杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

犬猿

2018年02月21日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2018年2月10日公開 103分 

テアトル新宿10:10上映

金山和成(窪田正孝)は地方都市の印刷会社で働く営業マン。イケメンだが、真面目で堅実な彼は、父親が友人の連帯保証人になって作ってしまった借金をコツコツと返済しながら、老後のために毎月わずかな貯金をする地味な生活を送っていた。そんなある日、彼のアパートに、強盗の罪で服役していた兄の卓司(新井浩文)が刑期を終えて転がり込んでくる。卓司は和成とは対照的に、金遣いが荒く、凶暴な性格でトラブルメーカー。娑婆に出てきて早々にキャバクラで暴れたり、弟の留守中に部屋にデリヘルを呼んだりとやりたい放題。和成はそんな卓司に頭を抱えるが、気性の激しい兄には文句のひとつも言えない。しかし、和成はそんな卓司のことを密かに天敵だと思っていた。一方で、そんな和成に仄かに恋心を抱いている女性がいた。和成が頻繁に仕事を依頼する、小さな印刷所を営む幾野由利亜(江上敬子)である。親から引き継いだ会社を切り盛りする彼女は勤勉で頭の回転も速く、寝たきりの父親の介護もしながら仕事をテキパキとこなす“できる”女だが、太っていて見た目がよくない。その彼女にも実は天敵がいた。妹の真子(筧美和子)だ。由利亜の下で印刷所の手伝いをしている彼女は、姉と違って仕事の要領が悪く、頭も決してよくないが、顔やスタイルの良さから、時々グラビア撮影やイメージビデオに出演するなど芸能活動もしていて、取引先の男性にも人気がある。由利亜は仕事もできないくせにチャラチャラして、チヤホヤされているそんな妹にいらつき、真子もまた節制できずにぶくぶくと太っている姉のことを小バカにしていた。しかしある時、金山兄弟、幾野姉妹に変化が訪れる。卓司が始めた胡散臭い輸入業の仕事が成功したことで和成の心に複雑な気持ちが芽生え出す。また、由利亜の仄かな恋心をよそに、和成と真子がつき合い出したことから、嫉妬に燃えた由利亜がストーカー化。一方の真子は、エロまがいのグラビアを一向に卒業できない焦りから枕営業へと走り、ラブホテルで卓司と鉢合わせしてしまったために事態は急変するのだが……。(公式HPより)

 

近くのシネコンではかからないのでDVD待ちかな~と思っていたのだけど、やっぱり我慢できなくて新宿までお出かけ。水曜はサービスデーなのですチケットはネットで予約。劇場に着くと階段に当日券購入の列ができていましたが、こんな時は特にネットが便利ですね待たずに発券できました。ロビーには映画で着用した卓司と和成の衣装が展示されていました。

「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督作品ですが、この監督の作品鑑賞は初めてです。容姿も性格も正反対な兄弟と姉妹の人間ドラマなので、異性の兄弟がいない私は内容に共感できるか少し不安があったのですが杞憂でした。

和成は良くも悪くも普通の青年です。およそ欲のない善人に見えますが、子供の頃からトラブルメーカーの兄に振り回されてきたことからくる一種の諦めによる人格形成なのかも 正反対といっても、彼の中にも兄に通じる狂暴な感情や殺意が浮かぶ瞬間があり、そこはやはり血の繋がりを感じてしまいます。突然転がり込んできて勝手放題の兄に文句も言えず、ちょっと口答えしただけで兄に殴られるとすぐに謝ってしまうし、けっこう情けない面も。

和成は父親のために借金返済の手助けをしたり座り心地の良い椅子を買ってあげたりしていますが、裏を返せば、親に迷惑ばかりかけている兄への当てつけであり、そうした親孝行自体が彼の優越感を満足させる手段だと見るのは穿ち過ぎかしら

卓司は悪人ではありません。粗暴ですぐ手が出るのは言葉でうまく伝えられないからかな?騙されやすいのは人を信じてしまう素直なところがあるからかも。(ちょっと頭が回らないとも言えますが)本当は家族のことを大事に思っていることは、仕事が成功すると親の借金を全額返済してあげたり、高価なマッサージチェアを買ってきたりするところや、和成を殴る時も拳ではなく平手だったりする点からも伝わってきます。

一方姉妹の方は暴力に訴えない分、陰湿さがあります。真子は、姉が和成に好意を持っていることを承知で彼と付き合ったり、そのことを暗にひけらかしたりします。真子は由利亜のように頭が良いわけでもなく、仕事の要領も悪いことに劣等感を抱いています。彼女にとって、与えられた容姿だけが勝負ポイントなのです。逆に由利亜は妹の容姿や愛嬌に嫉妬しています。和成は姉と妹のそれぞれと富士急ハイランド(数日前に高速で通り過ぎたばかりだったので妙にツボでした)へ遊びに行きますが、その時の描写の対比が笑えました。はしゃぐ由利亜はメチャクチャ不細工で、興奮し過ぎて(過激アトラクションで?)吐いたりして和成はかなり引いている表情でしたが、同じシチュエーションでも真子はアイドルっぽく撮っているので和成は凄く楽しそうなんですね 和成に貰った手拭(誕生日プレゼントにしてはセンス無さすぎですが、単なる取引相手への選択なので仕方ない?)に描かれた赤い菊の花言葉をネットで調べて舞い上がり踊りだす姿がキレキレなんだけど哀しくなるほど不細工。いじらしいのにイタイんです。ストーカーまがいの行動中、卓司に炒飯作るシーンでは年長組の二人の間に妙なシンパシーが流れて面白いです。

2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させるシーンは、途中からサイレントになります。声に出さない分リアリティを感じさせる演出でした。部屋を飛び出したのはいずれも下の方。で、帰ってみれば姉は手首切ってるし、兄は刺されてるこの時、妹は迷わず救急車を呼びますが、弟の方は・・・見なかったことにしようとするんですね。もちろんすぐに思い直すのですが、一瞬でも「見殺しにしよう、そしたら自由になれる」という考えに囚われてしまったんですね。 闇は弟の方が深いかもと思わせるシーンでした。

救急車の中で互いに思いを吐露し、長年のわだかまりが融けたかに見えた二組。病室で目覚めた卓司が〇〇〇に向かって「なんでお前がいるの?」が笑えます。この監督、シリアスとコメディの切り替えが上手いですね

これでハッピーエンド、とならないところがミソ。人間そうそう変われるものじゃないってことを突き付けられるラストでした。でもやっぱり家族ですから、これからもずっと続いていく関係なんですよね

さて、窪田君ファン目線では、久々「普通の」青年役のスーツ姿の彼を堪能させていただきました。話題のサラリーマンに見えない「脱いだら凄い」裸体は真子とのラブホのシーンで登場しますが、それが理由なのか最初は寝具がかかったままで、起き上がった一瞬だけ拝ませてもらえます もちろん、兄に対する様々な感情を表現する目の演技も安定の演技力です。


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