陽だまりのねごと

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【二本の木】 互いのがんを支え合い共に生きた夫婦の愛の日々 

2010-01-31 06:10:28 | 終末医療
夕暮れの無音の家に見るとはなしテレビを点けた。
スイッチを入れると煩くないお決まりのNHK。
竹下景子と片岡仁左衛門の二人で朗読をしていた。
「聖路加病院緩和ケア病棟」の言葉に惹かれて座り込んで見始めた。
亡夫の最後もまた地方にある緩和ケア病棟だったのだ。

癌の闘病記を朗読しているものだった。
私は闘病記が好きでない。
思い出すことが多すぎるし死で完結するからだ。
帰らぬ人を思い出させる余計なツールは避けるに限る。

それでも目が離せなくなり、話にのめり込んでいった。
単なるドラマ仕立てやビデオでなく朗読だったことが集中させてしまった。
妻と夫が綴った日記の朗読だった。

   聖路加から帰りたい家で暮らしたい。
   もう一度二人で暮らしたい。

想いを叶えるべく家の改修をして帰宅する。
住宅改修の方法、介護の方法など職業意識からも集中して見る。
末期がんの人も今は介護保険の適用になっている。九年前の夫の時はなかった。
家で過ごすため必要な品は死が分かっているだけに当の夫が高額な物を嫌った。
一番物入りな大学生二人を残しての逝く自分に使うお金を惜しんだのだ。
ここでは電動ベッドと天井から床へ支えの手すりがレンタルされ帰宅を待っていた。
訪問ヘルパーが来るケアマネージャが話に来る…
明確なサービス内容まで話になかったが、介護保険がしっかり利用されている。
社会保障は一歩一歩整ってきてはいるのだ。

やがて介護する夫に疲れが出てくる。
介護ストレスからか胃がんが見つかる。
お互いにお互いを双方で辛そうと思いやる言葉に朗読している二人の声が震え、涙がこぼれる。

やがて治してくれない医療に見切りをつけて代替民間療法やら『末期がんが消えた』という話を漁る。
我が家でもとことんやった。
代替治療のために聖路加から土佐清水のに移る。
お孫さんが尋ねて来るシーンには写真や息子さんが撮られたビデオが使われた。

脳に転移。
ガンマナイフ治療…
自宅での生活をいよいよあきらめて、聖路加へUターン。
最後の日の家族で囲むごちそうが肉魚なしの野菜ちゃんこ。
生きたい治りたい思いが『肉魚なし』に込められている。

最後の最後の眠ってしまう、もう意志が表わせなくしてしまう状態へと移行させる決定は
患者本人の意志が明確な時にされた。
本人が「痛いからもういい」と懇願してなされた。

亡夫の場合、医師から聞かれた私がした。
夫は前夜混迷状態で、癌の痛みが取ってあるので、動かない足を忘れて上半身で暴れた。
自分の置かれている状況が判断できなくなっていていたのだ。
肝臓を冒されて…脳まで…あまりにむごい一夜だった。
翌朝、薬で眠っている夫からもう覚醒する薬を中止することを医師に促された。
半身で起きて立とうと暴れる事を奪う決定を私がした。本人はどう思っていたのか?
その時間もわずか数日のことではあったろうけれど、いつまでもちくんと胸を刺す。

緩和ケアにおいても医療という人為的なものが作用しなければいけない。
進化してしまった人間の哀しみを感じる。

最後まで聞こえると言う耳に

   明るいほうに進んでゆきなさい!
   輝く光の方に行くんだよ

半年後に看病していた夫も癌で亡くなったところで話は終わった。
妻の介護や病状進行についてが主で、この夫の病について詳しい話は割愛されていた。
夫婦で骨を混ぜてりんごの木の元へ撒いてもらうとか。
いい話だった。いい夫婦の話は沁みる。

9年も長らえている私。
あの時一緒に死んだ気がしたが、現実はままならない。
子たちも巣立ち、とうとう正真正銘ひとり。4人で暮らして居た家はスースーする。
夫が治りたい一心で始めた玄米食を、今度は私の健康維持のために復活した。
たった玄米1合でも多い。

昨日の新聞やネットで確認すると
放送は9日の再放送。
NHKの元ディレクター小沢爽さん千緒さんの死後、
近しい人に配られた自費出版から掘り起こされた番組だそう。
朗読や家族写真、ビデオ、残された病棟日記を映すなどの構成が、
真実がより真実味を帯びて感じられたように思う。



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