ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

書評とかホサナとかメコン&地平線会議で極夜報告会

2017年07月13日 20時34分28秒 | 雑記
探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)
角幡 唯介
幻冬舎


『探検家の日々本本』の文庫本が出たので、たまにブックレビューのサイトなどをのぞいたりすると、概ね好評なので嬉しい。ただちょっと気になることがあった。この本を褒めてくれる人はだいたい、「読みたい本が増えた」という感想を書いてくれる人が多い。たとえばブックメーターに書いてあった次のような感想。「文章がうまいので、紹介されている本をほとんど読みたくなってしまう」。これって、うれしいのだが、よく考えるとちょっと変じゃないだろうか。文章がうまいのなら、紹介した本ではなく、私の本を読みたくなるのが普通だと思うのだが……。この本の感想はだいたいこんな感じで、面白かったので角幡さんの他の本を読んでみようというのは見たことがない。なぜだろう。

最近、単発の書評や文庫本のオビの宣伝文句の依頼が立て続けにはいったが、書評というのはそういう意味で難しい。書評を書くときは、正直あまり面白くなかった本でも、いかに面白く書くかが腕の見せどころなのでつい面白く書いてしまう。しかしあまり面白く書いてしまうと、今度はその本を読んだ人から、書評が面白かったから読んだけど本自体はあまり面白くなかったなどと言われる。

ということで書評を読む人には次のことに気をつけてもらいたい。書評を読んで面白いと思ったときは、紹介されている本より、紹介している人の本のほうが面白い確率が高いので、評者の本を買いましょう。

ということで、『探検家の日々本本』&それ以外の私の著作。よろしく。

ホサナ
町田 康
講談社


書評のことで思い出したが、町田康『ホサナ』がとんでもなく面白かった。ものすごく字の小さな700Pだが、立て続けに二回読破した。『告白』とならぶ傑作、かつ、ここ数年で読んだ小説では断トツのナンバー1。

中央公論から単発書評の依頼があり紹介したが、あんな短い原稿では到底この本の魅力は語れないので、先日この作品に登場する重要なキャラクターであるひょっとこを切り口にブログで作品を詳細に論評してみようかと思い書きはじめたが、このまま書き進めると原稿用紙30枚以上になりそうで、そんな時間は到底なく断念した。

紹介したいのに紹介できないという、この不条理。まったく町田康の小説と同じだ。とにかくこんな小説を読んでしまうと、ほかの小説を読む気がしない。何作か手に取って読みはじめたが、物足りなくてすぐに放り出してしまった。

アマゾンでは酷評されているが、この本を評価できないなんてどういうことだろう。アマゾンのレビューなんて全然気にしなくていいことが分かり、そういう意味でも励みになる作品だ。



あと私が畏敬する東京農大探検部OBである北村昌之さんの『メコンを下る』。これも面白かった。94年から足掛け11年にわたり、メコンの源頭から河口まで下った一大探検記だ。メコン川の源頭を突き止めるという19世紀の英国の探検家がやっていたのと同じようなレベルの地理的探検を1994年にやったというから、びっくり仰天である。いったいこの人たちは何を考えているのだろう。

北村さんとは学生時代からの知り合いで、メコンの話はちょくちょく聞いていたが、この本を読んで詳細を初めて知った。実直で丁寧、正確でありながらユーモアたっぷりの文体も素晴らしい。酒席での豪放な人柄から、もっと乱暴な本かと思っていたが、全然ちがった。チベット域内の冒険的激流下りのパートもはらはらするが、個人的に一番面白かったのはラオスの竹筏漂流の話だろうか。情景描写や流域の人々とのふれあいもリアリティーがあり、一緒にメコンを下っている気分になれる。なんだか無人の北極を離れて人間くさいアジアに行きたくなった。

唯一の欠点は5500円という価格だろうか。ハナから売るつもりがないとしか思えない価格設定である。

ちなみに私が2002~03年にツアンポー探検をしたときの食料は、じつは北村さんらのメコン遠征で余ったものをもらったものだった。本当は『空白の五マイル』で謝辞を書くべきだったが、うっかりしていた。今更ながら、どうもありがとうございます。

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さて7月28日に地平線会議で極夜の探検の報告会を開きます。
内容は文春と名古屋の報告会と同じ、動画を見せながら旅の模様を話すというものになります。見逃した方はぜひご参加を。

場所は新宿区スポーツセンター。予約不要。500円。地平線会議のHPに後日詳細が出ると思います。
http://www.chiheisen.net/

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