旅する小林亜星

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陪審

2015-03-25 13:05:40 | 青春生き残りゲーム
父親による幼児虐待公判

容疑1
2014/3/7夜、被害者の頭を殴った(被告人は無罪を主張)

容疑2
2014/3/8朝、被害者の腹部を蹴り、重症を追わせた(被告人はやったことは認めたものの、故意は否定)

容疑3
2014/3/8朝、被害者の頭部を殴り、怪我を負わせた(被告人はやったことは認めたものの、故意は否定)


2/9 公判1日目
証人喚問、被告人元妻、義母、救急救命士、近所のひと


2/10 公判2日目
証人喚問、被告義妹、被害者を診察した小児科医、取調べ担当の警察官
取調べDVD(3時間、被疑者が映像を拒否したため音声のみ)鑑賞

2/11 公判3日目
取調べDVD(各1時間、1時間)ひたすら鑑賞
DVD3本目に自供部分が含まれるも、やっと自白したと思いきや「何も思い出せない、気が付いたら息子が鼻血出してた」の繰り返し
証人喚問、警察官2
弁護側証人喚問、被告母

2/12 公判4日目
容疑1が検察官より取り下げられる、理由は知らされず
検察側最終弁論
弁護側最終弁論

2/13 公判5日目
裁判官用語、有罪の定義説明
陪審員評決、容疑2、3ともに有罪

3/25 判決


5日間の公判で唯一被告人の声を聞いたのは罪状認否のみ。
被告人は「Not guilty」と文字通り蚊の鳴く声で否認。

裁判官は「聞こえないので大きな声で」と何度も注意するも
蚊の鳴く声を繰り返し、弁護人に「コラコラ」と言われる始末。

心ここにあらずという感じで、他人事。



11人の陪審員
陪審員が12人くじ引きで決まったあと、陪審員ルームに案内され
この公判は6日間かかる予定と聞かされた。

陪審員のひとりが「今週土曜日に飛行機予約しちゃったよ」と言ったら解放され、
次のひとりがくじ引きされたものの、事件関係者が知り合いにいる可能性があるとのことで解放、
11人で陪審員をすることに。

陪審員の内訳は男性5人、女性6人
国籍は中東系1人、トンガ人1人、インド人1人、あたし、NZ人5人、香港人1人。

法廷の中は事件が事件だけに深刻な雰囲気なのに
一旦陪審員ルームに戻ってくると笑いが絶えなくて、「許されるなら、これを質問したいよね」とか和気藹々。

公判1日目の午後になるとそろそろ法廷内の力関係とかキャラとか出てきて

裁判官は理路整然としていて、尺時定規じゃない、でも平等なバランス感覚を持っている女性。

検察官はアンリー・デュナンのような優しい顔立ちの男性、冷静で、でも冷酷ではなくて、
でもチャンスがあるときはジャンピングスマッシュ打ちそうな。

被告弁護人は笑いの種。
あたしでももっとましな仕事できそうと思わせるようなインド系のひと。

証人喚問で質問してるときも行き当たりばったりで、論理の微塵もなく、情に訴える作戦も功を奏さず。
証人からは「えっ、今なんて?」とか失笑をしばしば買う。

ネタ1
取り調べを担当した警察官に
「あなた、被告の家族もみな取り調べしたんでしょ。
 だから被告の人となりもわかってるでしょ。
 被告は実の子を虐待しちゃったけれど、本当はいいお父さんですよね。」と質問。

「いや、いいお父さんだったら、虐待しないよ」と失笑警察官。

「でも仕事場に30分歩いて毎日通ってたんだよ、いいお父さんだよ」と諦めない弁護人。

ネタ2
証人喚問した小児科医が被害者の状態を証言すると
「あなたは小児科医であって、肝臓や脾臓の専門家じゃないですよね」と弁護人。

小児科医が肯定すると
「ではあなたは肝臓や脾臓について証言できる立場にないでしょ」と。

被害者は被告の三男。当時18ヶ月。
肝臓、脾臓の損傷はかなりのスピードで交通事故にあったか、高い場所から地面に衝突した衝撃に値するとのこと。

この公判で一番興味深いと思ったのが虐待の動機。

子どもが夜泣きで何日も眠れなかったとか、暴れたとか、言うことを聞かないという動機ならまだ同情もする。
けれど、被告の場合は土曜日の朝に奥さんが被害者がまだ寝てたから、
上の子を連れてマーケットに行ってくるから、あとで合流しようねと言って出かけてしまってむかついたから、というもの。

奥さんがでかけたあと、被告は奥さんの携帯に

「久しぶりに家族ででかけられると思ったのに無駄にされた」

「帰ってきたときに、まだ三男が生きていますようにってお祈りしたほうがいいよ」

「こいつの首をへし折ってやりたい」というメールを数分のうちに送っている。

奥さんは肝心なときに携帯の残高がなく、返信できなかった。
そして事件は起こってしまった。

子どもどうこうよりも、奥さんの関心がほしかった。
愛されたい、愛がほしい、どんな自分でも、自分が何をしても絶対的に愛してほしいという声が聞こえる。


弁護人側唯一の証人、被告人母。
実母が被告人が2歳のときに病死し、実夫に虐待され、
そのあとたらい回しにされた叔父2人にそれぞれ虐待され、
最後に引き取られた叔母が育ての母になった。

そんな実夫みたいにはならないと言ってたのに、
自分の息子を自分が搬送された同じ病院に同じ理由で送ってしまうという皮肉。


被告人と元妻は10年くらい付き合った別れたを繰り返して2014年頭に正式に結婚。
その前に年子の子どもが3人。

お金がなくて元妻の母にタバコを買ってきてもらうという状況。

家は1DKで、上の子2人は元妻の母親の家に事実上暮らしてる。

家の中の写真には無数の拳骨大の穴があちらこちら。
洗面所の穴にはタオルを入れて、タオル掛けになっていた。

陪審員が判断するのはすべて提示された証拠、証言から
1被告人はそれを行ったのか
2被告人は意図して行ったのか

そこに自分の経験や常識を適用することが許される。

1と2が両方肯定されるときだけ、有罪という判断を下す決まり。

あたしはこの「意図して」という部分に苦しんだ。
この意図というものが曲者で、衝動的にやっちゃったというのも意図に含まれる。

11人の陪審員の中で9人が有罪と即答したところに同意できなかった。


被告は考えないひとなのだ。

まず仕事してなくて、お金がなかったら子どもを3人も無計画に産むことにならなかっただろうし、
被害者の症状、被害者は被告以外とはいっしょにいなかった、ことから否認してもすぐに見つかるって考えたらわかるし
あの山のような携帯メールなんて警察が調べたらすぐに言動を裏打ちするってわかるだろうし

だから息子を怪我させようと思って意図して暴行したというのにはいつまでも違和感が残った。
妻にむかついたから息子を殴った、怪我するとは考えなかった、ただ怒りに身を任せたというのが被告人の思考回路だとあたしは思った。
それはほかの1人以外の陪審員には理解してもらえず。

けれど彼がやってしまったことを考えると、彼が無罪であることは許せなかった。
だからあたしはほかの陪審員と同じ答えで自分を納得させた。
それは陪審員としてはやってはいけないことなのだけれど、

あたしは被告に1/11の有罪を与えた。

裁判官からは100%の自信で有罪と下しなさいと言われていたけれど
あたしはそれに背いた。

100%の自信というのは被告の権利でもあるし、陪審員のためでもあるんだと後々実感した。
評決のことが頭から離れないのだ。


というわけであたしの心理的縫合のために今日判決を聞きにいった。

渋滞で10分遅れで法廷にたどり着いたあたしを
たまたままだ始まってなかった判決の準備をしてたアンリー・デュナンがやさしく扉を開けてくれた。

あたし以外の陪審員は誰も来てなかった。
みんな日々の生活でいっぱいなのだ。

判決は「判決~年、以上」という感じなのかと思いきや

検察官がほかの判例も考慮して期間を提案し、
弁護人が期間を提案し、

裁判官が理由た考慮されるべき事案を述べて期間を決めるというものだった。

正直なところ、ぜんぜん理解できなかった。

弁護人が「でも被告は意図してやったわけじゃないから減刑を考慮すべき」と繰り返し言ってて

大らかだった裁判官が
「だから、陪審員が意図してやったという答えを出したんだから、そこは論外」とバッサリする一幕も。


容疑2の最高刑が14年、容疑3の最高刑が5年で
前科がないこと、
自白してること、
自分が幼少期に虐待されてたことなどを加味して10%のディスカウントで、計7年2ヶ月の実刑判決になった。

判決の前には被告人の元妻からの手紙が読まれ、
被害者は瀕死の重傷からは全快したものの、あの日の事件から暴力的になったという一文があった。

こうやって受け継がれていく負のDNA。

願わくば子ジョジョと同じ年の被害者が虐待された記憶を記憶せずに
愛に溢れた人生を送ってほしいと思う。

判決の記事。
コメント
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