粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

福島でがんが増えるという逆説

2014-10-13 16:09:53 | 福島への思い

東京大学准教授中川恵一氏への取材記事を読んで考えさせられた。低線量被ばくの誤解と真実第1部第2部第3部)中川准教授はまず、「福島の原発事故では被曝によるがんの増加はまず考えられない」と公言していた。

発がんリスクは放射線の量に比例して発生する確率が高くなると考えられ、年100mSv(ミリシーベルト)の被ばくで、がんの発生がわずかに増加することが観察されています。被ばくをしなかった人と比べて、生涯被ばくが100~200mSv増加した場合に、発がんのリスクは1.08倍になるという観察結果です。この率は喫煙など他のがんの増加をもたらす要因よりも、はるかに低いものです。

福島事故の場合には、年100mSvの水準まで被ばくした人は見つかっていません。作業員で最大82mSvであり、福島県民の被ばく量では99%が10mSv以下です。その水準の被ばくで、がんは増えないと専門家の意見は一致しています。(第1部)

したがって、福島でのがんの増加は全く心配しなくてよいかというとそれは断言できない。むしろ被曝とは関係ない別の要素、すなわち避難生活で生じるストレスによる個人の健康への影響だ。

避難をした人たちにストレスがたまり、飲酒、運動不足が起こり、その結果、糖尿病と高血圧が増加していました。飯館村では、事故前は高齢者でも農作業をする人が多かったのに、避難所生活ではそれもできません。

さらに従来の社会生活が失われることによるストレスも見逃せない。

また地域社会の崩壊もストレスを増やしていました。希望者は、福島県などの町に住宅を借りて住むようになりました。人それぞれですが、そうした所では、友人などとの交流がなくなり、仮設避難所よりもストレスを抱く人もいました。飯館村の多くの家は広く、また地域のつながりがありました。それがなくなったことが影響していました。

この避難生活が長期化すれば健康に深刻な影響を及ぼす。

福島では放射線被ばくではがんは増えると、私は思っていません。しかし生活習慣の悪化でなる糖尿病などは、がんを引き起こします。長期的に見れば福島でがんが増える可能性が高まっていると考えています。(以上第3部)

日頃、被曝による福島での影響を否定し続けた結果、事故当時は「御用学者」といわれなき中傷を受けてきた中川准教授が「長期的に見れば福島でがんが増える可能性が高まる」と警告しているのだ。なんとも皮肉な話だが、これは深刻に考えなくてはいけないと思う。あれほど福島と比べて被害が甚大だったチェルノブイリ事故でも被曝による死者よりもストレスによる健康被害の方が遥かに大きかったといわれる。

実際のところ、福島の事故当時あれほど被曝の危険性を散々煽っていた反原発の学者やジャーナリスト、メディアが今は「危険を忘れたカナリア」のように大人しくしている。あの毒々しいデマはどこへ行ったのだろうか。しかし、もしかして遠い将来に中川准教授が指摘するようなストレスの影響でがんの増加が現実のものになってきた時、彼らは「それ見たことか」とストレス原因説を棚に挙げて「被曝による影響」を再度言いだしかねない。

そんな事態にならないためにも、「避難生活の長期化」はなんとしても避けなければならない。それは現実的な強制避難に留まらない。放射能の危険を煽った人々に影響を受けていまだ自主的な避難をしている人々や避難をせずとも過剰に被曝を意識して食生活などで過敏になっている人々、いわば「心の避難者」についてもいえる。