転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



1. TOEICで測る英語力

アクセス解析を見たら、拙ブログの1月30日の検索ワードは
ほとんど『第160回TOEIC公開テスト』関係ばかりだった。
また、昨日の朝niftyのトップページを見たときも、
『注目ワード』の最初に書いてあったのが『TOEIC』で、
今の世の中、英語の試験としてTOEICが非常に注目を集めている、
ということを改めて感じた。

TOEICを、1980年代の割と初期の頃から知っていた者として私は、
当初「日本人限定・TOEFL簡略版」みたいな印象だった英語テストが(汗)
まさかこんなに全国的な支持を集める大規模な試験に成長するなんて、
と、昨今はやや意外な気がしている。
そういえば、大学入試のセンター試験も相変わらず信頼されているようだし、
日本人はマークシートというものが基本的に好きなのかな(爆)。

私は自分自身、こうしてTOEICを時々受けているくらいだから、
試験として、それなりに信用している部分はある。
少なくとも、英語を、ある程度以上の速さで、
どのくらい聴けるようになったか、どのくらい読めるようになったか、
に関して、択一形式という制約内ではあるとしても、TOEICのスコアは、
その達成度を、さほど現実から乖離せず反映していると思う。

折しも先週、武田薬品が新卒採用の条件として、『TOEIC730以上』
を義務づけたというニュースがあったが
新卒採用、TOEICは730点以上…武田薬品(読売新聞))
企業側がTOEICの成績を見て、応募者の(「会話力でなく)「聴く力」「読む力」を
判断するのであれば、あながち間違ってはいないと私は思っている。
英語話者の講演やプレゼンを聴いて、たとえ概略でもその場で理解でき、
配付された英文資料を読めば、内容が自力でだいたい理解できる、
となれば、こなせる仕事の量も幅も、そうでない時より広がるに違いない。
専門を持った上でなら、これは価値のある英語力だと私は思っている。

一方で、TOEICは、一語も発することなく受験するテストなのだから、
これで「会話力」まで測れると考えるのは早計だ。
一般的に、聴いて理解できる英語と同レベルのものが、すぐ口から出せるものではない。
だがそもそも、日本人社員の誰も彼もが「英語ペラペラ」を目指す必要などはないのだ。
そうなるために膨大な労力を費やすとしたら、業務以前の無駄が多すぎる。
適宜、通訳者や翻訳者に任せて、日本人社員は各自の担当分野に専念すべきだろう。
社内の公用語を英語にするという日本企業も最近あるようだが、
自由になる母国語を封じられ、社員が中途半端に「英語ペラペラ」を目指した場合、
将来生じる不利益は、計り知れないほど大きなものになるだろう、と私は想像している。



2. 無資格「通訳ガイド」が増える?

実はもうじき、平成22年度通訳案内士国家試験の合格発表があるので、
私は最近は暗澹とした気分なのだが(爆)、
折りも折り、数日前の報道で、こういうものを見かけた。

通訳ガイド、特区で資格緩和 自治体が研修(共同通信)
『政府は29日までに、外国人旅行者に有償でガイドができるのは国家資格の通訳案内士に限定している現行制度を、2011年度に創設予定の総合特区制度を利用して緩和し、自治体の研修を受けた人に地域限定で有償ガイドを認める方針を固めた。』『通訳案内士は都市部に集中。またアジア各国からの観光客が増えているのに英語での資格取得者に偏っていることから、福岡市が増加する中国からのクルーズ客を留学生らが案内できるよう特区に提案するなど、資格緩和を求める声が上がっていた。実現すれば各特区で中国語や韓国語などのガイド育成が進められそうだ。』『観光庁は当初、資格緩和に向けて通訳案内士法の改正案を今通常国会に提出する方針だったが、継続審議の法案が多く断念。政府の新成長戦略の一環として地域を指定し、国際競争力向上などを促進する総合特区制度を活用する形で早期実現を図ることにした。』『通訳案内士側からはガイドのレベル低下を懸念する声があるが、観光庁は自治体に語学や地理・歴史など研修の水準を一定以上に保つよう要請、質を確保したい考えだ。』

これまで、通訳案内業で報酬を得るには、国家試験に通っていなくては駄目で、
無資格の者がそれに類する仕事をすることは違法だったのだが
(ボランティア・ガイドなら誰がやっても良い。「有償で」となると違法)、
このたび、規制緩和の方針が固められ、自治体の研修を受ければ誰でも
地域限定での通訳ガイドとして営業できる、ということに変わるようだ。
特に近年中国からの観光客が増加し、それに対応できる有資格者が足りないので、
留学生らを通訳ガイドとして雇えるようにしたいというのが、その主旨だ。

『国際競争力向上』というのは、狙いとしてはわかるが、
『ガイドのレベル低下を懸念する声がある』のは、しごく当然だと思う。
現状でも、この試験に出願するときには、国籍も学歴も問われないし、
必要な費用は受験手数料8700円と新規登録料5100円だけだ。
合格しさえすれば、日本人でも留学生でも誰でも通訳案内士になれる。
中国語も韓国語も、通訳案内士の門戸は以前から開かれているのだ。
だのに、正規の合格者が足りない、合格するまで待てない、ということは、
つまり本来なら合格できない、実力のない人でも、今後はガイドとして雇う、
ということに他ならないだろう。

私自身は、通訳案内士試験をひとつの英語資格として受けただけで、
すぐさま通訳案内業を開始したいという気持ちは今は持っていないのだが、
今回不合格だったら、やはり来年も受けるだろうと思う。
試験にすべっても「緩和」の御陰で営業できるようになるならラッキー、
もう頑張って受ける必要はない、などとはどうしても思えない。
そんなことでは、モグリのガイドと実質は変わっていないと思うからだ。

もし自治体研修のレベルが本当に高いものであるなら、
研修終了後にすみやかな国家試験受験を促すべきだし、
研修を受けた人は、国家試験にも合格して然るべきだろう。
そういう想定なしに、「合格しなくても営業できる」というのを認めるなら、
いくら「自治体研修受講」「地域限定」を隠れ蓑にしようとも、
通訳ガイドのレベル低下は必至だと私は思っている。

それにしても、これが会議通訳の話なら、実績や経験年数に応じて等級があり、
報酬の設定も異なるのだが(当然、上のクラスの通訳者ほど高給優遇される)、
今の日本は不況だから、観光業界となると、正規の通訳案内士国家資格取得者を、
それ以外の者に比して優遇することは、実質的に不可能だろう。
旅行会社は、質がどうであろうと、より安いガイドを求めるだろうし、
むしろ、今後は有資格者が不本意な価格競争を強いられることになりそうだ。
有能な有資格ガイドの方々の意欲を、削ぐことにも繋がるだろう。

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