昨夜

青い眼をした、かわいいかわいいカレシ宅の愛猫が
昨年亡くなった以降

飼われているのがMischiefという
無愛想な猫。

家族にしか心を開いてないとかいうのではなく
誰に対しても同じ距離のかわいくない猫。

近寄れば逃げるし
それでも触ろうとすると牙を剥く。

そんな彼が唯一フレンドリーなのが
ごはんがほしいとき。

都合のいいときだけ
猫らしく鳴いてみたりもする。

一度カレシママの代わりにごはんをあげてからというもの

彼に何かを強請られるのがうれしかったので
ごはんを焦らしてみたりする技も身につけた。

少しは心を許してくれたのかと思いや

それでも道端で出くわしたりすると
ちゃっかりと逃げ出されるわけで。

と、そんな日が続いたある夜。

ソファに座ってテレビを見てると

あたしの隣の彼の特等席に
彼が我が物顔のよに居座った。

こちらに背を向けてるので
背中を撫でてみると珍しく逃げない。

調子に乗って毛を逆立ててみても
気持ちよさそうにしてる。

15分くらい愛撫して、あたしがその距離に飽きたころ
あっちも飽きたのか、

「うざいんだよ」みたいなニャーで逃げてった。

次の日、家の階段で出くわした。

あたしがちょっと心の距離が縮まったかのよに
挨拶すると

彼は猫のくせに気まずい顔をした。

「昨日はちょっといろいろあって
　あそこまで許したけど、別に仲良くするつもりなんかないから、誤解するなよ」

というニャーで

まるで昨夜行きずりでセックスしたけど
付き合ったりとかいうのは考えてないから

ベタベタしてこないで的なアイコンタクトだった。

つられてあたしも、
ちょっと気まずくなった。

星占

どんな人参をぶらさげてるのかわからない件の自称27歳のサモア人L。
色黒なジョン・トラボルタ風。

恐いものみたさで携帯番号を交換してから
毎日分刻みで内容のないメールのやりとりをして

サモア人は「P」と「B」の発音を逆にしてることに気づいた。

メールでは彼はたとえば

bit→pit
company→combany

こんなふに打ってくる。
一度このパターンを頭に叩き込めばなんとか理解できる。

あたしが彼の「boyfriend」を「pussy」と聞き間違えたのも
これで納得がいく。

「かわいいおしりちゃん、おいしそ」とあたしを呼ぶ彼は

あたしが20年近くコンプレックスを抱いてる、
あたしのお尻が好きらしい。

もちろん服の上からだけど。

ただ無駄にでかいだけなのに
なぜあたしのお尻はこうも評価されるのだろう。

これは

「おっぱい、大きすぎて困っちゃう」という女性とは

格段の違いがある。

このお尻のせいで
パンツスーツの似合わなさと言ったら関東一かもしれない。

だいぶ話が逸れたけれど
メス犬を見れば入れたがる程度の男かと思っていたら

「妻と離婚したのは彼女が浮気してたから
　オレはしてないよ、嘘だと思ってる？
　信用できないなら、元妻に直接聞いてもいいよ」と言ってみたり

わりと子煩悩だったり

「アキ男。はオレと同じおひつじ座だね」と言ってみたり

家に帰るために隣町でバスを待っていたところ

「今、何してるの？」とメールが来たので

「１時間、バス待ち中」と返信したら

「もっと早く教えてくれればよかったのに」と言うので

送ってくれるのかと思いきや

「オレ、その隣町に住んでるから
　いっしょに１時間バス待ってあげられたのに」と言ってみたりと

なかなかのギャッパーなわけで。

人生初のサモア人との始まったばかりの友情は
この田舎町ではもってこいのエンターテイメントなわけで。

青い眼をした、かわいいかわいいカレシを裏切ってまで
セックスしたいとは毛頭思ってないわけで。

薩摩

亜。

そのエキゾチックな瞳は
サモア産だと判明。

どうりでアイランダーやマオリ系が多いらしい
治安の悪めな地域に住んでると思った。

一度あの瞳に吸い込まれてしまったら
どこ産かなんて関係ないけれど。

伝心

最後の最後にもう一度だけ会った牛にひかれて氏と
最後にハグしたいと思ってた。

それは男女のそれではなく
同士のそれとして。

と思っていたら
牛にひかれて氏があたしの首にがしっと腕を回して
ぐしゃぐしゃてくれた。

まるで同士だった。
つーかー。

冷美

同じフロアの向こう側にいる、クールビューティ男。

ほとんど話したことがないのだけれど
氷頭な送別会の幹事さんに「誰呼びたい？」と聞かれたので

仕事ではほとんど絡みがなかったクールビューティ男を、と言ったものの
クールビューティ男はシフト勤務で来れないとのことだった。

送別会の１週間後
クールビューティ男はなにを思ったのか、

「この前は、すみませんでした・・・。
　辞めちゃうんですか・・？」というメールをくれた。

あたしの顔も名前も一致されてないだろうと思っていたので
狩人本能でちょっかいを出す気にもなれなかったけれど

そんなメールをいただいた日には最後
だめもとで飲みにいこうとメールを送ってみた。

来ないと思ってた返事は簡単にやってきて

「もちろん、行きます。
　おいしいモノ食べたいっすねー。」

とクールビューティ男らしからぬノリ。

あたしはクールビューティ男にからかわれてるのかとか、
ほかの誰かが彼に成りすまして、あたしをだましてるのかとか、

実は当日に「残念でしたー、本気にすんなよ、バーカ」というメールとともに
ドタキャンされるのかとか、さえも想定してた。

彼がずっと行きたかったという丸の内トキアの「きじ」というお店の前に
まさか本物の彼が先に並んでいたのを見つけたときは

夢心地とはこういうものだと実感した。

汗をかく白い美しい顔にへばりついたもみ上げ。
ちょっとだけ覗く白い歯とその横にある黒子。

笑うと細くなる目。
ちょっと天パーな髪の毛の先。

まぶしくてまぶしくて直視できないのに
どうしても目を、心を、奪われてしまって

見とれるのと、目をそらすので忙しい瞬間だった。

見とれるのと、目をそらすのですでに忙しいのに
彼はさらにおもしろいひとだった。

なんだか付き合いたいとか、そういう次元をとうに飛び越えて
見つめてるだけで幸せだった。

彼の、手の届く、そこにある存在だけで。

隣に座ったカウンターで
椅子に座りなおす瞬間にバランスを崩して肩に触れた。

お店を出てからまだ離れたくなくて
お茶に誘いがてら少し夜道を歩いた。

恋してみる。
横顔も好きだ。

言葉の端々で
あたしへの関心を秤にかける。

好意なのか
慈善事業なのか。

居酒屋の個室に入る。
笑う。

触りたい。
ちょっとだけ触らしてと言う準備をする。

でも言えない。

終電が近くなって東京駅の改札でバイバイする。
恥ずかしくなる。

メールをする。
やっぱり引き返す。

そして恋し。

「あれ以上長時間いっしょにいたら
　いたずらしたくなってたのでちょうどよかったです」とお礼メールをしたところ

「いたずらされそうだったのか、あぶない。でも悪くないかも。」と魚雷メール。

３秒でノックアウト。
カンカンカン。

南西

昨日までの関係。

同じ中学だったけれど
一度も同じクラスにはならなかった、ただの同窓生。

あたしの友達がとてもとても好きで告白してた相手。

かつて同じマンションに住んでて
彼の一家が住んでた部屋に、今あたしたち一家が住んでるという不思議な縁。

マイミク。

どこまで行っても平行線。

今日からの関係。

16年ぶりに会った、はじめましての乾杯。

同じマンションの、同じ号室の、
そして同じ南西のいい部屋に生活してたあなたと、生活してるあたし。

間取りを思わず共有。

平行線から、線がよれて交わる、これからの友達。

干満

ラミレスもグライシンガーも古田もいない神宮なんて
どこに行く価値があるのだろうと思っていたけれど

シーズンが始まって
ヤクルトはヤクルトなりにそれなりにはがんばってるとのことで

会社が購入したシーズンチケットが余ってると聞いたので
神宮に行ってみるのもいいかと思った。

野球だけはひとりで観に行ってもつまらないので
では誰を誘おうかと。

あの開放的な密室で
３時間空気になってもOKなひと？？？

ためしに掴みはKOな御曹司に

「強いて言うなら野球どこファン？」とメールで聞いてみると

「横。巨。なんで？」と返信。

「10日の広島戦チケット余ってるらしいからどうかなと思って。
　あ、でもまだ野球観に行く関係じゃないか。」と匂わせると

「そりゃ、行けるなら行きたいけど、10日雨だよ。
　野球観に行く関係って？」と御曹司。

お、珍しく食いついてきたと思って

「じゃ、15日の横浜戦は？」と思い切って直球勝負に出たら

やはりいつものごとく返信はなかった。
まだ野球を観に行く関係ではないみたいだ。

あたしが会社を辞めると言ったとき
いの一番にメールしてきて

「なんで辞めるの？次決まってるの？飲み会しよう。」と言ってみたりするくせに

ここぞってときに意気地なしなんだな。

潮の干満のよに

こちらが攻めれば逃げるくせに
こちらが逃げると歩み寄ってくる難しいやつ。

ま、気長に待ってやるか。
ちょっとだけ。

嘘日

ジャケ買いヤー黒やぎさんから

１年半の沈黙を破って
エイプリルフールにこんなメール。

「いきなりですが、今日とか飲みにいきません？春ですし。」

「春ですし」とあったので、花見をしたいのかと思いきや
そうでもないらしく

ではただ飲みたいのかと思いきや、
そういえばあたしと同じくらい飲めないんだったわ、黒やぎさん。

神保町でナポリタンを食べて
桜満開の千鳥が淵を流してみる。

黒やぎさんはあたしとの距離を縮めようとも広めようともしない。
ただただそこにいるひと。

その存在は意味もなさそに見えて、
何かありそでもあって。

でも清潔で
頑固で
ストイックな感じ。

よくわからないひと。

来年の春にでも「付き合ってください」と言ってみようと思う。

覆面

10年前に２ヶ月愛したインド人のペニスを
10年ぶりに口に含んだとき、あることに気づいた。

あれ、カリ首がない？

彼はあたしの人生で２回めにセックスしたひとだったので
10年前には気づく余裕もなく。

これが噂の真性包茎というやつかと思った。

でも確かどこかの宗教で割礼という儀式があったけれど
割礼はカリ首の部分を切ってしまうのか？

彼はヒンズー教とキリスト教のあいのこと言ってたから違うのか？

数分間の右往左往ののち、
失礼だとは思いつつ、真性包茎なのかどうか聞こうとして
真性包茎て英語でなんて言うんだろうという疑問にぶち当たった。

そんな単語は受験英語にも出てこないので知るわけもなく
「Is your son full-covered?」と聞いてみた。

包茎を忌むのは日本人だけの文化とは限らないので無知な振りをして
「Normal?」とも付け加えた。

通じた。

彼は全く気にする風もなくuncon～とかいう英単語を教えてくれた。
Normalだと言ってたので気にしてないことがわかりほっとした。

調子にのって
「おしっこのとき皮は剥かないといけないの？」などと
下世話な質問までしてしまった。

それはそれは実に見事な真性包茎だった。
合掌。

値踏

長崎に出張してた、隣のビルの解さんに

「カステラは抹茶味がいいです」とメールしたら
翌週、社内便でカステラが送られてきた。

「神戸に出張に行ったら、神戸牛買ってこい」と言われてたのを思い出したのは

新大阪駅で帰りの新幹線に乗る６分前のことだった。

そういえばもうすぐバレンタインだしと
1050円の神戸生チョコを買おうかとも思ったが要冷蔵だったのでやめ

タカトシのライオンキャラがついてる、
チョコレートでお絵かきできるクッキーを慌てて買うことにした。

今日、電話連絡メモに

「好きです。
　おみやげと同じよに、見かけほど安くはない女です。」

と、サラサラ書き、社内便で解さんに送った。

夕方に解さんからメールが届いた。

「連絡メモに走り書きされたメッセージ、しかと受け止めました。
　680円ぐらいということですね。」

す、鋭い・・・630円。