登山で思い出したので、もうひとつお話を
僕の卒業した大学では日本アルプスのある山の山小屋の向かいに診療所を持っており、毎年シーズンである夏の間だけ開いている。
基本的に外科系の医者1人とナース2人が2-3日交代で勤務することになっていて、毎年希望者を募り運営しているが、日程が埋まらない場合は(大体半分以上埋まらないのだが)医局長から研修医に、お前、休みをやるからいって来いというぐあいで任命される。基本的に研修医は休みに餓えているので、仕事といえども数日間を山で過ごせるのは夏の楽しみの一つでもあった。
ただ、右も左もわからない研修医には設備もなく指導医もいない、限られた薬のみで、不安な数日でもある。
しかし、同行している看護婦さんは若いといっても研修医より臨床経験は豊富なものであり心強い見方である。
また、いざとなれば、大学病院の医師と連絡を取って支持を仰ぐこともできる。
診療所といっても、ボランティアであり診察料は無料である。
ちなみに、われわれの給料は1日4千円ぐらいで、交通費を差し引くとマイナス?であったと記憶している。
訪れる患者さんのほとんどは、高山病や脱水、またはかすり傷程度のもので、若い外科医でも十分に対応のできるものであるが、1人だけ忘れられない患者さんがいる。
医者になって3年目の夏、基本的な救急処置はできるようになっており、2年前とは違い、診療所生活を満喫していたときの話である。
40代の女性で、診療所の前で転倒し、右肩を強打したという方が来院。
右腕がだらーんとしており、診察してみると、どうも右肩関節の脱臼を起こしているもよう。
外科3年目とはいえ専門外の分野である。
これが下界であれば、診断がつけば、すぐに整形外科を紹介することもできるが、山の上ではそうはいかない。
はて、困ったと思い頼りのナースに相談するも、2人とも肩の脱臼は初めて遭遇するとのこと。
ここで見栄を張ってもしょうがないので、とりあえず患者さんに、自分は整形の専門ではなく、肩の脱臼に遭遇するのは初めてであることを正直に説明し、大学病院の整形の当直に電話、ちょうど、顔見知りの先輩であり、支持を仰ぐと、できるだけ早くに整復しろとのこと、だめなら大学病院に送ってよとのこと。
大学に送ってよって、あんた、人の話し聞いてないのかって、だからここは標高3000mmの山の上だっていっているのに、送れるもんなら送ってるよー。
とりあえず、患者さんの了承の上、診療所に眠っているほこりのかぶった古い教科書をひっくり返して、学生の時に習った知識で、何通りかの整復を試みるも、断念。
日は暮れてロープウェイは止まってるし、いくらなんでも、この状態で徒歩で下山させるわけにはいかなく、一晩診療所で頬っておくわけにも行かないので、仕方なしに最後の手段として、ヘリコプターを要請したところ、県をまたぐとか何とかの、救急車みたいな理由で県営のヘリは出動させられないとのこと。
残るは民間のヘリであるが、これは数十万かかるとのことであるが、この際背に腹は変えられないとのことで、民間ヘリ要請。
数十分後、真っ暗な空の向こうからバッ、バッ、バッ、バッとヘリの音が聞こえ、ヘリコプター登場するも、困ったことに足場が悪くて着陸できないと連絡が入り、その直後、ヘリから何か網みたいなものが落下、どうやらこれに患者さんをくるんで引き上げる作戦らしく、早速、患者さんを網の中にくるんで、GOサインをだした。
網で患者さんをヘリまで引き上げるかと思いきや、そのまま宙ぶらりんの状態で、ヘリは真っ暗な暗闇の中へ消えていった。
翌日、搬送先の病院から連絡があり、レントゲンで右肩関節の脱臼と骨折が確認されたとのこと。
教科書的には骨折を伴った脱臼の場合、整復時に骨折片が関節内に入り込んでしまうことがあるので、盲目的な整復は危険とのこと。
結果的には無理に整復しなくて良かったのである。
後日、その患者さんからお礼の手紙が届き、その内容は確か、、、
登山の後、娘と海外旅行に行く予定で貯金していたお金をヘリコプター代に当てて事なきを得ました。どっちにしても怪我で海外旅行はキャンセルせざるをえなかったので、あの時の判断に感謝しています。
若かったです。
僕の卒業した大学では日本アルプスのある山の山小屋の向かいに診療所を持っており、毎年シーズンである夏の間だけ開いている。
基本的に外科系の医者1人とナース2人が2-3日交代で勤務することになっていて、毎年希望者を募り運営しているが、日程が埋まらない場合は(大体半分以上埋まらないのだが)医局長から研修医に、お前、休みをやるからいって来いというぐあいで任命される。基本的に研修医は休みに餓えているので、仕事といえども数日間を山で過ごせるのは夏の楽しみの一つでもあった。
ただ、右も左もわからない研修医には設備もなく指導医もいない、限られた薬のみで、不安な数日でもある。
しかし、同行している看護婦さんは若いといっても研修医より臨床経験は豊富なものであり心強い見方である。
また、いざとなれば、大学病院の医師と連絡を取って支持を仰ぐこともできる。
診療所といっても、ボランティアであり診察料は無料である。
ちなみに、われわれの給料は1日4千円ぐらいで、交通費を差し引くとマイナス?であったと記憶している。
訪れる患者さんのほとんどは、高山病や脱水、またはかすり傷程度のもので、若い外科医でも十分に対応のできるものであるが、1人だけ忘れられない患者さんがいる。
医者になって3年目の夏、基本的な救急処置はできるようになっており、2年前とは違い、診療所生活を満喫していたときの話である。
40代の女性で、診療所の前で転倒し、右肩を強打したという方が来院。
右腕がだらーんとしており、診察してみると、どうも右肩関節の脱臼を起こしているもよう。
外科3年目とはいえ専門外の分野である。
これが下界であれば、診断がつけば、すぐに整形外科を紹介することもできるが、山の上ではそうはいかない。
はて、困ったと思い頼りのナースに相談するも、2人とも肩の脱臼は初めて遭遇するとのこと。
ここで見栄を張ってもしょうがないので、とりあえず患者さんに、自分は整形の専門ではなく、肩の脱臼に遭遇するのは初めてであることを正直に説明し、大学病院の整形の当直に電話、ちょうど、顔見知りの先輩であり、支持を仰ぐと、できるだけ早くに整復しろとのこと、だめなら大学病院に送ってよとのこと。
大学に送ってよって、あんた、人の話し聞いてないのかって、だからここは標高3000mmの山の上だっていっているのに、送れるもんなら送ってるよー。
とりあえず、患者さんの了承の上、診療所に眠っているほこりのかぶった古い教科書をひっくり返して、学生の時に習った知識で、何通りかの整復を試みるも、断念。
日は暮れてロープウェイは止まってるし、いくらなんでも、この状態で徒歩で下山させるわけにはいかなく、一晩診療所で頬っておくわけにも行かないので、仕方なしに最後の手段として、ヘリコプターを要請したところ、県をまたぐとか何とかの、救急車みたいな理由で県営のヘリは出動させられないとのこと。
残るは民間のヘリであるが、これは数十万かかるとのことであるが、この際背に腹は変えられないとのことで、民間ヘリ要請。
数十分後、真っ暗な空の向こうからバッ、バッ、バッ、バッとヘリの音が聞こえ、ヘリコプター登場するも、困ったことに足場が悪くて着陸できないと連絡が入り、その直後、ヘリから何か網みたいなものが落下、どうやらこれに患者さんをくるんで引き上げる作戦らしく、早速、患者さんを網の中にくるんで、GOサインをだした。
網で患者さんをヘリまで引き上げるかと思いきや、そのまま宙ぶらりんの状態で、ヘリは真っ暗な暗闇の中へ消えていった。
翌日、搬送先の病院から連絡があり、レントゲンで右肩関節の脱臼と骨折が確認されたとのこと。
教科書的には骨折を伴った脱臼の場合、整復時に骨折片が関節内に入り込んでしまうことがあるので、盲目的な整復は危険とのこと。
結果的には無理に整復しなくて良かったのである。
後日、その患者さんからお礼の手紙が届き、その内容は確か、、、
登山の後、娘と海外旅行に行く予定で貯金していたお金をヘリコプター代に当てて事なきを得ました。どっちにしても怪我で海外旅行はキャンセルせざるをえなかったので、あの時の判断に感謝しています。
若かったです。