杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

if: サヨナラが言えない理由

2019年10月13日 | 

垣谷美雨(著) 小学館(出版)

人生の「後悔」を生き直してみたら…
33歳の医師・早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、「患者の気持ちがわからない女医」というレッテルに悩んでいる。ある日、ルミ子は不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、患者の”心の声”が聞こえてくるのだ。死を目前にした患者達は、さまざまな後悔を抱えていた。ルミ子は患者とともに彼らの”もうひとつの人生”を生き直すことになり――!?この世の中の誰もが、「長生き」することを前提に生きている。もしも、この歳で死ぬことを知っていたら…

●dream――千木良小都子(33歳)
母は大女優の南條千鳥。母に反対された「芸能界デビュー」の夢を諦めきれなくて…

●family――日向慶一(37歳)
IT企業のサラリーマン。残業ばかりせずに、もっと家族と過ごせばよかった。

●marriage――雪村千登勢(76歳)
娘の幸せを奪ったのは私だ。若い頃、結婚に大反対したから46歳になった今も独り身で…

●friend――八重樫光司(45歳)
中3の時の、爽子をめぐるあの”事件”。僕が純生に代わって罪をかぶるべきだった。

前に読んだ「老後の資金がありません」が面白かったので、こちらも借りてみました。

お笑いでいうところの「てんどん」みたいに、各エピソードにお決まりの文章が出てくるのが気になったのですが、これは各話が連載だったり書き下ろしだったりで初めから意図されたものではないからなのね。ある意味、連続ドラマのような定型の枠が出来上がっている感じですね。(例えば、ルミ子が患者に必要以上に言葉をかけていると、看護師が視線や態度で追い立てようとする描写や、病室に「あら、すみません。まだ回診中だったんですね」と家族が入ってくるなど

ルミ子先生は、根は真面目で患者に寄り添おうとする熱意のある女医ですが、言葉足らずと空気を読まない性格が災いして、患者や家族から誤解を受けることが多く凹んでいたところに、不思議な聴診器を拾ったことで、患者との関わり方に変化が出てきます。

患者と一緒に、後悔を残した過去に遡って、彼らが「こうあったら良かった」人生を覗き見ることで、成長していくんですね。過去に戻る扉はそれぞれ違っていて、それは彼らの想いが作る概念だから。

女優になる夢を反対された小都子は、やり直した過去の中で女優として生き抜いてきた母親の強さや、自分に対する愛情の深さを知ることで、母に感謝して逝きます。

仕事人間だった慶一は、見舞いにくる妻がお金のことしか言わないことに腹を立てていましたが、過去に戻って家庭生活をやり直すうち、学生結婚した妻の幼さや孤独を知り、妻のために最善の道筋をつけてあげて安らかに逝きます。

娘の結婚に反対したことをずっと後悔してきた千登勢は、過去に戻って結婚を許した結果の悲惨な未来を知り、自分の選択に間違いがなかったと安堵しますが、この話には後日談がありました。結婚を反対した男の母親・ノブが隣の病室に入院してくるんですが、彼女は息子の結婚相手が気に入らず悔やんでいます。ところが、過去に戻って息子が結婚しなかった未来が自堕落で救いがなかったことで、嫁に感謝するようになるんですね 更に、続きがあって、千登勢の娘の毎子は、母親が亡くなると、ノブの息子・羊太郎と不倫を承知で交際を始めようとするの。 元がダメ男の羊太郎と、幸せな未来なんか訪れる筈もないと思ってしまうけれど、毎子の両親への復讐からくる行動と思うと哀れに感じてしまいます。

中学の時に憧れの爽子の罪を被って人生を転落した友人への罪悪感に苛まれている八重樫は、過去に戻って爽子がその友人を好きだったと気付いて愕然とします。実は彼の妻が爽子だったのです。彼の罪悪感は疑惑へと変わっていくのですが、実は爽子と義母こそが諸悪の根源だったという・・・。復讐心が八重樫を新薬の治験に向かわせ、思わぬ回復をみせる展開に驚きました。人の記憶なんて、結局は自分の都合がよいように操作されていくものなのかもと思わされる話になっています。

ルミ子の同僚医師である岩清水医師とは、実は互いに惹かれ合っています。鈍感なルミ子は彼の気持ちにも自分の気持ちにも気づかぬまま、喧嘩友達として認識していましたが、次第に岩清水がただのお坊ちゃんではなく、母を事故で亡くして以来、苦労してきたことを知るようになります。その人柄や優しさにも気づいていくんですね。エピローグでは、自分と母を捨てて家を出て行ったままの父と再会し、岩清水の助言もあって、長年の憎しみやわだかまりから解放され、安らかな気持ちで父を送ることができます。 

八重樫との外来での会話や父親との会話のあたりから、聴診器をあてなくてもルミ子には彼らの気持ちが伝わってくるようになりました。

後輩の、自分と似た空気の読めない女医に、この不思議な聴診器をバトンタッチするという場面で終わる物語ですが、きっともうルミ子には聴診器の力を借りなくても患者と心を通わせることができるほど、人間としても医者としても成長したってことなのだということですね


2023.11.6再読
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