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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

白土三平「朝露の巻」カムイ伝所収

2019-05-26 09:54:13 | コミックス
 日置藩崩壊により天領になり、しかもその代官に草加竜之進が赴任して、新田や繭や綿による収益と身分制度があいまいになることによって、一時的には百姓にもにもパラダイスのような状況になりました。
 しかし、その幸せもつかの間に、さらに大きな権力(幕府勘定方)と商人が結託することにより、あっけなく崩壊していきます。
 こうした状況には、草加竜之進(武士)も、正助(百姓)、苔丸(スダレ、元百姓の)も、まったく無力です。
 カムイ伝のこの巻が連載されたころ(1970年ごろ)に革新勢力が敗北した70年安保闘争と時を同じくして、作者が描いて見せた労働者や差別されている人たちのユートピアは、この巻の題名通りに、「朝露」のように儚く消え去ろうとしています。
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サキ「話上手」サキ短編集

2019-05-22 18:51:08 | 参考文献
 列車のコンパートメントで出会った三人の子どもたちがうるさく騒ぎ、付き添いの伯母がそれを制止できないのに業を煮やした若い男が、子どもたちに話して聞かせて、しばらくの間だけでも静かにさせることに成功した「不適当な」話についてです。
 彼が子どもたちに話したのは、伯母がいつも子どもたちにする「いい子」には最後には「いいことが起こる」的な「適当な」お話ではなく、「いいつけを守って」「きちんと約束を守って」「よい行いをした」女の子が、「いい子」であるがゆえにオオカミに食べられてしまうという、ひどく残酷で「不適当な」お話です。
 ともすれば教訓的でつまらない物語を書いてしまいがちな児童文学の書き手(特に教師出身者の事が多い)には、ある意味非常に「教訓的な」お話です。
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白土三平「クズレの巻」カムイ伝所収

2019-05-21 18:33:18 | コミックス
 異常気象による飢饉により、日置藩は壊滅的な状況を迎えます。
 飢餓状態の農民たちは全藩一揆にまで追い詰められますが、権力者側(目付たち)は万全の態勢で待ち構えています。
 勝ち目のない全藩一揆に対する主要な登場人物たちの関わりは、大きく分かれます。
 草加竜之進(武士)は全藩一揆を主導して、この機会に一気に権力者側の転覆を図ろうとします。
 苔丸(スダレ、元百姓の)は、全藩一揆もやむを得ないという立場です。
 正助(百姓)は、夢屋七兵衛(商人)の協力を得て百姓たちを逃散(別の土地へ集団で逃げる)させようとします。
 抜け忍になったカムイ(元の忍者)は、権力者側に命を狙われている正助(カムイの姉ナナは正助の妻)を陰から守ります。
 一揆の代わりに逃散という発想は面白いのですが、これだけ大掛かりな逃散をさせるプロセスがほとんど描かれてないので、かなりご都合主義な感じはします。
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神沢利子「ビー玉の骨」いないいないばあや所収

2019-05-21 17:18:18 | 作品論
 誰もが幼い時に考えたことがある「自分はこの家の本当の子ではないのではないか?」という疑問。
 この作品では、そんな子どもの心の動きを鮮やかに描いています。
 「お前は橋の下で拾われたんだ」というからかい、自分だけが両親に似てないという不安。
 最後に、主人公がとうさんと似ているささやかな特徴を発見してホッとする場面では、読者も自分の体験と重ねあわせて共感できることでしょう。
 また、兄弟の多い家の子が、子どものいないおじさんやおばさんに、「うちの子になってよ」とからかわれるのも、小さいころにしばしば経験することです。
 それを描いた児童文学の傑作は、アグネス・ザッパーの「愛の一家」(その記事を参照してください)でしょう。
 もっとも、「愛の一家」の兄弟は本作より仲が良く、おじさんにもらわれそうになる男の子を皆で団結して守ります。

いないいないばあや (岩波少年少女の本)
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愛の一家 (福音館文庫 物語)
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児童文学における子どもの視点

2019-05-20 08:14:52 | 考察
 児童文学においてもっとも大事なものは、子どもの視点かもしれません。
 たとえ、大人が主人公でその視点で書かれた作品でも、その背後に読者である子どもたちに寄り添った作者のまなざしがあれば、十分に優れた児童文学作品でしょう。
 その一方で、たとえ子どもが主人公でその視点で書かれた作品であっても、その裏に大人である作者の視線が見え透いていては優れた児童文学作品とは言えないと思います。
 それは、子どもの論理で書かれているか、大人の論理で書かれているかと、いうこともできます。
 いやしくも児童文学の書き手であるならば、つねに子どもの側に立たなければなりません。

大人の直観vs子どもの論理 (岩波科学ライブラリー)
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白土三平「木の間党の巻」カムイ伝所収

2019-05-19 15:56:53 | コミックス
 主要登場人物が、それぞれに自分の置かれてる状況を打開しようと、新しい動きを見せます。
 カムイ(出身の忍者)は、日置藩が不祥事続きなのに幕府のとりつぶしにあわない謎(家康が出身であることを示す文書で、それが明らかになると士農工商エタと言われる階級制度が根底から覆される可能性があります)を解いて、それをきっかけに抜け忍への道を歩み出しそうです。
 草加竜之進(武士)は、藩を追われた残党をまとめあげて世直しを図ろうとします。
 しかし、今回は忍者や武士による戦いが中心で、正助(百姓)や夢屋七兵衛(商人)の新しい動きはなく、アクションシーンばかりなので内容的には物足りませんでした。
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白土三平「銀札くずれの巻」カムイ伝所収

2019-05-18 10:40:12 | コミックス
 藩札の発行によるインフレと、さらなる藩札の発行による加速度的な価値の下落、それに伴う混乱を描いています。
 もともとの非常法による藩札の発行は、城代家老に対する目付の権力闘争の手段だったのですが、それらの一番の犠牲者は、百姓、出稼ぎ労働者、町人、下級武士など、社会の底辺にいる人々です。
 また、彼らの不満の爆発である打ちこわしや一揆の鎮圧にはが狩り出されるため、階層間の対立といった支配者層から見れば都合のいい側面も生まれました。
 しかし、この乱脈な藩札発行は、タコが自分で自分の足を食べるようなもので、やがて大きな破綻を生むことは言うまでもありません。
 この巻では、主要な登場人物であるカムイ(で忍者)、正助(百姓)、夢屋七兵衛(商人)、草加竜之進(武士)たちも、自分たちの明確な方向性を見いだせていません。
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白土三平「蔵六屋敷の巻」カムイ伝所収

2019-05-17 09:02:33 | コミックス
 いろいろな不祥事(財政難、嫡子の死など)にもかかわらず、とりつぶしに合わない日置藩(この作品の舞台の架空の藩)の謎がだんだん明らかになってきます(城代家老が住む蔵六屋敷にいる亀に秘密があります)。
 一方で、主要な登場人物たちは、様々な試練に直面します。
 カムイ()は下忍である自分の将来に限界を感じて、抜け忍になるかどうか迷い始めています。
 正助(百姓)は新田開発や蚕や綿作には成功しますが、武士たちの新たな圧力(新田への年貢免除期間の短縮、藩の御用商人による蚕や綿の独占販売による買いたたき)や将来の飢餓対策に苦悩します。
 キク(商人の夢屋七兵衛と一緒に行動していた娘)は隠れキリシタンゆえに弾圧されて、刑場へ助けに来たクシロ(漁師)との恋は成就するものの、病死します。
 ゴン(正助の親友の百姓)は、跡継ぎであるがゆえに、やはり跡継ぎ娘であるアケミとの結婚を断念させられます。
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初恋~お父さん、チビがいなくなりました

2019-05-14 15:42:46 | 映画
 年取った愛猫がいなくなったのをきっかけに、離婚の危機を迎える老夫婦の話です。
 コミックスを原作とした娯楽作(ラストですべてが一見まるく収まるご都合主義のハッピーエンド)なのでシビアには言いたくないのですが、あまりにリアリティがないので愕然としました。
 仕事人間で亭主関白な夫とそれに長年仕えてきた妻という設定とその描き方(帰ってきた夫の靴下を妻が脱がせる、夫婦で会話がない様子など)は、驚くほどステレオタイプです。
 さらに言えば、同じステレオタイプを描くにしても、主人公たちの年齢(役者さんたちの年齢から考えると七十代後半なのですが、それにしては子どもたちの設定が若すぎる(独身の末娘は37歳)ので、七十代前半か?)からすると、かなり古すぎる夫婦関係です。
 私の亡くなった両親は生きていれば102歳と95歳ですが、主人公たちは両親の夫婦関係よりさらに古めかしく感じられました。
 さらに、せっかくの夫婦の危機(遅すぎる感じですが)も、夫が妻に「お前が初恋の相手だ」と打ち明けて、猫が帰ってくるだけであいまい化されてしまいます。
 妻の夫婦関係への疑問、夫の認知症の始まりを思わせるシーン、夫が妻の先輩とずっと密会(といってもプラトニックなようですが)していた理由など、大きな問題はすべて棚送りのまま情緒的な解決(?)がなされます。
 末娘の結婚観や労働観も含めて、監督の老人問題への意識やジェンダー観自体が、かなり時代遅れな感じです。
 それにしても、ラストに笠置シヅ子の歌を流したセンスはいかがなものでしょうか?
 笠置シヅ子の全盛時代は戦争直後で、主人公たちが出会う回想シーンの時代(1960年代後半か?)には、とっくに(1957年ごろ)事実上歌手を引退していました。
 どうせ流すなら、妻役の倍賞千恵子の大ヒット曲「下町の太陽」(これも時代設定より若干古い1963年の作品ですが)の方がはるかにましでしょう。
 



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白土三平「雪どけの巻」カムイ伝所収

2019-05-11 10:55:17 | コミックス
 様々な階層間、階層内での争いにおいて、それらをどのように解決していくか苦闘する主人公たち(正助(百姓)、スダレ(元百姓の)、カムイ(/忍者)、草加竜之進(武士)、夢屋七兵衛(商人))が描かれています。
 主な争いは、討幕運動(武士)、大名貸し(商人、武士)、新田開発(百姓、、武士、)、一揆(百姓、漁師、商人、武士)、剣客争い(武士、忍者)、藩内での権力闘争(武士、商人)、藩主暗殺(武士)、流通の主導権争い(商人)、抜け忍の追跡(忍者)などです。
 白オオカミのカムイは完全に姿を消し、カムイ(/忍者)や草加竜之進(武士)の物語と、正助(百姓)やスダレ(元百姓の)や夢屋七兵衛(商人)の物語がますます分離していきます。
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村中李衣「デブの四、五日 ― 菜々子の場合」小さいベット所収

2019-05-11 08:45:03 | 作品論
 小学校六年生の四方菜々子は、拒食症で入院しています。
 どうしても食事を食べないで点滴だけで栄養を取っているので、看護婦さんたちからは名前をもじって「しかたないこ」と呼ばれています。
 菜々子が拒食症になった理由は明示されていませんが、どうやら両親への反発が理由のようです。
 菜々子は同室の子どもたちにも心を開きませんが、窓から見える病院の実験用に飼われている犬に「デブ」という名前を付けて眺めることを楽しみにしています。
 「デブ」は実験のために餌を与えられないのか、どんどん痩せていきます。
 菜々子たちの病室に新しく食事を運んでくるようになった係りのおばさんは、菜々子に何とか食事をとらせようとしますがうまくいきません。
 ある日、おばさんは菜々子を病室から抜け出させて、デブへ餌をやりに行きます。
 デブのような実験用の犬は、本当は餌を与えられないで、四、五日で殺されてしまいます。
 それを承知で、おばさんは餌をやりに行くのです。
 菜々子は、デブの一件以来三か月たちますが、そのことを忘れずに、「しかたないこ」から四方奈々子へ戻るための努力をしています。
 戦争中の病院の様子や実験用の犬の運命などが、一方的におばさんのモノローグで語られていて、菜々子が変わっていくきっかけになったことがもう一つ説得力を持っていません。
 また、精神科医の大平健のによると、拒食症はこの作品が描かれたころに非常に多かったようなのです(その記事を参照してください)が、この作品では拒食症の社会的な背景や菜々子がそれになったいきさつがはっきりと書かれていないので、菜々子がおばさんやデブとの一件で立ち直っていく理由がよくわかりませんでした。

小さいベッド (偕成社の創作(21))
クリエーター情報なし
偕成社
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白土三平「八方変現の巻」カムイ伝所収

2019-05-04 11:18:48 | コミックス
 この巻では、正助(百姓)とナナ(カムイの姉、)の身分を超えた結婚願いとそれに対する弾圧を、新田開発願いにからませて描いています。
 一方で、抜け忍の赤目(カムイの師匠)に対する、カムイも含めた隠密の忍者たちの追手との戦いも描かれています。
 その過程で、夢屋七兵衛が、自分の目的(金)のために漁師や百姓を搾取する、資本家としての正体がだんだん明らかになっていきます。
 この巻のタイトルにもあるように、いろいろな登場人物が、本物なのか誰かの変装なのかが入り乱れていて、読者はかなりこんがらがります。
 
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白土三平「夢の男の巻」カムイ伝所収

2019-05-03 12:08:21 | コミックス
 新たな主要人物として、夢屋七兵衛(商人)が登場します。
 江戸時代が、江戸や大坂を中心にして消費経済社会になるにつれて台頭してきた商人の代表ですが、実際には連載当時の日本人よりさえも消費や流通にたけた現代的なマーケティングセンスを持っている人物です。
 彼の手足になっている手代の日の市(実は抜け忍の赤目)が全国から集めてくる情報や、網元の借金の代わりに手に入れた漁船による流通をバックに、今までにないスケールの大きな商人(というよりは実業家)に成長していきます。
 一方、正助(百姓)も、稲や麦から、蚕や綿といった換金作物へ移行していって、百姓やたちの将来の展望を切り開こうとしています。
 また、百姓一揆も、スダレ(苔丸)を中心にしてより組織化されて、部分的ですが領主側に勝利するようになります。
 こうして物語の中心人物は、カムイ()に代表される忍者や草加竜之進(武士)に代表される剣客といった武闘派から、夢屋や正助や苔丸のような実務派へ移行していきます。
 
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白土三平「谷地湯の巻」カムイ伝所収

2019-05-03 10:34:58 | コミックス
 谷地湯というのは、物語の舞台である日置藩(架空の土地)にある自然温泉場の事です。
 この巻では、主要な登場人物(人間だけでなく動物も)が、様々な戦いに傷ついて湯治にやってきます。
 カムイ(白オオカミ)は、群れのボス争いの戦いに敗れて、全身に噛み傷を負っています。
 横目(頭)は、忍者になったカムイ()がなぎなたの名手アテナとの命懸けの練習で編み出した、かの有名な必殺技、変移抜刀霞切り(詳しくは「カムイ外伝」の記事を参照してください)で腹に深手を負っています。
 正助は、本百姓になって自分の田んぼを持ったために張り切りすぎて、怪我をしてしまいます。
 武助(百姓代)は、将軍への直訴に向かう途中で傷を負います。
 激しい闘争の合間の一時休憩(武助はここで捕まって殺されてしまいますが)といった場所なので、登場人物同士の触れ合い(正助はナナ()との愛をより深く自覚し、横目は娘のサエサのカムイ()への想いを再確認します)も描かれています。
 新しい主要人物としては、カムイの忍者としての師匠の赤目が登場し、抜け忍になって忍者群に追われ、あえて罪人になって御蔵島に流刑になります。
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白土三平「玉手騒動の巻」カムイ伝所収

2019-05-03 09:55:46 | コミックス
 いよいよ江戸時代の労働争議である百姓一揆が登場しました。
 ただし、この百姓一揆自体はまだ未組織なために、権力側(領主側)にあっさりと敗北します。
 しかし、主要な登場人物たち(特に百姓の正助)が、間接的ながら百姓一揆を経験したことにより、将来の階級闘争への下地になっています。
 新しい主要登場人物としては、百姓一揆の首謀者として苔丸(一揆敗北後に、追手を逃れるために、自ら顔をメチャクチャにして正体を分からなくして、スダレになります)が登場します。
 また、百姓が無知(文字も知らない)なために武士や庄屋に騙されていることを強調して、学習の大切さや百姓たちの団結や身分を超えたとの連帯などが、正助を初めとした子どもたちを中心に描かれています。
 このあたりは、連載当時(60年代後半)の学生運動や労働運動の主張と繋がるので、当時の革新勢力の若い人たちに支持されたのではないでしょうか。
 一方で、久しぶりにカムイ(白オオカミ)も登場して、他の一匹狼との連帯や群れとの関わりが描かれて、人間社会との二重写しになるような構成になっています。

 
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