・アトラクション・ムーヴィーとしての徹底ぶりはかなりグレードアップしていて、シリーズでももっともエンターテインメントとしての完成度が高く、アカデミー視覚効果賞も受賞しています。
 主役のハリソン・フォードに劣らない、名子役、キー・ホイ・クァン(「グーニーズ」にも出演)の活躍も魅力です。
 
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レイダース/失われたアーク《聖櫃》

2019-03-26 15:33:03 | 映画
 大ヒット映画の「インディ・ジョーンズ」シリーズの第一作です。
 元祖ジェット・コースター・ムーヴィで、多くの追随作、模倣作を生みました。
 ストーリーは二の次で、次々に襲いかかる試練やピンチを、主人公のインディ・ジョーンズがクリアしていく爽快感は、その後のテレビ・ゲームやテーマパークのアトラクションに大きな影響を与えました。
 このころのスピルバーグの監督した映画は向かうところ敵なしで、「ジョーズ」、「E.T.」、「未知との遭遇」などの大ヒットを連発していました。
 原案や製作総指揮をしたジョージ・ルーカスも、「スター・ウォーズ」や「アメリカン・グラフィティ」などの大ヒット作の監督です。
 1970年代から1980年代にかけては、彼ら二人か、フランシス・コッポラ(「ゴッド・ファーザー」、「地獄の黙示録」など)が、監督か、製作か、脚本にからんでいれば、まず見に行って間違いはありませんでした。
 主役のハリソン・フォードは、スピルバーグ(「インディ・ジョーンズ」シリーズ」など)やルーカス(「スター・ウォーズ」シリーズなど)のヒーローを体現する、適度に男性的で適度に甘いマスクで大活躍しました(個人的には、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」での陰りのあるヒーロー役が一番好きですが)。
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小田島雄志「書斎憧憬史」書斎の王様所収

2019-03-25 14:44:01 | 参考文献
 喫茶店でシェークスピア全集を訳したことで有名な、演劇研究者の書斎遍歴です。
 ほとんどの日本人がそうであると思いますが、劣悪な住宅事情が書斎を持つことを許してくれません。
 一般的な家庭では、書斎よりも子ども部屋の方が優先されるので、せいぜい居間や子ども部屋の隅などに書棚を置くぐらいで我慢しなければなりません。
 やっと書斎を持ったとしても、そこはたんなる書庫と化してしまい、喫茶店や図書館などで執筆作業をやることも、著者に限らず一般的なことでした。
 今の若い世代には蔵書家はまれで、電子書籍や図書館を利用し、新刊本を買ってもすぐに新古書店で売ってしまうことが多いようです。
 そのため、書斎へのあこがれは、昔より少ないようです。
 しかも、ウルトラノートブックパソコン、タブレット端末、ブルーツースのキーボードなどが普及しているので、コーヒーショップやファミレスで仕事をすることはより一般的になっているようです。

書斎の王様 (岩波新書 黄版 324)
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岩波書店
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三田完「通夜噺」黄金街所収

2019-03-24 16:09:07 | 参考文献
 落語界の内幕を生かした人情話です。
 登場人物が類型的で描写も常套的なのですが、この短編集の中では一番いい出来です。
 作中の「胡瓜揉み」という落語がうまくいかされています。
 おそらくこういう創作落語が作者には一番フィットしているのではないでしょうか。
 児童文学でも落語を素材にしたものはありますが、こうした創作落語を作中に入れた作品は記憶がありません。

黄金街
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講談社
 
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ALWAYS 三丁目の夕日

2019-03-23 16:55:35 | 映画
 2005年の映画で、日本アカデミー賞を総なめにした映画です。
 CGとミニチュアとセットを使って、1958年の東京の下町を、かなりデフォルメしつつ、見事に再現することに成功しました。
 サンフランシスコ講和条約が1951年に結ばれてからまだ7年しかたっておらず、高度成長時代はまだ始まったばかりで、日本中がまだ貧しかった時代でしたが、未来への希望は現在よりもはるかにありました。
 そのシンボルとして、東京タワーが建設中で徐々に高くなっていく姿が、作品中に描かれています。
 映画なので、わかりやすいドタバタコメディ(堤真一や吉岡秀隆を中心にして)がメインですが、その合間に戦争の傷跡や貧困の影を巧みに挟み込んで、原作の西岸良平の漫画「三丁目の夕日」の持つペーソスな味わいを伝えることに成功しています。
 また、堀北真希や須賀健太たち子役が初々しい演技をしていて、成長期にある若い日本の姿を象徴しています。
 ただし、私は1954年生まれなのでこの映画に出てくる子どもたちより5、6年後に、彼らの年頃を過ごしたのですが、同じ東京でも場末の千住(今は北千住を中心にすっかりあか抜けているようですが)で育ったせいか、私の周辺は彼らよりもかなり貧しくて復興も遅れていたようです(この映画に出てくる家電製品の三種の神器(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)が我が家にそろったのは、彼らと同じ年頃になった東京オリンピック(1964年)のころだったと記憶しています)。

ALWAYS 三丁目の夕日
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カール・ラガーフェルド スケッチで語る人生

2019-03-23 09:12:58 | 映画
 シャネル、クロエ、フェンディ、そして自分自身のブランドのデザイナーであるカール・ラガーフェルドにインタビューした2012年の映画です。
 その時すでに80歳近くなのにダンディで記憶力も桁外れに良いのですが、一番驚いたのはインタビューに答えるのと同じスピードで、そのことをスケッチしてみせたことです。
 しかも、それはその時だけの特別なことではなく、毎日、一日中何かしらのスケッチをしていて、それらはすべて最後にはゴミ箱行きだということです。
 彼が自分の仕事の資料を何も保存していないのは、記憶力が抜群なだけでなく、「作る」ことには人一倍興味があるが、「作った」物には全く関心がないからでしょう。
 かつてジャーナリストの千葉敦子は、いつも原稿を書いているSFの巨匠、アイザック・アシモフのことを、尊敬をこめてデディケイテッド・ライター(打ち込んでいる作家)と呼んでいましたが、ラガーフェルドは天性のデディケイデッド・デザイナーなのでしょう。
 何事もここまで打ち込めたら成功は間違いないでしょうし、幸せな人生だと思います。

カール・ラガーフェルド スケッチで語る人生 [DVD]
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日本コロムビア
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最上一平「こころのともって どんなとも」

2019-03-22 08:35:16 | 作品論
 対照的な性格の、二人の女の子の友情を描いたシリーズの二作目です。
 プールでのもぐりっこ、手遊びの「オチャラカ ホイ」、花火大会、夜店、はじめてのお泊り、ホットケーキ作りと、二人の夏休みは楽しいことの連続です。
 そして、それらを通してお互いを「こころのとも」として確認していきます。

ともだちのはじまり (ポプラちいさなおはなし)
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ポプラ社
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三田完「しあわせの鐘」黄金街所収

2019-03-21 08:51:31 | 参考文献
 この作品も昭和レトロな雰囲気の人情話ですが、他の作品よりは丁寧に書かれています。
 雑誌に書かれた他の作品と違ってこの作品だけ書き下ろしなのと、NHKののど自慢の裏話について、作者が多少はかかわりがあったのか、取材したのか、他の作品世界の薄っぺらさと比べると若干リアリティが感じられました。
 児童文学でもそうですが、実体験や取材は作品のリアリティには欠かせないものだと思いました。

黄金街
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講談社
 
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ファインディング・ドリー

2019-03-20 09:23:12 | 映画
 2003年に公開されて世界中で大ヒットした、「ファインディング・ニモ」の13年ぶりの続編です。
 前作でも人気のあったナンヨウハギのドリーが主役です。
 記憶障害を持つドリーが生き別れた両親を探しにいくストーリー自体は他愛のないものにすぎないのですが、CGのよるアニメーションの美しさはそれだけで一見の価値があります。
 本物の海よりきれいというキャッチフレーズはまんざら嘘ではなく、CGアニメーション技術はこの13年間でも格段に進歩したようです。
 ただし、私の見にいった映画館では3D版は上映されていなくて、ひところよりは3D熱は冷めたのかもしれません。

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ひこ・田中「レッツとネコさん」

2019-03-19 12:56:46 | 作品論
 五歳の少年が三歳の頃を振り返って、家にやってきたネコとの出会いについて語る絵本です。
 かなり無理のある設定です。
 五歳の子どもが二年も前の出来事を振り返るというのは、発達心理学からいうとかなり無理があります。
 そのため、とても五歳ないしは三歳とは思えない発想や言葉が頻出しています。
 どうしても、大人、それも高齢の男性の視線が、幼い主人公の陰に見え隠れしてしまいます。
 主人公と大人とのずれや、主人公とネコとのふれあいなど、子どもらしいおもしろい場面はたくさんあるのですが、それがことごとく大人の視点で書かれています。
 そのため、子どもの読者が読んで楽しい絵本になっていません。
 それでは、誰がこの絵本を喜ぶのでしょう。
 おそらくそれは、子どもへの本の媒介者(両親、教師、図書館の司書、読み聞かせのボランティアなど)だと思われます。
 それも、幼い子どもを持った経験のある大人たちです。
 彼らにとって、過去の子どもたちが幼かった頃を思い出せて、この絵本が楽しいのでしょう。
 こんな時、絵本は誰のために存在するのかと、考えてしまいます。

ファインディング・ニモ (吹替版)
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レッツとネコさん (まいにちおはなし―レッツ・シリーズ)
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そうえん社
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グランド・キャニオンの対決

2019-03-17 18:04:20 | 映画
 1959年のアメリカのB級映画です。
 ストーリー自体は、元弁護士の保安官補が連続殺人事件を解決するまでを、金鉱の社長の娘とのロマンスも含めて、たった81分で描いた他愛のない物です。
 しかし、60年たった今見てみると、幾つかの事に気づかされて興味深いです。
 この映画が公開されたころの日本人にとって、海外旅行は夢の夢(なにしろ1963年に始まったテレビの人気番組「アップダウンクイズ」は、「10問正解者には、「夢のハワイ旅行」にご招待!」というキャッチフレーズで有名だった程です(その二十年後に初めてハワイに行ったときは、なかなか感慨深いものがありました))だったので、壮大なグランドキャニオンの風景(今でも人気があります)、自家用飛行機での空撮、馬鹿でかいアメ車でのカーチェイス、ヘリコプターでの追跡、金髪美人(死語ですね)とのロマンスだけでも、一見の価値があったのでしょう。
 また、CGも特撮もないころの、未舗装道路でのカーチェイスや、グランドキャニオンを横切るゴンドラ上での格闘(これが題名通りのクライマックスです)などは、なかなかハラハラさせられます。
 もちろん、これらを演じているのはスタントの人たちで、スターたちはそれに似せて作った安全なセットの中で演じていて、それを編集でつないでいるだけなのですが。

週刊奇跡の絶景 Miracle Planet 2017年24号 グランド・キャニオン アメリカ【雑誌】
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講談社
 
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早見和真「成城ウィキペディエンヌ」東京ドーン所収

2019-03-17 08:49:30 | 参考文献
 主人公は27才で企業の受付嬢をやっています。
 非正規従業員ですが、時給はなんと二千百円で二十五万円も月収があります。
 十年前に企業戦士だった父親を亡くし、専業主婦で更年期障害の母親と二人暮らしです。
 一生安楽に暮らせて母親の面倒も見てくれるような玉の輿に乗ることを、主人公は夢見ています。
 主人公には、外見はパッとしませんが一応小田原の地主の息子だという恋人がいますが、彼はなかなか結婚してくれません。
 そのため、主人公は合コンにも参加して、他の玉の輿も探しています。
 また、主人公は仕事が暇なので、仕事中はパソコンでウィキペディアを検索しているという設定になっていますが、そのことはまったく作品には生かされていません。
 実際にこんな女性がまったくいないとは言いませんが、この作品で作者は何を書きたいのでしょうか。
 そこには、作者の作家性はまるで感じられません。
 作者にとっては、これも単なるネタなのでしょう。
 作者は、こういう安易な作品を、生活のために書き飛ばしているとしか思えません。

東京ドーン
クリエーター情報なし
講談社
  
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