細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

間違うこと

2014-02-22 21:35:48 | 研究のこと

サイモン・シンの「宇宙創成」を読了しました。もともとは2013年7月に岡村甫先生に紹介されて購入し、パリに持ってきてはいたのですが読んでおらず、2月6日に高知工科大学に岡村甫先生のインタビューで訪れた夜に、石田先生から強く薦められ、先ほど読み終わりました。

非常に面白く、大変に勉強になりました。感じたことは多々ありますが、その中で研究者としての自らと関連することについて以下、感じていることを正直に書いておきます。

研究を行っていく上で、また生きていく上で、「間違える」ということは当たり前のことだし、恐れるべきことではないと思います。ですが、人間は一般的には「間違える」ことを避けたがる傾向にあると思います。

あくまで相対的な話ですが、私自身は「間違えない」ように心がける性向が強いタイプの人間だと思っています。それは、教師という仕事をしていることにもよると思っていますし、大学受験までの小中高の勉強、特に高校の初期段階まで極めて優秀な成績を収めてしまったことにも理由があると思っています(基本的には、暗記する能力が相対的に高かったことと、暗記をする努力を厭わなかった、ということだと理解しています。高校の初期段階が終わった後は、成績が徐々に下降し、大学の教養課程では見事に勉強せず、凡庸化いたしました。)。

研究を進めていく上では、間違いを恐れていては前進できません。それは、「宇宙創成」にもさんざん描かれているし、この本の登場人物ではないですが、本の中でコメントが紹介されている有名な物理学者のファインマンも、新しい法則を探すときの第一ステップとして、「当てずっぽうで考えてみる」ことを挙げ、これが最も大切だ、と述べています。もちろんその後に検証するわけですが、当てずっぽうの論理が間違えないわけがありません。

私自身は、間違えないようにと心がけてしまう傾向が強いことを自覚している人間ですので、おそらく本質的には研究者向きでないのだと思います。 科学者に向いていないという方が適切かもしれません。実際全く向いていません。数学的な才能もゼロに等しいです。

ですが、間違えないようにするという才能も必要であり、チームで研究を進めるときにはアイディアを生み出す人と、それを検証する人とで役割分担をする必要もあり、その中では私の能力は役に立ちます。特に、学生と研究を行うときは、大抵の学生は間違いばかり起こしますから、それを正しい方向に持っていくのは教師の一つの役割です。学生と大学教員の関係、役割分担はいろんなバリエーションがあると思いますが、私のような相対的にはレベルの低い研究者であっても、学生のインスピレーションや努力と、私のビジョンや方向修正能力等がうまく組み合わさって、多少なりとも世の中に貢献できる知見が生み出された経験は何度かあります。

また、世の中は科学だけではありません。私は科学の分野では使い物になりませんが、社会の課題を解決していく分野ではそれなりの役割を果たせると思っています。

例えば、最近力を入れて取り組んでいる、復興道路のコンクリート構造物の品質確保や、その取組みを全国に展開していくプロジェクト、学校での防災教育を軸に据えた地域防災力の向上、などは、上記の「間違えない」という私の特性をフルに活用しようとしていると感じています。

数学では説明できないけれど、進むべき方向性は私にとっては明確であり、私のそれを「哲学」と呼ぶ仲間もいます。

哲学(フィロソフィー)とは、正しいものでないといけないと思っています。おかしな方向に進んでいくと、社会もおかしくなってしまう。

私の、「間違えない」ように心がける習性は、独りよがりになろうとせず、多くの有用な知識を信頼できる方々から貪欲に吸収して見聞を高め、仲間たちと真摯に議論を重ね、自分の関与するプロジェクト等において明確なビジョンを示すことにつながっていると思っています。 

しかし、大きな方向では間違えないように配慮していても、具体的に課題を解決して状況を改善していくためには、多くの試行錯誤が必要であり、そこでは私も間違えることを恐れはしません。失敗を失敗とも思わないし、失敗からこそ勉強でき、新しい発見があることを何度も経験しています。

私自身は、社会の課題を解決していくこと、またその過程で自分も含めた人財を育成していくこと、が私自身の役割であると考えており、そこでは「間違えないように心がける」という科学者にとっては資格喪失にすらなりそうな、卑怯にも見えるし、臆病にも見える私の特性も、役に立っているように思うのです。

科学者だけが人間なのではないし、人それぞれが自分の本分に気付いて、大いに力を発揮できるようにありたいものです。そのような社会にしていくことにも、私は貢献したいです。 


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