図書館でふと背表紙を見て思い出した佐世保の事件。「ああそういえば、どうなったのかな」程度で手に取ったのですが‥。
あれから9年経つのです。11歳だった少女は今20歳。
施設を出て、今は普通に社会生活を送っているはずです。
「追跡!佐世保小六女児同級生殺害事件」草薙厚子・著(講談社)2005年初版
しかし読んでいて次々に新しい事実が分かりました。
詳細に事件を取材しなければ決して知られることのなかった事実です。やはり単純なものではなく、複合的なものでした。
本人の家庭環境(決して幸福なものとは言い難い)、資質、教育環境‥。
子供を育てた親として、読みながら様々な事を考えさせられました。
子供の学校のことや友達、家庭のこと。
ウチは決して裕福ではなかったですが、まず子供の素質や気持ちにいつも目を向けていました。
友達との関係や先生のことなどもいつも気をつけていました。
経済的に豊かになるよりそっちの方が重要だと考えていたからです。でも、そういう家庭ばかりではないのですね。
加害者のAさんの家は父親が脳梗塞で仕事が不安定になり闘病もしなければなりませんでした。母親は就労と夫の世話で一杯です。
とても子供の性格がどうの気質がどうのと言う所まで思いが回りませんでした。
A子さんは鑑定の結果、情緒的なことや感情をまとめて言葉にして表現する能力が劣っていたと分かりました。
著者はアスペルガー症候群だったのではないかと推測しています。
家庭では父親に暴力を振るわれ、鬱屈した思いを発散する術がなく、どんどん蓄積されて行きました。
興味はホラーやバイオレンス。
バトルロワイヤルなどの世界にはまり込んでいたと言います。
普段から大人しいクラスメートに対して暴力を振るったりしていました。それを見て見ぬふりしていた担任教師。
そしてホームページに悪口を書き込んだという事がきっかけで口論となり、クラスメートの一人に強い殺意を抱いて行くようになります。
一つでも歯止めがあれば止められたのでしょうが、悪い方へ悪い方へと転がってしまいました。
やがてある日、午前中の授業が終わった後に、A子さんは被害者の少女を呼び出し、凄惨な事件を起こしてしまうのです。
担任の話の記述が生々しくて、まるでその場にいるような思いにさせられました。
「大人しくて手のかからない子」として見過ごされ、内面で起こっている事を誰にも知られなかった‥。
恐ろしい闇が手のつけられないほど深く、広がって行った。
何とも不幸な出来事です。
でも単純に見れば、A子さんが男子にしつこい暴力を振るっていた時、それが同じ同級生の目にも余るほどの行いだった時、
どうして担任の教師はそれをほったらかしにしていたのでしょう?
少なくとも、じっくり向き合い、その心の内を聞いてみることぐらいは出来なかったのでしょうか。
そこが最後の歯止めだった気がします。
もちろん、後になったからこそ言えることですが。
それにしても、この事件に関わった様々な人が、その後心的外傷性ストレスなどに苦しみ、長らく通院し苦労なさっています。
特に同級生の男児は学校から責任の一端を振られ、重いPTSDになっています。
こういう事件が起こってしまったから、児童の内面には気をつけよう、というのではなくて、元々人間はそういう業の深い存在であること、
経済や豊かさの前に、まず一個の人間として周りが一人の人間に敬意を払うこと、どんな小さな存在でも、声がけをしあって大事な命なんだよ、と前向きで明るく生きることを大人が子供に教えていかなければならないと深く感じました。