本日10月20日は、イーヴォ・ポゴレリチの誕生日だ。
1958年生まれの彼は、きょうで56歳。
新プログラムによるリサイタルが、欧州各地で好意的に迎えられている由、
太平洋のこちら側から、とても嬉しく思っている。
私がファンサイトを始めた10年前には、
ポゴレリチのコンディションは決して良いとは言えず、
検索で見つけることのできた数少ない演奏会情報も、
当日を待たずにキャンセルとして消えてしまうことが、ままあった。
契約が履行された演奏会も、困惑や論争のもとになるものが大半で、
皆がかつて知っていたポゴレリチというピアニストは既に失われてしまった、
と考えた人も当時は少なくなかった。
それが最近の数年に至っては、どうだろう。
ほぼすべての演奏会が予定通り、精力的に行われているだけでなく、
協奏曲もリサイタルも、新シーズンには完全に新しいプログラムとなり、
かつ、それらが着実に好評を博している。
『ivo il divo』、『Le Retour du Roi』、『Pure Meisterschaft』、
ヨーロッパの公演評には、彼の演奏の成果を認める見出しが並んでいる。
ファンとしての私は、年々、満たされていることを感じている。
90年代同様、毎年、あるいは隔年で、来日公演を行ってくれるようにさえなった。
もうこれ以上、欲張ってはいけないのかもしれない。
しかし、あと一つ、彼に果たせていない、大きな仕事があるとすれば、
それは、録音活動への復帰ではないだろうか。
90年代までは、およそ年に一枚のペースでディスクを出してきた彼が、
95年録音の『ショパン:スケルツォ集』を最後に、
この20年近く、全くスタジオから遠ざかっている。
かつてグールドが聴衆に背を向け、理想とするスタジオに籠もったのとは逆に、
ポゴレリチにとって価値ある演奏の場が、今ではコンサートホールだけになった、
というのであれば、それはそれで、私なりに支持したいとは思う。
彼の今の音楽は、果たして録音というかたちで記録可能な性質のものなのか、
聴き手としての私も確信の持てないところがあるのは事実だからだ。
しかし、9年ほど前の夏、ポゴレリチは明確に言っていた。
「私は、アーティストにとって録音は義務であると思っている」と。
今もその考えが変わっていないのであれば、
ポゴレリチにはどこかでもう一度、レコーディングスタジオに戻ることを
考えて貰いたいと思う。
このままでは、彼の姿は今後、公式的なディスクに記録されることなく、
1995年9月の時点で停止してしまうことになる。
2012年の復活以降のポゴレリチを知るのは、演奏会の場で彼を聴いた者だけ、
……というのは、将来のことを考えたとき、やはりあまりにも残念だと
私は思わずにいられない。
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