575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

「声」の力 ~ボブ・ディランのノーベル文学賞~  竹中敬一

2016年10月23日 | Weblog
私は長年、テレビ・ドキュメンタリー番組のナレーションを書いてきましたが、
その文章は、語り手が声にして、初めて評価されるものだと思います。
私の台本などナレーションを録り終えれば、紙くず同然です。

これと同じように、歌詞も歌い手によって、その歌がヒットするかどうか、
大きく影響すると思います。
過去の有名な歌謡曲でも、今では歌い手の名前だけが残って
作詞、作曲の名はすっかり忘れられている場合が殆どです。

こんなことを考えていたら米国のシンガー・ソングライター、
ボブ・ディランさんのノーベル文学賞受賞決定の二ユースが伝わってきました。

この受賞はさまざまに受け止められているようです。
10月14日の中日新聞は「歌詞に文学の息吹」と題して
「ディランさんの歌詞を詩として高く評価することで世界の耳目を集め、
文学賞の影響力や評価を高めようとしている。」と評価。

一方、読売新聞(デジタル)によれば「世界的な読書離れの中で
重要な意味を持ってきた文学賞が、歌手にあたえられたことに
ニューヨーク・タイムス紙は" デイランさんは文学賞を必要としていないが、
文学はノーベル賞を必要としている" と皮肉った。」と伝えています。

そんな中、波戸岡 景太 (明治大学准教授) が、寄稿した
「声・いま文学に必要なもの」と題した文章 (10月20日・中日新聞 )に
共感しました。

波戸岡氏によると、これまでの文学は
「声の文化を抑圧して、文字の文化を偏重して来た」として、
「言葉の生成に立ち会ってきた書き手たちは、そうした風潮に否を唱え、
朗読などを通じて"声"の力を伝えてきた。…文化とは結局、
言葉の力を信じる人たちの芸術であり学問である。」としています。

日本でノーベル文学賞を受賞した川端康成、大江健三郎のような作品が
受賞の対象とばかり思っていたのに、今回のディランさんの受賞は
今後の文学の方向性を示すものと云えるのではないでしょうか。


コメント
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