8月も終わりの鎌倉。網戸には翅が欠けてしまった蝉。浄土も近いのでしょうか。刹那の命といった感。
フランツ・カフカ著「変身」の論評を読んでいます。カフカは「失踪者」「城」「審判」などの長編小説を残していますが、すべて未完成。そのため、カフカは友人のブロートに未完の小説を焼きすてるよう遺言しています。しかし、カフカを敬愛していたブロートは破棄することができず出版。こうしてカフカは世界に知られる作家となりました。ところで、私がカフカに惹かれたのはスポーツに熱中していた大学時代。カフカがスキーやスイムを好んだことに共感を覚えたのでしょうか。フランツ・カフカ。チェコのプラハ生まれ。ユーモラスと不安の交錯する作風を持つ小説家。享年40歳。虫の声が聞こえる夜。カフカの本を開きます。鳴きやんでいた虫が再び鳴き出しました。
「稲妻」とは、空中電気の放電する際に発する火花で、
遠方で起きる場合は雷鳴はなく、晴れた夜などにただ電光だけ走る現象も見られます。
この光が稲を実らせると思われたところから「秋の季語」となっているのですが、先ごろの大雨と、稲妻の閃光と同時に轟く雷鳴は、恐怖以外のなにものでもありませんでしたね。
いただいたコメントをご紹介します。
殿さま:稲妻を慶賀の花火のように感じたのでしょうか。「手荒なる」語句の選択。上五から惹かれます。
亜子さん:結婚式か何かお祝い事。稲妻も祝福しているように思いました。ホテル宴会場のような大きな開放的な窓を思い出しました。
須美さん:,手荒なる祝意が面白い
作者の等さんは今回、集まった稲妻の句を 1不安の象徴 2神の怒り 3その他
に大別できるとし、三句選ぶにあたりそれぞれのジャンルから
◇稲妻や親子手繋ぎ見入る窓 (須美)
◇天怒る赤き稲妻静まぬ世 (竹葉)
◇稲妻やふいに鳴り出す大時計 (遅足)
としました。私のように何とな~く好き・・で選ぶのとは大違いです。m(__)m
私も いただきました。「そら」のひらがな表記もしゃれています。掛け声のようで。
祝意と言いつつ、もしや怒っているのではと思わせる天のパワー
神さまの御心の前に我々は稲穂とともに頭を垂れることしかできません。郁子
見事トップ賞に輝いた遅足さんの句。情景も目に浮かび、中七の「ふいに鳴り出す」にどこか物語性も感じられます。大きな古時計のボーンという重音が聞こえて来るようでした。
私は映画Back to the futureを思い出しました。(過去にタイムトリップしたタイムマシンが、時計台に落ちた雷のエネルギーでこの世に戻って来ます。)映画でなくても、雷の衝撃で時計が動き出すことがありそうです。止まっていたのはどこの大時計でしょうか?
皆様からのコメントです。
竹葉さん:稲妻に気を取られていたら、ボンと低い時計の音で、「なんだ稲妻くらい」と日常に戻った、という、稲妻なんか古い大時計に勝てないぞ、という句でしょうか。。なんか惹かれます。
等さん:大時計が急に鳴り出し、それ以後皆を不安に駆り立てている句を選びました。
能登さん:絶妙のタイミングで鳴り出すものってありますよね。あるある感です。
郁子さん:あの時計、確か止まっていたはず。。ミステリーの幕開け?想像が広がる。
千香子さん:稲妻にはっとした途端、大時計が鳴り出したそのタイミングが面白いと思いました。 実は時計はいつもなっていたけど、気が付いていなかっただけかもしれないなどと想像しました。
晴代さん:大時計が稲妻とコラボしたのか、しんとした広間に鳴り光る。
★★★
懸命にリハビリを続けておられる遅足さん。
自由題では「彼の世への途を照らせり稲光」という句を作られました。遅足さんの世界観は壮大かつ繊細です。
今、次回の兼題を考えていただいています。乞うご期待!麗子
兼題「稲妻」
- 槍ヶ岳穂先へ夜の稲光 (千香子)佐保子 能登 麗子
- 稲妻の惜しげなく見ゆ北の窓 (佐保子)能登 千香子
- 稲妻や親子手繋ぎ見入る窓 (須美)等
- 稲妻や母病床に父を待つ (亜子)竹葉 遅足 佐保子 晴代 須美
- 稲妻や病室の窓切り込んで (麗子)
- 稲光り 怒れる神の 黙示録 (紅)殿 泉
- 天怒る赤き稲妻静まぬ世 (竹葉)等 泉 紅
- 初レコード田園ジャケット稲妻 (結宇)
- 稲光り 紫雲裂き落つ 那須の郷<さと> (殿)紅
- 稲妻や光と音のシンフォニー (泉)
- 手荒なる祝意稲妻そら駆ける (等)殿 遅足 郁子 亜子 須美
- 稲光あの空の下君の住む (能登)竹葉 泉
- 稲妻や浮かぶ凸凹街の景 (晴代)麗子 郁子 千香子 亜子 須美
- 我が脳の海馬を走る稲光 (郁子)殿 遅足 佐保子 紅 亜子 晴代
- 稲妻やふいに鳴り出す大時計 (遅足)竹葉 等 能登 麗子 郁子 千香子 晴代
自由題
- 置き去りの骨の慟哭終戦日 (亜子)竹葉 遅足 麗子 郁子 千香子 晴代
- 八月や孫の聞きゐる腕の傷 (千香子)遅足 佐保子 郁子 亜子
- 冬瓜の 煮立つ湯気消え 友偲ぶ (紅)殿
- 蓮の実の弾けて次の世を生きる (麗子)佐保子 泉 能登 紅
- 早野分青い実踏めば銀杏かな (結宇)須美
- カレンダー吹き落としたり野分立つ (佐保子)等 泉 能登 千香子
- 濡れ縁に かの人居なく 風死せり (殿)竹葉 紅
- 墓参り静けさの中蝉と雨 (泉)竹葉
- オルガンの神の音も暑に歪みたる (等)殿 亜子 晴代
- 鐘の音の唸りの消えぬ鰯雲 (能登)等 佐保子 麗子
- 道筋を変えて曲がれば草いきれ (晴代)遅足 泉
- 落蝉の悔いはなきかな大冒険 (郁子)須美
- 部屋の隅ぽつと気配す盆の蜘蛛 (竹葉)等 郁子 千香子 須美
- 秋風鈴選びし子等は帰宅せし (須美)能登 亜子 晴代
- 彼の世への途を照らせり稲光 (遅足)殿 紅 麗子
いかがでしたか?
「稲妻」は難しかったという声もきかれました。激しい雷雨と土砂災害が頻発し、
恐怖のほうがたってしまったかもしれませんね。我が家は一時間の停電という経験をしました。
兼題トップ賞は 遅足さん
自由題トップ賞は 亜子さん という結果となりました。おめでとうございます。
雷雨の多かった今年の夏。投句が集まりましたのでご紹介します。どの稲妻が光り輝くでしょうか?
結果をお楽しみに。
兼題「稲妻」
① 槍ヶ岳穂先へ夜の稲光
② 稲妻の惜しげなく見ゆ北の窓
③ 稲妻や親子手繋ぎ見入る窓
④ 稲妻や母病床に父を待つ
⑤ 稲妻や病室の窓切り込んで
⑥ 稲光り 怒れる神の 黙示録
⑦ 天怒る赤き稲妻静まぬ世
⑧ 初レコード田園ジャケット稲妻
⑨ 稲光り 紫雲裂き落つ 那須の郷<さと>
⑩ 稲妻や光と音のシンフォニー
⑪ 手荒なる祝意稲妻そら駆ける
⑫ 稲光あの空の下君の住む
⑬ 稲妻や浮かぶ凸凹街の景
⑭ 我が脳の海馬を走る稲光
⑮ 稲妻やふいに鳴り出す大時計
自由題
① 置き去りの骨の慟哭終戦日
② 八月や孫の聞きゐる腕の傷
③ 冬瓜の 煮立つ湯気消え 友偲ぶ
④ 蓮の実の弾けて次の世を生きる
⑤ 早野分青い実踏めば銀杏かな
⑥ カレンダー吹き落としたり野分立つ
⑦ 濡れ縁に かの人居なく 風死せり
⑧ 墓参り静けさの中蝉と雨
⑨ オルガンの神の音も暑に歪みたる
⑩ 鐘の音の唸りの消えぬ鰯雲
⑪ 道筋を変えて曲がれば草いきれ
⑫ 落蝉の悔いはなきかな大冒険
⑬ 部屋の隅ぽつと気配す盆の蜘蛛
⑭ 秋風鈴選びし子等は帰宅せし
⑮ 彼の世への途を照らせり稲光
今月の題詠で槍ヶ岳の投句がありました。類似した句を詠んでいたのでご紹介いたします。今夏は新穂高温泉からの最短ルートで16時間。なお、槍ヶ岳のライブ映像や天候は下記サイトでご覧いただけます。現在の槍ヶ岳頂上付近の気温は8度。風速7m。体感温度は摂氏0度に近いようです。https://www.yarigatake.co.jp/livecamera/
「寝落ち」というのでしょうか、疲れがピークに達すると
椅子に腰かけた瞬間、何かをしている最中、
気を失うように寝入ってしまうことがあります。
目を覚ました瞬間、軽い記憶喪失のような状態になり、思わず時計を見るも
AM・PMが判定しかねる景色の薄明るさ・・
いただいたコメントです。
等さん:情景描写が全くないのに、寝覚めの瞬間の不安定な気持ちを良く表現しています。
能登さん:誰でも体験することをユーモラスに。いいですね。
作者の須美さんは、今年可愛らしいお孫さんがもう一人増えました。
娘さんの里帰り出産は、体力勝負の大奮闘の毎日だったと思います。
四世代干し竿埋めて五月晴れ
五月句会で、最高点をとった須美さんの句は
忙しさの中にも幸福な充実感が感じられますね。
そして今回の…(笑)
続編といいますか、お孫さん一行がひきあげ日常が戻ったかと思われます。
余力を残し日々のほほんと暮らしている私が言うのもおこがましいですが
「お疲れさまでした」と声をかけたくなる共感の句と言えそうです
芸人さんのギャグに「ここは何処?私は誰?」というのがあります。
「私は誰?」までくるとちょっと心配。
最近〇月〇日がすらっと出てこなくなってきました。郁子
「髪洗う」の季語を用いた俳句を作るのは女性の方が多い気がします。ちょっとむしゃくしゃした時もシャワーを浴びて髪を乾かせば、あら不思議。なんとなく気分も変わっています。
作者の亜子さんはいつも美しく髪を整えておられます。お風呂は夜ではなく昼間と伺ったこともあります。
さて、「たまゆら」とは「ほんの少しの間」。亜子さんは短歌で使われることの多いこの言葉を、いつか俳句に使ってみたいと胸に抱いていたそうです。
その亜子さんが思わぬことで背中を痛め、家で髪を洗うことも辛かった時に作られた俳句です。この先、もしかしたら自分で髪を洗えない日が来るかもしれないと思ったそうです。
私はこの俳句から「たまゆらの命」にこの世のはかなさを感じ、つかの間の命を惜しんで今日も髪を洗い身支度を整える作者の心意気に魅かれました。
皆様からのコメントです。
等さん:具体的に目に見えるものは“髪洗ふ”だけです。ですがこれを上手に使い、夏の有り様を良く表現しています。
郁子さん:たまゆらの命といいつつ、毎日を丁寧に綺麗にいきる女性の覚悟のようなものを感じます。
竹葉さん:「髪洗う」の季語がいいのか、とにかく引かれる句です。
コロナに長雨と心がふさぎますが、今日も髪を洗ってさっぱりしましょう。その日のよどみはその日のうちに洗い流してしまいましょうね。麗子
駒草は、北アルプスの森林限界である2,500mを超えるザレ場に咲きます。駒草は厳しい気象に耐える高山植物。しかし、砂利の痩せた土壌は植物の生育環境に適さないのでしょう。ザレ場に植生する高山植物は駒草のみ。そのため、孤高の花とされ高山植物の女王といわれています。ところで、スマホは異常な降水量を伝えています。大荒れの北アルプスのザレ場。駒草が風に揺れます。
有明山の別名は信濃富士。秀麗な山容で知られ山頂の祠に祀られるのは天照大御神の前で踊ったといわれる「天鈿女」<あまのうずめ>。あまのうずめは日本で最古の踊り子で芸能の女神とされています。古事記、日本書紀における記述では朗らかな少女でのちに猿田彦の妻となったとされています。立命館大学の漢文学者「白川 静」<しらかわしずか>はあまのうずめの神楽は能や狂言の祖となった記しています。信濃富士の秋。耳を澄ませば神楽の音が聴こえるかもしれません。
すんなりと暮らしの一コマを切り取りできあがりました。
やたらに物は多いが、いざ必要となるとなかなか出てこない我が家事情。
ジャングル化した庭の草とりに重い腰をあげたとたん、待ってましたとやぶ蚊の大群が襲い掛かります。
そんなときに限って殺虫スプレーは空ばかりなのです。(空き缶捨てよう)
確かあったはず・・とようやく探しあてた鳥さんマークのアナログ蚊取り線香!ラッキー!!
解説いらなかったですね。
いただいたコメントです。
結宇さん: これは、実景ですね。本当に、つい忘れてて、いざその時に思い出す。少なくはなったけど、一匹だけ、寝るとともに出てくる。
紅さん: クスッと笑いを誘います。
ありがとうございます。笑っていただければ本望です。
滑稽さは真面目な人の暮らしに愛すべきユーモアとなって現れます。
お疲れ気味のこの時期、日々のあるあるを句にしてくすっと笑い、活力を得るのもいいですね。
ユーモア句をふたつご紹介します。文豪・夏目漱石の作です。
叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな
お坊さんの叩く木魚のおおきく開きっぱなしになっている口から、ひょろひょろと一匹の蚊が飛んでいきます。厳かな中になんとも間のぬけた情景が浮かびます。
仏壇に尻を向けたる団扇かな
仏壇に背をむけるのは失礼なことでしょうが、おしゃべりに花咲くにぎやかさが伝わります。ご先祖さまも許してくださるでしょう。
お盆です。
コロナ禍でなかなか集まることの叶わない状況ですが
日本の風物詩と、気兼ねなくふれあえる日常が早く戻りますように。郁子
前線の影響か、少し暑さが和らぎました。今後の雨が心配ですが。。。
先月、あまりの暑さを避けて、ひるがの高原まで出かけました。サービスエリアで高原ソフトクリームを食べながら心地よい風に吹かれました。遠くには白山を眺めることも出来ました。しばらく涼んでいると、盲導犬を連れたご夫婦がやって来ました。盲導犬と一緒に写真を撮っておられ、大人しい盲導犬の姿に感動。実際にそこに噴水はありませんでしたが。。。
投句してから「大人しくない盲導犬はいないな~」と思いましたが、その賢そうな表情とご主人の元に大人しく座る姿を詠みたくて句にしてみました。
頂いたコメントです。
晴代さん:一人と一匹で涼んでいるのか待ち合わせか。犬の静かな様子がわかります。
千香子さん:勢いよく飛び出している噴水の側で静かに主人を守る盲導犬の優しい
様子が浮かびます
亜子さん:活発な噴水と静止した盲導犬の取り合わせがいい。8月が近づくとどうしても戦争のことを思い出し、戦争中はこのような光景はなかったと思うと、穏やかな平和な句に感じられそこに魅かれるのかも知れません。
ありがとうございました。最後に、盲導犬のことを詠んだ俳句を調べてみました。
人混みを盲導犬や避暑の駅 山本歩禅
緑陰に盲導犬の気を抜かず 志摩陽子
常に注意を払う盲導犬の様子に頭が下がります。明日からお盆です。どうか、皆様お元気で。麗子
渋谷にケーブルカーがあったという話。未来都市のような景観だったとか。その渋谷のハチ公前で待ち合わせ。秋を感じる風が鼻先をかすめていきます。ところで、コロナ感染者数急増にも関わらず混雑する渋谷。都民へは移動や行動の自粛を求め、五輪による海外からの移動は容認。混雑は都民の気持ちの表れでしょうか。