
2025年3月20日公開 アメリカ=イギリス 120分 G
全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派、カトリック教会。その最高指導者にしてバチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。悲しみに暮れる暇もなく、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々にローレンスの苦悩は深まっていく。そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……。(公式HPより)
エドワード・ベルガー監督によるローマ教皇選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー作品です。

コンクラーベといえば、ダン・ブラウンのサスペンス小説「天使と悪魔」で登場したのを機にその存在を知りましたが、本作はまさに選挙の実態を描いたもので、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断するための様々な措置を含めた選挙の舞台裏が描かれていて興味深かったです。
枢機卿の法衣や修道女の修道服 、十字架、指輪、靴、外套 など衣装やアクセサリーにも作り手の拘りを感じることができます。
聖職者と言えども生身の人間。選挙における駆け引きは政治家にも引けを取らない熾烈なパワーゲームです。投票を重ねる度に情勢も変わり、水面下で様々な陰謀、差別、スキャンダルが蠢く様が生々しく描かれます。観客は選挙を執り仕切るローレンス枢機卿の視点に重ねて選挙の行方を見守ることになります。
政治的分断が深刻化している現代社会の縮図のような選挙戦の中、有力候補者はローレンスの親友で米国出身のリベラル派のベリーニ枢機卿(スタンリー・トゥッチ)、カナダ出身の保守派トランブレ枢機卿(ジョン・リスゴー)、イタリアの伝統主義の保守派テデスコ枢機卿(セルジオ・カステリット)、アフリカ系のアデイエミ枢機卿(ルシアン・ムサマティ)です。
現在枢機卿は世界に252人(コンクラーベの選挙権を持つのは137人)、欧州出身は45%で、12%はアフリカ、15%はアジア だそう。
ローレンスとベリーニは前教皇を批判していたテデスコの前近代的な考え方が教会を後退させることを危惧していて、彼は教皇に相応しくないと考えていました。
コンクラーベ直前、ローレンスはウォズニアック大司教からトランプレが重大な不正行為で前教皇から解任されたことを打ち明けられます。しかしトランプレはこれを否定します。
また、前教皇から秘密裏に任命されたというカブール(アフガニスタンの首都)のベニテス枢機卿が現れ、ローレンスは彼を招き入れることを決断します。(何故隠されていたかという理由はイスラム主義勢力が強いアフガニスタンではキリスト教徒が迫害されているための安全策とされましたが、現実には教皇が死去する前に公表していないと資格がないのだとか)
コンクラーベ第1回の投票は、票が割れますが、4人の他ローレンスも有力候補者の一人となります。ベリーニとローレンスはテデスコの勝利を避けるためアデイエミを支持することに渋々同意するのですが、翌日の食事中に起きたアデイエミと修道女シャヌミの騒ぎを目にしたローレンスが事情を問い質すと、過去に彼女がアデイエミと関係を持ち子供を産んでいたことが判明します。(カトリックの司祭は妻帯できない)
教皇の資格に価せず、教会全体のスキャンダルになりかねないと辞退を迫るローレンスに若気の至りと懇願するアデイエミ。ローレンスは秘密を守ると言いましたが騒ぎの噂は広まりアデイエミは失脚します。
枢機卿たちの宿泊施設を運営する責任者であるアグネス修道女(イザベラ・ロッセリーニ)から、シャヌミをバチカンに移したのがトランプレだと告げられたローレンスは、彼がアデイエミを陥れようと画策したと考えて詰問しますが、トランブレは教皇の要請に従っただけだと言い、逆にローレンスが教皇の座に野心を抱いていると非難します。
真相を確かめようと教皇の閉ざされた部屋に侵入したローレンスは、トランプレが票を得るため他の枢機卿に賄賂を渡した記録を見つけます。ベリーニに相談すると、教会の威信を保つために文書を燃やすよう促します。そこでローレンスは彼も賄賂を受け取っていたことに気付きます。
コンクラーベ3 日目。
ローレンスとアグネスは書類のコピーを枢機卿たちに配ります。トランブレは言い訳しようとしますが、彼がアデイエミを陥れるために画策したことアグネスに告発され失脚します。
有力候補者が次々失脚する中、ローレンスは自分の名前を書いて投票しようとしますが、これぞ神の御業とばかりにその瞬間自爆テロによりシスティーナ礼拝堂の窓が破壊され、路上で死傷者が出ます。
テデスコ枢機卿はここぞとばかりにイスラム過激派を非難し、教会は彼らと戦うべきと熱弁を振るいます。形勢はテデスコ有利となる中、ベニテス枢機卿が立ち上がると、戦争の恐ろしさを語り、暴力に暴力をもって対抗すべきではないと語りかけます。
ここまで観てくると誰が教皇に相応しいか自ずと答えが出てきます。しかし物語はその後に衝撃的な真実が明かされるのです。爆発でシスティーナ礼拝堂に開いた穴から風が吹くシーンが新たな時代の幕開けを想像させます。
ベニテスの病という伏線が登場していましたが、それは病ではなく彼が持って生まれた「神から与えられた身体」だったのです。
彼がローレンスに票を投じ続けたのは彼の信念によるものでしたが、そのこと自体が彼の苦悩を抱えた人生から来ていました。
ベニテスの秘密はやがて暴露される日が来ることは必須でしょう。その時教会はどう判断するのか。😣 リベラル派でも女性活躍に対しては保守的 な上、カトリック教会では未だ女性は聖職者(司祭以上)になれないという現実からすると、まさに爆弾投下に等しい衝撃的な結末です。
ちなみにベニテスが選んだ教皇名のインノケンティウスは「先入観のない純粋さを表す名」。他の枢機卿と異なり、企みや私欲のない純粋な信仰心を持つベニテスと彼同様イン・ペクトレで枢機卿に任命された後に教皇になったインノケンティウス10世を重ねているようです。
冒頭でベリーニが「前教皇はチェスで常に8手先を読んでいた」と語っていましたが、このコンクラーベが全て前教皇の考えたシナリオだとしたら凄すぎます。