『ザ・ウォール』 2018年3月3日
確か去年の9月頃かね、イラクの狙撃手「タカの目」って怖れられたアブ・タフシン・サルヒ(63)がイスラム過激派組織イスラム国(IS)が
制圧していたイラク北部ハウィジャの奪還作戦中に死亡したって報道があったね。
報道では、2017年9月29日、IS最後の拠点ハウィジャに向けて進軍中にイラク北西部で殺害されたとある。
白と黒のチェック柄スカーフと指なし手袋を身に着けてオフロードバイクを乗りこなし、オーストリア製のライフル銃ステアーを常に携帯していた。
1973年の第4次中東戦争でイラク部隊に参加しゴラン高原で戦ったことを皮切りに、サダム・フセイン時代の
イラクでイラン・イラク戦争(1980~88年)、クウェート侵攻(1990年)に参加し、フセイン政権崩壊につながった2003年のイラク戦争では
米国を相手に戦った。サルヒは 「俺は最低でも4人やるんだ」と話していた。「ISとの戦いで俺は奴等を173人殺した、今では320人だ」
腕のたつ狙撃手ってのは、高度な射撃技術もさることながら相手の心を読み取る心理戦が達者で、何より石や木になり切る我慢強さが
秀でて成り立つんだろうと思うよ。陰に隠れて確実に殺す戦法だから粘り強さが勝負で獲物の数は其れに比例する。冷酷でなければ身がもたない。
『鷹の目と怖れられたアブ・タフシン・サルヒ』 実在の狙撃手
『オーストリア製のライフル銃ステアー』
相手はあくまで標的であって使命を達成することのみが仕事と解する。物事の完璧を目指して集中する職人気質な人だろうかね?
『ザ・ウォール』 2017年公開
こういう敵と遭遇すると移動や逃げ場を制約されて動きがとれず追い込まれて行くことになる。狩猟に長けた猫と鼠だね。
相手の不利に乗じてじわじわと追い込んで射止める、いじめで仲間をいぶり出し排斥して虐め殺す奴らもその手の連中に当て嵌りそうだよ。
狙撃を描いた映画も沢山観たけど観るぶんには、ハラハラ、ドキドキさせよるから目を離せない緊張感を持続させて面白い。
ドウッ、ドウッ、ドウッ、ドウッドウッドウッと鼓動の音のような効果音も手伝って、撃つほうにも撃たれるほうにも応援してる。
照準スコープを通して双方の思いが繋がってんだね。少しのミスで命を落とし少しのミスが命を長らえさせて形勢が逆転する場合もある。
互いが相手の立場になって動きを読み通す洞察力が先手を掴む機会に繋がることもあるんだろうけど、大方は、この場合、狙われる者は弱いね。
射撃音と着弾地点から発射角度を計算して相手の居所を測り知る術があるみたいだけど高度な教育だね。オレの場合だったら、
此の計算を強いられたために過労死で死ぬよ。「世話要らんな」 仲間に罵られて過度な負担に耐えられず己の野生の触覚頼りに壁から覗いて
一発で彼の世逝きだよ。急かれる思いながら、こんな計算を地面に書き表して、其の位置を測り知るなんて神業だよ。
そんな神業を身に着けてる兵士が、荒野の中の廃墟と化した学校の壁に身を隠し狙撃兵と向かい合う映画を観たよ。 『ザ・ウォール』
『ザ・ウォール』
壁を飛び越え身を躍らせて遮蔽物の影に伏せる。伏せた側からは撃たれない。360度の角度の半分180度側に敵が居る。
咄嗟にでもできる計算能力はオレでも持ってるよ。其の180度側の何処に狙撃手が居るか? イラクの砂漠にある廃墟の壁以外に視野を遮る
遮蔽物は限られてる。仲間の兵士の死体が所々に倒れたままになってる。広く窺えばトラックが数台、パイプライン、窓のある建物、
遠回りして狙撃の位置を変えるには平地の砂漠では姿を見られるから容易には相手も動き辛い。兵士が身を隠す廃墟の壁は平石を積み重ねた
雑で弱い作りなんだね。隙間も多く相手側を覗き見ることも出来るけど狙撃手からも隙間を狙って撃ち込むことも容易だろうね。
相手の狙撃手と兵士とは直線的に繋がってる。曲がって弾丸は飛んで来ないから相手も一点に絞れば対等に戦える状況だね。
『ザ・ウォール』
長い間、高地にある枯れ木の枝が繁茂してる一角をカモフラージュに利用してアメリカ軍兵士二名が地に伏せて警戒してる。
二人は、狙撃手と其れをホローする兵士、じっとスコープを通して様子を窺ってる。
高地からは、トラックなど数台が散らばった状態で砂を被ったまま、車上や地面などで死体が横たわってるさまが見てとれる。
此の状況下、全く動きや気配もない長い時間が意味なく過ぎていくのに嫌気がさして狙撃担当の兵士がカモフラージュを払い除け立ち上がる。
無線で冗談交し合って警戒はしつつも狙撃担当の兵士は高地を下って野晒しのトラックや死体の在る場所に向かう。
高地に留まり居るホロー担当の兵士は双眼鏡で辺りを窺い 「気を付けろ」と不安気。「みんな、頭を射抜かれてる」って返答の無線。
『ザ・ウォール』
兵士は狙撃銃を構え持ち歩行の都度、乾燥した砂ぼこりが、其のあとを追って舞い上がってる。「俺も行く」とホロー担当の兵士。
乾いた銃撃音が轟いた。バシッ、バシッと狙撃担当の兵士が崩れ落ちて倒れた。吃驚するような銃声じゃないね、何処から飛んできた?
って感じで頼りない。観てるオレにも解らない。ホロー担当の兵士が高地を下って慌てふためいて駆けつけてくる。
倒れる兵士の近くまで駆け寄ったところで、バシッ、バシッと銃撃を喰らう、脚の膝辺りを射抜かれて必死で引き摺り壁の向こうに踊り込む。
先ほどの風景は変わることないけど状況は一変して最悪の立場になる。狙撃担当の兵士は負傷して生きてるんだけど動けないし、
動くことは、この上、致命弾を喰らうことになるから苦痛を堪えてじっと横たわっているしかない。敵狙撃手の視界内に在ることを察しつつ
『ザ・ウォール』
『ザ・ウォール』
無謀に行動を起こした結果を悔やんでる。ホロー担当の兵士も壁に身を隠して身動きできない状態に追い込まれてる。敵狙撃手の動きは、
皆目、解らない。砕けた膝から出血が止まらない。毛布を咥え噛んで激痛の中、ナイフで弾丸を掘り出す。止血を試みるけど垂れ流しが止まらない。
映画は、敵の狙撃手と対峙する時間の中で、其の敵の狙撃兵が弄ぶような手段を講じていることに気付くんだね。
『ザ・ウォール』
無線を傍聴して米軍本部になりすましたり、無線連絡を中断して介在し偽の情報を流したりと兵士ばかりか米軍をも掌で躍らせるんだね。
トラック数台の脇で死んでいる者らは、此の狙撃手が無線を利用する狡猾な手段で味方をおびき寄せて全滅させたと解るんだね。
そして、自分たちも、そのあと、此の現場に向かうよう命令で来ていたことを知る。「おまえの止血は止まらないだろ? 狙って膝を撃った」
『ザ・ウォール』
「やがて失血症で死ぬ」 ホロー担当の兵士は喚き散らして怒るんだけど、どうにもならない。倒れて動けない狙撃担当兵士の 「顔を撃ち
潰そうか?」 「誰だか解らなくなる」なんて語りかけてくる。こんなやり取りが汗だらけ血だらけ砂だらけの中で続くんだね。
戦争では、殺しまくっても英雄にはなっても殺人鬼にはならない。弾丸に貫かれて顔面スイカのように破裂させられても、
爆弾で五体バラバラ、ひき肉みたいなハンバーグ状態になっても、捕らえられて拷問でのたうちした挙句死んでも戦死なんだね。「アホかいな」
『ザ・ウォール』
こうして恐怖のどん底叩き落されるよな体験して死んでも一括戦死で英霊として讃えられて、実際、忘れ去られるのが戦争だろうね。
そんな諸々の経験強いられて其々死んだ人たちは、何をか言わんやだろうと思うよ。どんなに飾リつけられて讃えて貰っても死んだら解らない。
死ぬまでが大問題なんだよ。死ぬまでの生きてた時が鮮烈なんだよ。敵も味方も骨身に沁みる思いで行く身になって考えて欲しいよ。
『ザ・ウォール』 倒れてからじっと我慢を続けて、反撃の最後の賭けに出る
しかし、此れはどうにもならん生きたものの宿命なんだろうかね。飛び回るハエや蚊、逃げ回るゴキブリ、一発しばき殺さねばスッとしないもんね。
生まれて備え持つ本能の為せる業なんだろうかね。
『ザ・ウォール』 撃ち抜かれて死んだ戦友の狙撃銃を手にして、身を庇う壁をぶっ倒して捨て身の反撃
『映画で米軍狙撃担当の兵士が携行していたM24SWS狙撃銃』