環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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日本政府の中期目標検討委員会が受賞した「化石賞」

2009-04-03 21:17:37 | 温暖化/オゾン層
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★日本の2020年の温室効果ガス削減目標

3月28日の朝日新聞が次のような記事を掲載しています。


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記事の表中には「中期目標の6つの選択肢の分析結果」とあります。ということは、6月までに決める予定の「政府の中期目標」はこれから2ヶ月ぐらいかけてこの委員会に招集された委員のもとで、この6つのうちのどれかに落ち着くということでしょうか。これではあまりにお粗末ではありませんか。この6つの選択肢のうち、国内総生産(GDP)への効果が0%なのは2020年に90年比で4%増だけで、あとはいずれもマイナス予測(2つの選択肢で影響の試算なし)となっています。

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私の環境論では、必要な施策例にあがっている「太陽光発電の設置個数」や「次世代自動車の普及率」を高めただけでは温室効果ガスの削減には寄与しないはずです。太陽光発電は発電時に温室効果ガスをほとんど出さない発電方式ではあっても温室効果ガスの削減装置ではありませんし、次世代自動車もたとえ温室効果ガスを排出しないものであっても、温室効果ガスの削減装置ではないからです。

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これらの普及によって温室効果ガスを削減するというのであれば、同時に火力発電所を縮小し、化石燃料を動力とする自動車(ガソリン車やディーゼル車)の台数を実際に削減しなければ意味がありません。火力発電所を現状のままにしておき太陽光発電の設置個数を増やしても、そして、化石燃料の自動車を現状のままにとどめて次世代自動車の普及率を高めても温室効果削減にはほとんど効果はないでしょう。

このようなあまり意味のない政府の中期目標の議論を見越して、国際環境NGOは4月1日に日本に「化石賞」を贈ったのだそうです。

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★スウェーデンの2020年の温室効果ガス削減目標

スウェーデンのラインフェルト連立政権、2月5日に 「環境・競争力・長期安定をめざす持続可能なエネルギー・気候政策」と題する4党の合意文書を発表しました。その中で示された2020年の温室効果ガス削減目標は1990年比40%です。

この図で注目してほしいのは、まずエネルギー利用効率を20%改善すること、そして、温室効果ガスは90年比40%削減です。



思い起こしてほしいのは、スウェーデンは京都議定書の基準年である90年から2007年までにすでに温室効果ガスを9%削減(京都議定書に沿って、EUはスウェーデンに4%増を配分したにもかかわらず、です)してきた実績があることです。そして、この17年間に経済成長(GDP)は44%増加しました。つまり、「温室効果ガスの排出量」と「経済成長」がデカップリングできたということです。

●スウェーデンの温室効果ガス排出量の推移

●スウェーデンの温室効果ガス(GHG)の排出量とGDPの推移 1990~2005


スェーデンの状況は、日本政府の中期目標検討委員会が議論を始めようとしている矢先に、日本のメディアが「環境と経済 両立見えず」と見出しにつけた状況とは大きく違います。



2008年のODA実績 総額:スウェーデンは日本のおよそ半分、GNI比:1位、日本は21(最下位)

2009-04-02 14:28:46 | 政治/行政/地方分権
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OECD/DAC(OECD開発援助委員会)は2009年3月30日、 「Development Aid at its highest level ever in 2008」と題した調査結果を公表しました。委員会加盟の22カ国のODA実績です。
――――――――――
2008年、OECDの開発援助委員会の加盟各国からの総ネットODAは10.2%増加し、1、198億米ドルに達した。これは過去最高の援助額である。全加盟国の国民総所得(GNI)比の平均は0.3%であった・・・・・
―――――――――

これを受けて、スウェーデン外務省は2009年3月31日、「Swedish development assistance highest in the world」と題したプレスリリース(報道機関向け資料)を出しました。その要旨は次のようです。
――――――――――
OECD開発援助委員会(OECD/DAC)は加盟の全メンバー国からの開発援助統計(暫定値)を公表した。国民総所得(GNI)比でみた2008年のスウェーデンの援助額は0.98%で、世界最高であった。
――――――――――

また、日本外務省も2009年3月30日、 「DACによる2008年(暦年)の各国ODA実績(暫定値)の公表」と題するプレスリリースを出しました。

OECD/DACが公表した資料、スウェーデン外務省および日本外務省が出したプレスリリースはそれぞれの立場と考えを反映していて興味深いものですが、ややわかりにくいところがあるのはやむをえません。このようなときはOECD/DACの資料に添付されている次の2つの図を見れば、一目瞭然でしょう。

なお、ODAの議論をするとき注意することは、OECD/DACが公表する「ODA実績」は支出純額(Net)ベースだということです。純額(Net)というのは、援助国から途上国に流れたお金から、途上国から援助国に戻ってきたお金を引いた額という意味です。これに対して、単純に援助国から途上国に流れたお金だけを集計したものをグロス(Gross)といいます。

 

上の図からすぐわかることは、日本は93億6000万ドルで5位、スウェーデンは47億3000万ドルで8位、人口比では両国はおよそ12倍ですが、ODA純額の比ではわずか2倍にすぎません。さらに、下の図から国民総所得(GNI)比という判断基準では、当然なことながら、両国は両極端に位置しています。

日本とスウェーデンを比較するときに必ずと言ってもよい「日本は1億2000万人だが、スウェーデンは900万人の小国なので・・・・・(比較にもならない?)」という識者はこの現状をどう説明するのでしょう。

たとえば直近の話では、『週刊ダイヤモンド』(特大号 2009年4月4日)の「Part3 激論 これからどうなる? 日本はスウェーデンになれる?」(p145~145)で、神野直彦さん(東京大学教授)と八代尚宏さん(国際基督教大学教授)討論しています。「スウェーデンと日本の違いはどこにありますか」という問いにお二人が答えた後、「ほかに違いがありますか」という編集者(?)のさらなる問いに、八代さんは「・・・・・そして、やはり人口の違いです。スウェーデンの人口は900万人前後で共同体的なまとまりを成立させています。だから、人口規模の大きな日本がスウェーデンモデルを導入するには地方分権が不可欠です。」と答えておられます。

仮に、司会者がこの2つの図を前に同じような質問をしたら、八代さんはどう答えるのでしょう。八代さんはやはり、この歴然たる相違を人口の大小で説明できるでしょうか。別の理由を探すか、沈黙してしまうかのどちらかでしょう。私は人口の大小が問題になるのは、「解決すべき問題」に対して解決のための考え方や手法が同じ場合だと思います。考え方と手法が同じであれば、一般論としては人口が少ない方が有利だといえると思います。しかし、この例で言えば、日本とスウェーデンのODAに対する考え方や国の目標に大きな相違があるのです。


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新年度の初日はこうして始まった:3月 日銀短観 景況感 過去最悪

2009-04-01 11:19:34 | 経済
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今日から4月1日。日本では今日から新年度が始まりました。新年度初日の朝日新聞の夕刊一面トップは「景況感 過去最悪」とあります。私の環境論では、20世紀後半に顕在化した「環境問題」の大半は、私たちが豊かになるという目的を達成するために行ってきた「企業による生産活動」と「市民の消費活動」があいまってつくりだした「経済活動の目的外の結果」が蓄積したもの と理解します。つまり、「経済」と「環境問題」は、切っても切れない関係にある、わかりやすく言えば、「コインの裏表」と言うことになるでしょう。

とにかく、日本の経済も、国際経済も、気候変動問題をはじめとする環境問題も国際政治の大問題となっています。この問題を解決できるのは今を生きる私たちだけです。というわけで、この記事についても、ついコメントをしてみたくなるのですが、ここはぐっと我慢して、2009年度はこのような大変な状況から始まったと記録しておくことにとどめます。さらに「過去最高」を更新するかもしれませんので・・・・・