旅する小林亜星

小林亜星情報満載

鑑定

2010-12-07 22:57:33 | 流れ星
ひとあし先に人妻になった、珠玉のたまにの
珠玉な結婚式でのこと。

久々に知らないひとばかりの中に放り込まれ
ちょっと知ってるひともいたのに

「ゴブサタデスー」と言って輪に入っていく気力やスキルをすっかり無くしてたせいで

立食なパーティの間
ほぼトイレにこもってた。

どうしてこうしてつまらない女になった。

パーティが1時間ほど過ぎたころ
それでも時間を持て余してひとりでぽつねんと座っていたところ

あまりに物欲しそに見えたのか、
2人組の男のひとが話しかけてくれた。

ちょっとほっとして
3日ぶりに食べ物をもらった犬のよに尻尾を振ってみる。

彼らはたまにの書道サークルのひとたちと名乗り
2人組のひとりが小話的に筆跡鑑定を勉強してるとのこと。

ひとが名前を3回書けば
その筆跡から、ある程度の性格は読み取れるらしい。

「これ、合コンのネタには最高ですね」と言うと

鑑定男は左手の薬指を見せて苦笑。

鑑定男の連れの男が名前を書いたあと

あたしもその鑑定をしてほしくて
というか、その鑑定男に名前を知ってほしくて

名前を書いて、それを鑑定してもらった。

鑑定男は、んーと言いながら

「最初は適当に始めるけど、最後だけはちゃんと貫きたいひとでしょ」

「自分の空間にあまりひとに立ち入ってほしくないひとでしょ」

「10個物事があったら、ひとつだけ自分らしいこだわりがほしいひとでしょ」

と言った。

最後のひとつしか首肯できなかった。

こんなときかわいい女というのはどれも当たってるふりをするのだろうかと
鑑定男に肯定してほしいという思いが頭を過ぎる。

あたしがもうすぐ結婚することや
鑑定男の結婚式の話や他愛のないことをグダグダ話してるうちに

あっという間にパーティは終わってた。

飲み物ラストオーダーの連絡が来たけれど
お尻が重くなってたあたしはもう飲まなくていいやと座っていたら

鑑定男が「何か飲みますか」と訊いてくれた。

すべての所作が完璧な鑑定男。

彼はかわいそうな女に慈善事業を施し、深入りせずに佇んだだけなのだろう。
深入りしたい。

帰るときに
クロークからコートを受け取る列でまたいっしょになったので

ひとことだけ伝えたかった、

「いろいろとお気遣いいただきましてありがとうございました」と言った。

どこまでも如才ない身のこなし。

これ以上いっしょにいたら
連絡先を聞きそうになってしまうので

エレベーターを降りたところでさよならする。

小さい恋の終わりだった。

数年前には持ち合わせていたはずの
知らないだれかと話すスキルを、知らないだれかを知ろうとする好奇心を

どこに置いてきちゃったんだろう。
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力走

2010-12-06 23:39:32 | 流れ星
青い眼をした、かわいいかわいい婚約者が札幌でJLPTを受けている間
4年ぶりに、地球彫刻的モエレ沼公園に行ってみる。

思い出の中の薄暗い曇り空のモエレ沼公園と寸分違わず
やはりどんよりとぬる寒かった。

イサム・ノグチ風にまた吹いてもらえるかと淡い期待をしていたけれど
準備している頬には何も吹かなかった。

JLPTの試験時間が終わるまでに残された滞在時間は
2時間。

弾丸散歩。

腕立て伏せをしてた自転車置き場の連中は撤去されていた。
そのひとに教えてあげたい。

ひとつひとつのオブジェを眺めて
4年前のそのひととの会話を思い出して追憶に溺れるのは面倒くさくなったので

手っ取り早くレストランに入った。

入った瞬間に、ランチの値段と同じくらい入るのを躊躇させるように
ギャルソンがやってきて

「フランス料理のコースですがよろしいですか」と訊かれた。

居心地が悪い。
ジーパンと虹色パーカー。

しばらく待たされてから通された席は
大きく開いた窓側の一等のような席で余計居心地が悪い。

ランチを注文して
目の前にある黒い森と薄暗い空を眺めながら

ひとつひとつがいろんな味を発しておもしろい料理を
青い眼をした、かわいいかわいい婚約者と来れたらよかったなと思いながら

パクパクと口に運んでいるとさきほどの無愛想なギャルソンが

「ご旅行ですか、
 今日はあいにく天気があまりよくなくて」と愛想よく話しかけてきた。

4年前の記憶を思い出して

「この時期の北海道はいつもこんな天気だと思ってたので
 もともとあまり期待してませんでした」

というと

「そんなこともないんですけどね」とギャルソンは去っていった。

フランス料理に縁もゆかりもないあたしには
器だったり、奇妙で実用的ではないように見える形の、
つい写真を撮りたくなるような愉快なフォークやナイフを見つめながら

刻々と同じ表情をしてる曇り空に目をやりながら

4年前のそのひととの思い出の場所に結婚するちょっと前に来てしまうなんて

ブルーにならなくて少々心配していたけれど
これぞマリッジブルーらしいマリッジブルーだなと思った。

さきほどのギャルソンは料理を運んでくるたびに
何かしら話をふってくるよになった。

北海道出身という彼はどんな人生を送っているのだろうと想像する。
休みの日には何をしてるのだろう。

結婚前のラストスパートのように
小さい恋をする。

この雄大で閉鎖的なモエレ沼公園の四季の移り変わりを眺めながら
こうやっていろんな思いを抱えた、いろんな旅人の、いろんな思惑の傍らに

ギャルソンは深入りせずに佇むだけなのだろう。
深入りしたい。

お会計のときに、
お愛想程度に「また来てみてくださいね」と送り出してくれたので

「いつぐらいがおすすめですか」と訊くと

「暑いのはあまり好きでないですか」と訊かれたので

「寒いよりは」と言うと

「では夏がおすすめです
 夏はすぐに予約でいっぱいになってしまいますので、お早目にご予約を」とギャルソン。

小さい恋の終わりだった。

試験を時間余裕でクリアした青い眼をした、かわいいかわいい婚約者が
待ち合わせしたサブウェイの前で

きょろきょろしながら
あたしを待っているのを見つけてほっとした。

青い眼をした、かわいいかわいい婚約者のことを想像するだけで
顔がにやけて、温かいものが身体の中を通過する。

目の前にいる大好きで大好きなひとと結婚するんだと実感のない実感をする。
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22

2008-06-02 08:35:58 | 流れ星
冷美男から

「そーだ、何かはなむけに欲しいものありますか?」とメール。

どん引きされてメールがもう来なくなることも視野に入れつつ
ちょっと賭けに出て

「はなむけは・・・なんでもいいなら
 冷美男さんがほしいです」と返信してみた。

冷美男がくれた返事はなんと

「おいっ 犬っころじゃないんですけどー
 どーゆーテンションで言ってんだ??
 そんな安っちいもんがいいなら、いくらでもー」

これはもう日本での最後の甘い思い出を作るべく
いっきに切り込むことにした。

釧路からの飛行機が羽田に到着すると
空港まで冷美男が車で迎えに来てくれていた。

神保町の「鴻」でスープカレーを食べ
車を流してドライブする。

あまりの幸せに眩暈がしたまま。
行き場を失ってドライブが続く。

2回目のデートで

コミュニケーションはここ1週間のたくさんのメールだけで十分ではなく
待ってはくれない一夜の流れに焦りつつもセックスを仄めかすのは難しい。

いっそ無理して身体を重ねなくたっていいじゃないかという思いと
朝までいっしょにいたいという思いがぶつかって

激動のここ1週間の無謀スケジュールで頭が朦朧としてる中

「今日はどこまで冷美男さんにいたずらしていいの?」と切り出してみる。

直接的表現を避けたせいでまどろっこしいことになり
錦糸町のラブホテルにたどりつくまで3時間ほどかかってしまった。

ぎこちなく交代でシャワーを浴びたあと
ぎこちなくベッドに潜り込んだ。

冷美男はあまりにもかわいい顔をしていて
あまりの愛おしさに胸が張り裂けそうだった。

もっちりな下唇にむしゃぶりつく。
肌を重ねる。
肌を味わう。

骨に沿う。
思いっきり身体を巻きつける。

今まで見てくれのいい男には興味を持たなかったけれど
見てくれがいいということはそれだけでひとの気持ちをぐんぐん吸い寄せるのだと。

朝まで身体をくっつけたまま、微睡んだ。

ホテルを出るとき最後にひとつハグをした。
はらっと涙が落ちた。

冷美男からメールがきた。

「たった2回だけだったけどいい出会いだったと思います。
 泣きそうです
 アキ男。さんのキスはドキドキして良かったです。
 いい思い出にします。」

あたしは恋愛初期の一番楽しい時間の上澄みだけをすくって
ごくごくと飲み干した。

ただただ幸せの味がした。
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阿寒

2008-02-20 00:11:29 | 流れ星
件の細靴イケメンと最後に仕事で絡んだのは去年の12月。

夜間作業の前にしなくてもいい用件を無理やり作り
電話してみた細靴イケメンの仕事携帯。

電話の最後に余談にと
細靴イケメンの時計はどこのですか、と苦し紛れに質問。

向こう側で笑い声がしてから「ランカスターです」という甘い声。
白い歯ニュっとスマイルが心に浮かぶ。

そのあと夜中にトラブルに見舞われて
細靴イケメンに朝まで対応してもらったのだけれど
結局こちら側の些細なミスだったことが判明して

なんだか恐縮のまま年が明けた。

それからしばらくして
細靴イケメンの上司が新しいシステムの説明にやってきたのは今日だった。

「今後も3名態勢でフォローしてきます。
 実は前担当だったHは退職したんですけどね。」と細靴上司。

「はぁ、そうでしたか」とだけやっと反応して
あとは上の空。

隠す動揺。

転職してまた違う外資系にでもステップアップしたのだろうかと思って

説明が終わったあとに
「ところでHさん、どこ行っちゃったんですか?」と聞いてみると

「実家に戻って家業を継ぐとか。
 なんでも手広くやってるらしくてね、まず焼肉屋をやるみたいですよ。
 彼の実家は北海道の阿寒湖というところでね、マイナス20度だって」
とあたしが聞きたいことを察したのか、全部答えてくれた細靴上司。

ほとほと細靴イケメンとは縁がなかったのだなと思いつつ、
阿寒湖の場所を調べてしまうお痛さん、あたし。

実は阿寒湖が釧路市にあって

人生あまりにも蛇行中のあたしが
いつか行きたいと思ってる釧路湿原から50キロほどしか離れてないことに気づいた。

縁がないこともないかもしれない。

「阿寒湖」の近くで「手広く」やってる「焼肉屋」+細靴イケメンの苗字で
なんとかたどり着けてしまいそな情報を偶然手に入れてしまった。

よし、もう少し縁があったらストーカーになろう。
釧路まで。

阿寒?いや、悪寒?
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零九

2008-01-21 23:34:55 | 流れ星
そうと決まれば
フットワークの軽さには定評があるわけで

とんとん拍子に
パスポートの更新というか、発行申請してきた。

有効期限は2009年6月17日だった。

2005年3月、前の前の前のカレシと行った香港は
激安な重慶大廈の一室で

お互いのパスポートを見せっこしたら

どちらのも有効期限が2009年だったので
そのときまでには結婚しようねと甘い約束をした気がする。

遠い記憶。

そういえば9年前にパスポートを申請したときも
今回の申請も

ニュージーランドにいるあのひとに会うためだったな。
褪せない記憶。
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才能

2008-01-03 22:39:35 | 流れ星
「その才能に惚れてるから手を出さない」とのこと。

たしかに好奇心から
コミュニケーションという名のもとに
1回だけのお手合わせを願うのはあたしの浅墓だけれど

それならば「才能」などという体のいい断り文句など並べずに
ただ面倒だから友達でいようと言われたほうが納得できた気がして。

ま、それ以前に面倒なのは承知で
自分の意思で始めたことだからとやかく言う資格はないのだけれど。

きっととても気を遣ってもらったものの
そんなふうに拗ねてもみるのは

あたしの器がやはり小さいからで。
そしてその小さい小さい器に入ってる自信がこれまた少量だから為せる業で。

それでも想像力を駆使すれば
面倒になることは簡単に予想できて

現状維持のほうがきっとずっとお徳なのだけれど

それでも面倒を起こしてみたい好奇心も捨てられない強欲さが致命的なわけで云々。
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雲隠

2007-12-24 23:28:41 | 流れ星
叔母が急逝。
75歳。
さっきまで元気だったのに脳溢血でそのまま。

彼女が身罷ったとき
あたしと母はまだ始発の電車に乗っていて
西の空にそれはそれは大きな月が見えた。

霊安室に横たわった叔母のそばで糖尿病の叔父が、

「彼女のために一日でも長く生きようと思った。
 でももうどうでもよくなってしまった。
 そばにいきたいよ。」と。

18歳から寄り添って60年近く、
色褪せない愛ってあったんだな。
こんなところに。

美容師だった叔母はいつもきれいにしていたけれど
もう動かない叔母は素っぴんで、別人だった。

そして美しい肌をしてた。

彼女は努力して美しくしてたのだと知った。
死に化粧されて、いつもの叔母になった。

どうか安らかに、安らかに。
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正答

2007-11-20 00:47:29 | 流れ星
そのころ、「働くということ」を読んでたひとに、

「そういえば、近々軽くごはんでもどうですか?」とメールを送ったら

「結婚しますと女性とお食事……ということも難しくなります。」と返事がきた。

「3Pだったらどうでしょ?」という愚かな提案をしてから
もう一度口直しのメールを送った。

「アキ男。です、再びこんにちは。

 あー、昨日のメールは不正解でした。
 スルーしてくださいませ。

 何度北風を吹かせても駄目なものは駄目でしたね。
 そろそろTさんの思考パターンを学習してもいいころでした。

 そうそう、出し惜しみしてた近況ですけど
 3月にとうとう30歳になりました。

 先月カレシにフラれましたけど
 頗る元気です。

 国内ひとり旅と読書と書くことととバドミントンが
 おもしろくておもしろくて幸せです。

 今年は屋久島2回と宮崎と郡上八幡と白川郷と風の盆と小豆島と直島に行きました。
 あと長野に行こうと思ってるところです。

 本は『愛するということ』を読み終えたところで
 今は『夜と霧の隅で』を読んでいて
 次は『トニオ・クレーゲル』を読もうと思ってるところです。

 月に2回お世話になってるカイロプラクターに恋をしていて
 でもうまく口説けません。

 ・・・そして明後日は外務省と合コンです。

 またほとぼり冷めたころに☆」
 
我ながら。
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向日

2007-10-31 23:14:07 | 流れ星
昼休みに自転車で図書館、の帰り道。

大通りの向こう側に
3年前に酷い別れ方をした、前の前の前の前のカレシ発見!

なぜ、こんな時間にこんなところに?と思いつつ
確かこの辺りに住んでると誰かが言ってたし、と思いつつ

何を思ったのか
あたしは徐に携帯を取り出して
消せずにいた彼の番号をダイアルしていた。

「こちらはソフトバンクです。
 おかけになった電話番号は・・・」

と彼の代わりに女の声が答えた。

あたしと彼は大通りを挟んでいるけれど
大通りの信号と信号の間ですぐには近づけない。

昼休みが終わるまであと、5分。

何を思ったのか
あたしは徐に自転車をこいで信号に向かっていた。

彼はタクシーに乗ろうとしてるのかもしれない。
しきりにキョロキョロしてる。

信号まで全速力。
赤が青に変わる。

大通りを渡って
彼のところまで自転車ダッシュ。

見覚えのある髪型と柄シャツの背中。
懐かしささえ。

同棲中のはずの今の彼女はあたしも知ってるひとだから
周りに彼女がいないかどうか入念に確認。

自転車のスピードを落として
ゆっくり彼の横を通ろうとした瞬間、

・・・他人の空似がそこにいた。

あたしは一体、
徒に彼に声をかけてどうするつもりだったのだろう。

どうするつもりだったのだろう。

オフィスに戻ると
昼休みが終わってから3分経っていた。

そんな、午。
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27

2007-10-06 00:46:32 | 流れ星
朝起きて
やはりもう一度古田に会っておきたいと
ふと、思った。

あちこちに手を回して
今期4回目の神宮、特別招待券をゲット。

ほとんど喋ったことない社内の営業さん37歳が今日の相方。
横浜ファン。

あたしが神宮に赴くと絶対負けないヤクルト。
ここ7年間で5戦5勝だったのに
今日はじめて黒星。

ジンクスは崩れた。

これで次からカレシと来てもフられないだろうか。

4回目にしてやっと見れた「代打、オレ」と
しゃがむ背中に27番。

古田がいなくなっても
視界が開けた神宮の歓声が好き。

横浜ファンだけど
いっしょに野球見る相手もできたし。

背番号27番に今度こそサヨナラを。
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