宙組バウホール公演『記者と皇帝』11時公演を観てきた。
ほっくん(北翔海莉)が主演であるうえ、
ソルーナ(磯野千尋)さんが重要な役でご出演だったので、
私にとっては一回で二度美味しい布陣だった。
現在の宝塚で私の思い描く『スター男役』として最も典型的なのは、
多分、星組トップのれおん(柚希礼音)くんなのだが、
一方で、今の私を切なくさせる要素を一番持っている男役は、
きっと、この北翔海莉だと思う。
私にとって、彼女の何が、ほかの男役と違うのか
我ながら定かでないところもあるのだが、
とにかく、ほっくんの何かが心の琴線に触れて来るのを、
私は、彼女の舞台を観るといつも感じるのだ。
ほっくんに初めて注目したのは、2002年月組『ガイズ&ドールズ』のときだから、
考えてみるともう、十年近く前のことになる。
あれから、彼女のバウ主演はずっと気をつけて観るようにしており、
2003年月組バウホール『恋天狗』、
2005年月組バウホール『BourbonStreet Blues』
2006年月組バウホール『想夫恋』、
の三本は生で観劇をしたのだが、
2007年宙組バウホール公演『THE SECOND LIFE』だけは見逃してしまった
(ほかに月組宙組の大劇場公演・東宝公演では観る機会が幾度かあった)。
というわけで、今回は私にとって実に久しぶりに、
ほっくんを堪能できる機会だったのだが、
どう言ったら良いのか、何か発散しきれないものが残った公演だった。
ほっくんは、歌も芝居も踊りも言うことがなく、スタイルも良いと思ったし、
男役の型もあるし、顔立ちも整っていて、表情豊かでコメディセンスもあり、
悪くない、どころか相当高い水準の舞台だったと思うのだ。
が、……何か、とても重要なところで「惜しい!」と思えてならなかった。
恐らく、それはビジュアルの問題だという気がした。
以前から、その傾向はあったとは思うのだが、今回特にそれを強く感じた。
メイクか髪型かがもう少し違っていれば、全体として格段に良くなっていた筈なのに!
という点が、あまりにも、かつてなく、残念に思われたのだ。
ほっくんの雰囲気は、例えば宝塚大劇場で3000人をウットリさせるものとしては、
路線が僅かにだが大事なところで違っているのではないか、と私は思った。
脇役だったらさほど気にしないところだが、ほっくんは紛れもない、主役をやる人だ。
下級生の頃からそのように育ってきたのだし、今もそれは続いている筈だ。
雰囲気づくりとか、ムードの出し方というような、高度で荒唐無稽な話ではない。
もっと基本的で表面的な、……つまり「顔の仕上げ方」(汗)の問題ではないかと。
くどいようだが、全体としては及第点どころか、素晴らしい出来映えだったと思うのだ。
声が良いし、歌など余裕で歌えてしまうし、芝居の呼吸も見事だった。
脚本の不備がほっくんの力量で救われている箇所も多かったと思ったくらいだ。
今回特に努力が要った箇所は、強いて言えばタップダンスか?とは思うが(笑)
それだって体のキレも良いし、背丈もあるし、何も注文などなかった。
昔から、ほっくんに注目して来た者としては、「萌え」ポイントもたくさんあった。
だからこそ、あのビジュアルのちぐはぐな印象は、どうにも惜しいと思ったのだ。
素材として「あかん」というタイプ(逃)なら、諦めようもあろうが、
ほっくん本人には、とりたてて難はないと思えるだけに、よけいに残念だった。
一方、私のもうひとつのお目当てであった「皇帝」役のソル(磯野)さんは、
期待以上に見事だった。
主役コンビのふたり以外では唯一、ポスターにも登場する役で、
劇中での意味合いもとても味わい深いものだった。
今のソルさんに、こういう役が回ってきたことを、ファンとしてとても嬉しく思った。
ソルさんは、チェンバレン役の風莉じんを従えて主役の両脇を固めていて、
このふたりのそれぞれの充実ぶりも、観ていてとてもとても豪華だと感じた。
終盤の、力のある歌のソロも、存在感とともにさすがはソルさん!だった。
そう考えると、北翔・磯野・風莉と言った鉄壁の実力派たちに演らせるには、
今回のは若干、脚本のほうが軽すぎたかもしれない、という気もした。
もっと重い手応えのある話であっても、この面々なら十分に応えただろうと思う。
しかし、時期的に今は私のほうが、重い話を観たい気分ではなかったから、
こういう明るく後味の良い演目を楽しむことが出来たこと自体は、
決して、悪くなかった、とも思った。
終演時のほっくんの挨拶が、今回の震災に言及したものになっていて、
こんなときだから尚更、心を込めて演じたい・出来る限り幸せな気分を届けたい、
という彼女たちの思いが、私にもひしひしと伝わってきた。
一見するとたかが娯楽かもしれないが、実は平時とは言えないときのほうが、
彼女たち舞台人の果たす役割は、いつも以上に切実な意味があると思うし、
今も、そしてこのあとも、彼女たちでなければ務まらない仕事が、
まだまだ続くことだろうと、きょうのような日だからこそ、強く思った。
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