我が家は新築マンションだったので、
私は忘れていたのだが、この春、一年目点検を迎える。
点検に先立って、先般、チェックシートが配付され、
それには、各自、気になる箇所を記入して提出せよと書かれてあった。
一年目点検の時期にしか、受け付けて貰えない箇所もあるので、
めいめいで規約をよく読んで、気づいたところはとにかく指摘し、
この機会に直せるところは最大限、直して貰うのがよろしい、
と、先日の管理組合総会で理事長さんからもお話があった。
私は官舎暮らしが長かったので、要求水準が極めて低く、
キノコが生えない・壁がカビない・ムカデが出ない、というだけで、
このマンションは宮殿にも等しい上等な住まいに思われたのだが、
「チェックシート1枚では記入欄、足らんがな」
という住人もあり、こういう方の感覚からすると、私なんてのは、
「貧すれば鈍する」というのか、いやちょっと違うのか、
とにかく、これまでの基準があまりに情けないものだったために、
自分の判断力が、相当、破壊されていたことを痛感した。
洗面所の床材がところどころ浮き上がっている、とか、
フローリングの継ぎ目に、空いているところがある、とか、
和室の鴨居が若干、歪んでいる、とか、
リビングの壁紙の継ぎ目が不揃いに目立つ箇所がある、とか。
どんな小さなことも、「私の手入れが悪かったか?」などと遠慮せず、
ましてや私のように「住めるじゃん?オールオッケー」などと受け入れず、
努力してでも不都合を見つけ出してチェックシートを全部埋める、
というのが正しい「一年目点検」の利用の仕方だそうだ。
そうしないと資産価値が下がり、自分自身が損するだけだ、
と私はこのほど、住人仲間から新しい知識を授けられた。
まさに目からウロコだ。民間会社とのつきあい方をひとつ学んだ。
官舎では、クレームなんてつけたら、いけませんでした。
例えば和室の建具なんて、官舎基準では、
「ふすまの枚数が足りている」という時点で全然OKで、
仮に、サイズ的に変で、まっすぐ閉まらないとしても、
それをうかつに営繕課に言いに行ったりすると、
オマエが何かやったから歪んだんだろうと逆に因縁つけられ、
修繕費を取られるのが関の山なので、
極力、黙して、バレないようにするのが務めだった。
そういえば思い出したが、あれは松江だったか神戸だったか、
「網戸が破れている」
と私がその官舎に入居した当日に指摘したら、営繕の人に、
「いや、網戸はもともと官舎のものではないので」
と、かろやかに、いなされたことがあった。
網戸はそもそも、ついてないのが初期設定であり、
私の指摘した破れた網戸は、先住民が個人的に残した遺産だったのだ。
どんなもんだ、この「資産価値」とは別世界の出来事!
まだ元気だった舅が、ホームセンターに出かけて材料を買って来て、
くわえ煙草で作業して、網戸を全部、なおしてくれたものだった。
官舎の点検では、不都合は極力、隠してバレないようにする、
マンションの点検では、不都合は最大漏らさず、あばいて申し立てる。
私は、意識の転換をはからねば、としみじみ思った。
追記:・・・・・・という話をするまえに、主人に、
「なんかチェックシートに書くことある?」
と聞いたら、
「いや、全然?なんも気づいたことないけど?水とかもちゃんと出るし」
という返事だった。
彼も、やはり官舎暮らしで魂を汚染されていたようだ。
Trackback ( 0 )
|