細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

修論、維持管理のテーマ

2021-02-18 13:09:01 | 研究のこと

今年度の修士論文の審査会が2/16に終了しました。

今年度は、私が主査を務める学生は1名のみで、これまでで最も少ないかと思います。しかも、中国からの留学生の楊君で、日本人はゼロ、でした。まあ、こういう年もあろうかと思います。

この学生の研究テーマは、「横浜市の配水池施設群の性能評価方法と維持管理システムの提案」というものでした。

2019年度から2年間、横浜市と共同研究を実施し、その中で、配水池という特殊な供用環境で供用されるインフラの維持管理システムについて真剣に考え、現実の維持管理に活用される性能評価方法やシステムの提案を行いました。考案した外観目視による点検方法により、今年度に調査した実際の配水池の点検を行い、定量的なデータを取得しました。

この共同研究がスタートする前や、スタートした直後は、私もそれほどやる気はなかったのですが(失礼)、やはり現実の構造物群の維持管理を行う、ということで、多くの配水池の現実の様々な劣化状況を自分の目で見て、配水池に期待される機能(function、役割)が発揮されるように、配水池のコンクリート構造物の性能(performance)をどのように点検し、性能を評価し、適切なタイミングでどのような補修、補強を実施するか、という維持管理システムを真剣に考えました。

鉄筋が腐食したり、コンクリートが剥落したり、というコンクリート構造物によく生じる劣化であっても、街中にある鉄道高架橋と、普段は人が立ち入らない地下にある大空間の配水池では、対応の仕方が異なってきます。また、ほぼ常に水に浸かっている部分と、そうでない気中であっても高湿度にさらされている部分がほとんどである配水池では、その環境の特殊性もよくよく頭に入れて、検討する必要がありました。教科書に書かれているために、当たり前のように中性化の調査がなされていましたが、配水池の躯体(特に水をためる内部)については、中性化の調査は今後は不要、と思います。

担当の学生の楊君もよく頑張って実構造物の調査を行い、データを取得し、分析したと思いますが、私自身が大変に勉強させてもらいました。

いわゆる維持管理の「哲学」は私も持っているつもりですが、現実の実務の中で具現化する過程で、非常に多くのことを学びます。

例えば、構造物を点検し、その結果に基づいて構造物の性能を評価し、今後の構造物の劣化を予測し、維持管理限界と比較して、補修や補強などの対策の実施の必要性を検討する、などと、教科書やら示方書には書いてありますが、現実の実務の中で具体的にどのように行うか、となると一筋縄ではいきません。

結果としては、劣化の予測などできないし、そもそもする必要がない、というのが私の出した結論でした。今後の劣化の予測をしなくても、適切な維持管理はできると思ったし、本質はそこにはない、というのが私の考えです。今後、短期間で要求性能を満足できなくなるような劣化が頻発する場合は、将来の劣化予測がそれなりに重要になると思いますが、横浜市の配水池群の劣化は私の目にはそれほど深刻には見えず、劣化予測をしたがる管理者の気持ちは分からないでもないですが、意義が小さい、とコンサルティングしました。

また、かなり劣化したものも、全く健全で今後もしばらくの間は劣化しそうにないものを同じように点検しているのもおかしいと思ったし、また補修した後の再劣化が生じているものも少なくありませんでした。また、今後も更新の工事(実質的に新設)は少しずつ重ねられていくのだから、劣化しにくい初期品質のしっかりした構造物を構築することが大事だと思います。粘り強いフィードバックになりますが、これができるできない、が将来のインフラのあり方を大きく左右すると思います。これらを良い方向に改善していくための提案もしました。外観目視による点検は実装されましたが、その他の提案もシステムに実装されるよう、今後も研究、コミュニケーションを続けたいと思います。

担当学生との議論や、横浜市の水道局の担当の技術者たちとも議論を重ね、私自身の考えも少しずつ構築され、ブラッシュアップされていきました。当初、私の言ったことが、修正されたことも数多く、これこそ研究であると感じました。

コンクリート構造物の劣化は、それぞれの事例にそれぞれの理由がある、個別性についてはこれまでも認識していましたが、維持管理システムについても、対象構造物ごとに、また事業者ごとに適切なあり方が異なるということを、今回の研究で具体的に体感することができました。これは、とても大きな経験と思います。

来年度も新しい研究テーマが立ち上がり、すでに準備を始めていますが、やはり一つ一つの積重ねが総合力につながっていくことを意識して、地道に続けていきたいと思います。