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感想:『武士道シックスティーン』

2010年03月16日 01時34分19秒 | 本と雑誌
武士道シックスティーン武士道シックスティーン
価格:¥ 1,550(税込)
発売日:2007-07


文庫が平積みになっているのを見て興味が湧き、ハードカバーを借りて読んだ。16歳、高校一年生の二人の少女を主人公とした剣道もの。4月に映画が公開される。

短い章ごとに、二人の主人公交互に視点が変わる。片や全中2位という実力を持つ香織。勝負に徹して、勝つためなら反則スレスレも平気でやってのける。片や中学から剣道を始めた早苗。勝敗にこだわることを恐れ、マイペースで上達している。中学最後の大会でたまたま二人は対戦し早苗が勝ってしまったことで物語は始まる。早苗を追うように彼女のいる高校へと進学した香織。相反するような性格の二人が出会い、ぶつかり合ううちに友情を育む正統派の青春小説に仕上がっている。

剣道が個人種目なだけに個性と個性のぶつかり合う様は強烈だ。香織は周囲の反発も平然とやり過ごすし強さしか認めない。しかし、自分を負かした早苗が強くないことに苛立ったり、怪我をしたことがきっかけで自分を見失ったりする。彼女を受け止める早苗の存在がこの小説を成立させている。日本舞踊から剣道に転向した変り種で、性格的にも柔らかさを持っている。香織が一本気な剛構造なら、早苗はしなやかな柔構造の精神をしている。

小説としては早苗の傑出したキャラクター性に頼ったところも感じられた。青春小説として十二分に楽しめたけれども。小説ならではかどうかは微妙なところもあるが、剣道のシーンだけは小説でこそ描ける世界に感じられた。まあ剣道なんてコミックだと描くのが大変という面もあるが(苦笑。

スポーツの面から言えば、香織のような勝負に徹するタイプは日本ではあまり評価されないが、それでも強いのは確実にこのタイプだと思う。自分の満足のいく動きや勝ち方にこだわるのは確かに一つの美学ではある。武士道といった精神面を強調する場合それが優先されるのも理解はできる。だが、それではなりふり構わずかかってくる相手に勝つのは難しい。もちろん、それを貫いて勝つ者もいる。
剣道の場合は主に日本のみなのでそうした違いが際立つことが少ないかもしれないが、柔道ではそれが顕著に現れる。野村忠宏や谷本歩実は勝ち方にこだわり、それを貫いて勝者になった素晴らしい柔道家だ。一方で、谷亮子や石井慧は勝負に徹するタイプだと言えるだろう。私自身は武道家ではないので、そんな勝負師にこそ魅力を感じる。勝つためにあらゆる手段を尽くしてこそ。それはもちろん柔道などの武道だけでなくあらゆるスポーツ、そしてスポーツ以外でも現れる局面ではある。美学を優先するか勝負に徹するかはその局面ごとにどちらがいいか違うだろう。もちろん両立できればベストだが、常にどちらが優先すべきかは考える必要があるのではないかと思う。
高校の部活レベルでは勝負よりも美学優先でいいと思うが。(☆☆☆☆☆☆)


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