杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ペーパーバード 幸せは翼にのって

2012年02月20日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2011年8月13日公開 スペイン 123分

内戦下のスペイン・マドリード。妻マリア、息子ラファと幸せに暮らしていた喜劇役者のホルヘ(イマノル・アリアス)だったが、ある日、相方の腹話術師エンリケ(ルイス・オマール)との舞台を終えて帰宅途中、爆撃に遭う。家へ急いだ彼の目に映ったのは、がれきの山と化した自宅とその下敷きになった妻子の姿だった。そして一年後。内戦が終わり、ホルヘは劇団に戻り、戦争で両親を失った少年ミゲル(ロジェ・プリンセプ)を引き取っていたエンリケと再会し、一緒に暮らし始める。息子と同じ年頃のミゲルを冷たく突き放すホルヘだが、ミゲルはホルヘを慕い、芸を覚えようとする。一方、反体制派へ厳しい弾圧を行っていたフランコ政権は、ホルヘを要注意人物としてマークし、監視役の内偵者を劇団へ送り込む。劇場や巡業先にやって来て、執拗に反体制派摘発の圧力をかける軍人たちに怯えるエンリケは海外脱出を主張するが、ホルヘは拒否し、ミゲルに芸を教え始める。そんなある日、劇団が独裁者フランコ総統の前で公演を行うことになり・・・。


1936~39年のスペイン内戦では、ソ連や国際義勇軍の援助を受けた左派が、ドイツ&イタリアファシズム陣営の援助を受けた右派に破れ、その後に独裁政治が続きます。そんな時代を劇団の芸人たちの視点から描いた作品です。

ホルヘは最愛の妻子を失い、心を閉ざしています。彼が劇団を離れていた間に“反体制派”運動に加わっていたかどうかは明らかにされませんが、劇中では一貫として運動に加わることを拒否しています。ただ全てが虚しく思えていたのでしょう。それでも時に滑稽に、そして痛烈に独裁者フランコやその体制を揶揄する歌やセリフを吐きます。それは彼の中に残る反骨精神なのか、それとも捨て鉢になっていたのか?

そんなホルヘを支えるのは優しく穏やかなゲイのエンリケ。芸の相棒であるだけでなく、孤児のミゲルの母親的存在でもあり、疑似家族のようでもあります。死んだ息子を思い出させて辛いのか、当初はミゲルを冷たくあしらっていたホルヘですが、ニュースフィルムに映っていたミゲルの母親を探し出して会いに行くという気遣いをみせます。この時ミゲルが折った紙の鳥を持っていくのです。内戦のショックで現実を拒否した彼女へ、自分がミゲルを育てると告げたホルヘはこの後からミゲルに芸を教え始めるのです。

劇団員の中には、未成年ダンサーのメルセデス、とうの立った歌手のロシオ(カルメン・マチ)や、犬に芸をさせる老夫婦らがいました。巡業の旅で、犬を盗まれ劇団を抜ける老夫婦、引退して巡業先の村長と一緒になることを決めたロシオ・・それぞれの人生模様も描かれます。ロシオが痔主という設定で、なぜか洗面器を必要とするのですが、痔と洗面器の関連性はよくわからなかったな メルセデスが軍人の暴力に遭う場面はその前後の様子の描写に留めることで、弱者へもたらされる理不尽さを浮き立たせていました。

内偵として潜り込んだパストールは、次第にホルヘたちへの親しみを深めていきます。フランコ総統の前での公演に仕組まれた陰謀に気付くのも彼です。黒幕は意外な人物ではありますが、明らかにされてみれば、確かに怪しい振る舞いが多々・・
罠に気付いたホルヘはミゲルやエンリケ、メルセデスと劇団を逃げ出し、国外(ブエノスアイレス)脱出しようとするのですが、駅でホルヘを嫌っていた中尉に捕まってしまうのです。汽車が走りだし、ミゲルの必死の呼びかけに逃げようとしたホルヘを無情にも銃弾が貫きます。ミゲルの絶叫と手元からこぼれおちるペーパーバードが切ないです。

そして数十年後。そこには年老いたミゲルが受賞の言葉を述べる姿がありました。彼の感謝は亡き二人の「両親」ホルヘとエンリケへ向けられたものでした。
そっか・・・無事逃げ延びて素晴らしい芸人になったんだね

邦題からはハッピーエンドを想像してしまうのですが、ちょっと違いましたね。


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